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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
Stronger Than Pride

始めての苫小牧探訪。山塚リキマルが見た、地元を愛する不良たちの文化

2024.10.8

#MUSIC

腰抜けに思われることなく、人々の気持ちを汲むには、特定のリズムを持っていなければならない。

ジョージ・クリントン

ぼくにとってかけがえのない人間とは、なによりも狂ったやつら、狂ったように生き、狂ったようにしゃべり、狂ったように救われたがっている、なんでも欲しがるやつら、あくびはぜったいしない、ありふれたことは言わない、燃えて燃えて燃えて燃えて、あざやかな黄色の乱玉の花火のごとく、爆発するとクモのように星々のあいだに広がり、真ん中でポッと青く光って、みんなに「ああ!」と溜め息をつかせる、そんなやつらなのだ。

ジャック・ケルアック

人生初めての苫小牧

苫小牧に行ってきた。一泊二日の取材旅行であった。僕はチャキチャキの道産子だが、じつは苫小牧の地に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。というと驚かれる人もあろうが、道民っていうのは結構そんなもんである。何せ日本の国土の二割強は北海道なのだ、それほど広大な島を網羅している人はまれで、意外と行ったことない街ってのがそれぞれあるものなのだ。そして北海道の地域差というのはすごくて、たとえば市街地でシカやキツネを見かけると札幌民は軽くはしゃぐが、帯広民とか旭川民は「ふーん」ぐらいの感じだ。稚内民ならリアクションさえ取らぬだろう。気温や気候、喋り方までも違ったりするし、なんというか北海道はひとつの「国」なのだ。地域ごとのグラデーションがマジで半端ないのだ。この振れ幅のデカさは単に土地が広いというだけでなく、ほぼ全員が移民という特殊な成り立ちもおおいに関係していると思うが、まぁとにかく人生で初めて苫小牧に行ったのだ。結論から先に申し述べるが、楽しかった。不当なまでに楽しかった。「こんなんが仕事でいいのかな?」という疑問が幾度となく襲ってきた。そしてそのたびに「いいんだよーん」と言った。ここではその一部始終を語っていこうと思う。

新千歳空港に着いたのは13時頃だった。空港に着いてまず初めに思ったのは「今日ってどういう系の取材なんだろう?」ということだ。僕は「苫小牧で取材をする」ということ以外、事前に一切何も知らされていなかったし、空港に着いた後どうするのかさえ解っていなかった。どうしようかな、もういっそサッポロクラシック(北海道限定の神美味いビール)を飲んでしまおうかなと葛藤していると、ほどなく加藤君が迎えに来てくれた。いそいそと車に乗り込み、「今日ってどういう系の取材なの?」と聞いたら、加藤君は「苫小牧で俺がよく行ってる店をハシゴしまくる街ブラ系ロケって感じですね。苫小牧の魅力を発信する的な」と答えた。「ということはつまり」「最終的に飲み歩きです」。

OK、のぞむところだ。

山塚リキマル(やまつか りきまる)
SF(ソウルフル)作家/テンション評論家/プロ遊び人。‘22年と’23年にリリースした自主制作誌『T.M.I』が歴史的小ヒットを記録。ヤングラヴというR&Bバンドで語りを担当するほか、ネオ紙芝居ユニット・ペガサス団でも活躍中。

ウトナイ湖

まず最初に行ったのはウトナイ湖だった。国指定の鳥獣保護区でありラムサール条約の登録湿地にもなっているという、かなり有名な湖らしい。結構デカかったが、深さは膝丈ぐらいしかないそうだ。

ウトナイ湖

で、ラムサールのお墨付きというだけあって、とにかく鳥がめっちゃいた。そして至るところに白鳥のうんこが散乱していた。白鳥のうんこに注意を促す旨のプラカードさえあった程だ。加藤君は白鳥のうんこをまじまじと見つめながら「ふーむ、鳥のわりには結構ちゃんとしたうんこしてますね。人間っぽい」と言った。そしてほどなく、本当に白鳥とエンカウントした。奴はめちゃくちゃ人間馴れしているのかこちらには一切目もくれず、ひたすらに芝生にはえたクローバーのみをモリモリ喰っていた。

それから僕たちは周囲を散策し、長渕剛のスタジオにはトレーニングルームがあるとか、堂本剛はアンプの上に石を置いているらしいとか、そんなウワサ話をしながらふたたび車に乗り込んだ。

苫小牧市民会館

次に行ったのは『FAHDAY』の会場となる苫小牧市民会館だ。1968年につくられた由緒ある建物だそうだが、シンメトリーかつ奥行きがあって、壁材のパターンや窓のかたちには微弱なSF感(たとえばスタートレックのような)が漂っている。

1400名を収容する大ホールの音響はすばらしいそうで、矢沢永吉や山下達郎なども使ったことがあるのだという。ヤザワは知らんがヤマタツといえばとにかくハコの音響に厳しい事で有名だ。「音が悪いから」という理由で武道館ライブを拒み続けているあのヤマタツが出ているのだからして、たぶん相当にええ感じなのだろう。老朽化が原因で建て壊しが決まっており、『FAHDAY』が最後をしめくくるイベントになるという。駐車場をぼんやりとふらふらしながら、加藤君は『FAHDAY』の会場がここに決まるまでの経緯と、それにまつわる心情を話してくれた。その話はなかなか強烈かつ複雑で、僕は「やばいね」と何回も言った。そしてそのたび加藤君は「やばいっすよね」と不適な笑みを浮かべた。「わかりやすく敵がいた方が、戦いがいがある」と加藤君は言った。

加藤修平(かとう しゅうへい)
NOT WONK/SADFRANK。1994年苫小牧市生まれ、苫小牧市在住の音楽家。2010年、高校在学中にロックバンドNOT WONKを結成。2015年より計4枚のアルバムをKiliKiliVilla、エイベックス・エンターテインメントからリリース。またソロプロジェクトSADFRANKとしても2022年にアルバムをリリース。多くの作品で自らアートディレクションを担当している。

ELLCUBE(ライブハウス)

それからELLCUBEへ行った。ここが苫小牧で唯一のライブハウスなのだそうだ。取材前日まで行われていた野外音楽フェス『活性の火』の撤収作業まっ只中で、疲れ顔のスタッフの方々が右往左往している中をちょっとだけ見学させてもらった。フロアもステージも結構広めで、かつてNOT WONKの企画で368人入れたことがあるそうだ。そこはかとなく名バコの雰囲気が漂っており、加藤君は「北海道で一番音がいいハコだと思う」と言った。

苫小牧中央公園

『活性の火』が行われていた苫小牧中央公園へと向かうと、こちらも撤収作業が慌ただしく進んでいた。活性の火は2日間ぶっ続け8時間、4会場を使用しておこなわれる北海道でも最大規模のフェスだそうで、しかも入場無料だという。去年度は18,000人を動員したというから凄い。百万人都市の札幌市でもそんなことはありえない。苫小牧の地には、インディペンデントを目指しそれを成し得るための特別な土壌がそなわっているのだろうか?

おうちコーヒー(カフェ)

そんで気がつけば15時を回った。ここらでコーヒーブレイクっつうことで、おうちコーヒーという加藤君行きつけのカフェへとシケ込んだ。写真を見てもらえば解る通り「おっしゃれー!」としか言いようがないステキ空間で、「うわぁ、ここ行きつけなのヤバいね。羨ましい」とつぶやくと、加藤君は「俺にはこの店があるんすよ」と自慢そうな笑みを浮かべた。

オーナーの麗美さんが淹れてくれたコーヒーはすこぶる美味しかった。エルサルバドル産のコーヒーはまるでワインのような芳醇な口当たりだったし、コロンビア産のレッドプラムコーヒーはトロピカルフルーツティーみたいな彩度の高い味わいがあった。おうちコーヒーでは、コーヒーの特徴をしるしたメモ用紙がカウンターのところに貼り付けられており、「おひさしぶりのLeaves Coffeeのローストです!! すごいハマショ。全部のボリュームが最初からすごい。情報量が多い。香りや味やテクスチャや色々がどどどっと押し寄せてアフターも強い強い」などドライブ感のある文章が連ねられている。

僕が興味深く拝見していると、麗美さんはにこにこ笑いながら話してくれた。 

「味の説明ってむずかしくて、たとえばフルーティで香りはこうで、って具体的に説明したいんですけど、そうすると逆にどんどん遠ざかるというか。まえに『ギャルが乗ってる車の味』って書いたことがあるんですけど」

「ああ、イメージはなんか伝わる気がします。深夜のドンキとかに停まってる黒のBBみたいな。ルームミラーからマリファナの形の芳香剤がぶら下がってるようなヤツ」

「私的には結構いい表現だと思ったんですけど、友達に『何それ!?』って言われて」

「イメージを共有するって便利なやり方ですけど、受け手の感覚を信頼してないと出来ないですよね」

CINEMA TAURUS(ミニシアター) 

そののち、夕方の商店街をしばし散策した。歩きながら加藤君は、あのラーメン屋はヤンキーが多いけど美味しい、あの寿司屋は人気ある名店、あのバーは……と、いろいろ説明してくれた。とにかく美味しい店や面白いスポットをたくさん知っている。苫小牧に遠征で来たバンドをアテンドしてるうちに詳しくなったそうだ。僕の地元は北海道のF市だが、30年も住んだのに美味しい店も面白いスポットもほとんど知らない。

散策しながら50年の歴史を誇るというボウリング場、苫小牧中央ボウルに行った。ここの1階にあるCINEMA TAURUSはいわゆるミニシアターだそうだが、ポスターを見ると上映ラインナップがかなりイケている。地方都市の映画館ではおよそ有り得ないセンスだ。「俺、ここで『サマー・オブ・ソウル』観ましたよ」と加藤君が言っていたが、こういうトコもしっかり良質なあたり苫小牧は凄い。中央ボウルもかなり雰囲気たっぷりのオールドスクールなボウリング場で、地元バンドも撮影なんかに使ったりするらしい。“Your Name”の撮影で使ったというマンションの壁面も見にいった。白いペンキが塗られたコンクリートの壁にはまだうっすらと「Yo」と「Na」の文字だけが残っていた。 

立呑キング(居酒屋)

そうして街が暮れなずむ頃、そろそろ飲み出しますかってんで立呑キングという居酒屋へとお邪魔した。髭楽団というバンドのベース奏者である金田隆典さんがここの大将で、店の前には超クールな日産のクラシックカーが停まっていてもうすでにカッケーなとか思っていたのだが、店内もやはりカッケかった。

シンプルかつ激シブな設えはビッとしていて、なんというか媚びていない感じがする。冷えた生ビールを飲みながら、いっけんコワモテだが気さくで優しい金田さんとアレコレ世間話を交わす。どさんこワイド(道民なら誰もが知っているローカル情報バラエティ)を観ていると、来週苫小牧で行われるというフェスの宣伝をやっていた。「すっげーお金かかってんなー」「やっぱ宣伝だよねー」などと言ったりしながら、僕たちはビールを飲んだ。

Bar Old(ライブバー)

んで、そろそろ飯でも食おうかってんで、Bar Oldへと行った。お店へと向かう道すがら、シオン君というバンドマンの子と会った。これから札幌に行ってスタジオに入るのだという。がんばってね、といって手を振り別れた。さてBar Oldだが、DJブースや弾き語りが出来るステージもある本格的なライブバーであるいっぽう、飯もまた本格的だった。静岡風おでんとヴィーガンまぜそばをいただいたのだが、ダシ粉のかかった黒はんぺんも絶品だし、お好みで原酢をかけて食べるまぜそばはやや固めの麺とカボチャと春菊の食感が絡むアンサンブルがすばらしかった。舌鼓をブラストビートで打ちながらまたたく間に完食してしまう。

ピースフルであたたかな空気がただよう店内にはオザケンがかかっていて、それがまた多幸感を加速させていた。オーナーのクロゴメさんはかなりノリのいい人で、奄美大島の黒糖焼酎やウォッカを出してくれたりして、僕らはそれをがんがんやりながら「いや〜(笑)」とか言ってあれこれ話した。

「こないだ友達が、『総理大臣は日本でいちばん友達が多いヤツがやればいい』って言ってて、それ結構アリかもなって思ったんだよね。『友達多いヤツが偉い』みたいな価値観でいきたいワケじゃないんだけどさ」

「でもまぁ、政治家はパーティオーガナイザーの資質は必要っすよね」

そんなふうに政治とか音楽とか友達のことについて、とっちらかった居酒屋放談をあてどもなく続けた。加藤君はNOT WONKでZAZEN BOYSと対バンしたときの話をしてくれた。

「ライブ終わった後に楽屋に挨拶に行ったら、向井秀徳さんが『俺が今までレコードで聴いてきたレスポールの音がする』ってひとこと言ってくれたんですよ。それ以上でも以下でもなく。最高の褒め言葉だと思いました」

この時点で僕はもうしこたま酒をきこしめしており、前日も午前2時まで飲んでいたという加藤君は僕の倍は飲酒していたが、さらに移動して、もうひとつ居酒屋へと向かった。しかし何ということだろうか、この日はたまったま、珍しく休みだったようで、僕らはCLOSEDしているトビラの前で地団駄を踏んだ。ちくしょー。この日会った人たちはみんな口を揃えて「あそこは最高」「飯がマジで美味い」と言っていただけに、このタイミングで行けなかったことが悔やまれる。

悔しまぎれに僕たちはメインストリートから一本ずれたところにある、プレハブ小屋が立ち並んだ横丁へ行き、一軒のくしかつ屋へと入った。無愛想というよりは放任主義的な感じのする老店主が揚げるくしかつは美味しかった。ビール(ハイボールだったかも)を飲みながら、僕らは音楽の話をした。僕がさいきんJ-POPに凝っているという話をすると、岡村孝子の『liberte』というアルバムを薦めてくれた。シンセの音色や使い方が当時のUKロックのナウいところをばっちり抑えていて、かのボビー・ギレスピーも在籍していた伝説のバンド、The Wakeにもどこか通じるものがあるのだという。他にも平井堅の“KISS OF LIFE”は2ステップビートがカッコいい、とかいろいろ僕に教えてくれた。 

bar BASE(DJバー)

くしかつ屋を出て、今晩のシメとなるDJバー、bar BASEへ繰り出した。照明は暗めで、落ち着いた雰囲気の、いわゆる隠れ家的バーといった感じだったが、びっくりするぐらい音が良かった。

それも結構な音量を出していて、スピーカーの近くに立つとほとんどクラブと変わらないぐらいなのだが、にも関わらず普通に会話ができるのである。かつてNYに存在した伝説のディスコ、パラダイス・ガラージはどれだけ大音響でもフロアの真ん中で客同士がしゃべれたという逸話を思い出す。真に良い音は、コミュニケーションを妨げないのだ。バーカウンターに座っておしゃべりに興じてもいいし、スピーカーの近くに立って踊ってもいい。自分の好きなやり方で、音楽とかかわることができる。コーヒー焼酎を飲みながら僕は加藤君に、今日がどれだけ楽しい一日だったかということを力説した。加藤君は嬉しそうに微笑みながら、何度もうなずいていた。

「昼〜夜〜朝までの流れができてるんですよね。昼コーヒー飲んで、夜に飯食って酒飲んで、朝まで踊るみたいな。今日行った店は全部横のつながりがあって仲良いんですけど、店のカラーはどれも全然違うから飽きないんですよ」

「ウン、加藤君が苫小牧にずっと軸足を置いてる理由が、今日よくわかった気がする。すげえ単純に、全部地元にあるからなんだね」

「そうなんすよ。別に東京とか行かなくても、これでいいじゃんって。一生これでいい!」

顔こそまったくのシラフに見えたが、かなり上機嫌だった加藤君は苫小牧の音楽シーンについて話してくれた。曰く、苫小牧のシーンは札幌などとはまったく違う、独立した確固たるシーンがあること。1990年代には北見のパンクシーンと密接な関係があったこと。熱っぽい口調で語る加藤君をみながら僕は「地元に誇りを持っているんだな」と思った。

北海道のバンドというのは、ともすれば「北海道」のヒトコトで片付けられることが多い。「北海道っぽいよね」とかなんとか言って。下手すると札幌こそがオルタナティブの激震地であり、それ以外の地域はそのフォロワーというか分家みたいに捉えるような乱暴な意見すらある。でも一番最初に書いた通り、北海道はマジでひとつの国のようなもので、地域によって気候や文化も大きく違う。グラスゴーとマンチェスターが全然違うように、札幌と苫小牧もまた全然違うのだ。「北海道」とひとくくりにされることや、札幌と苫小牧をごちゃまぜにして語られることに対して、加藤君は違和感を表明する。それはつまり、ナメんなMINDである。地元に誇りを持つ不良は、だいたいこのMINDをもっている。あらゆるシーンはこうしたMINDからかたちづくられる。東京がなんぼのもんじゃい、札幌がなんだっつうんだ、俺はレペゼン苫小牧だ——そんな気持ちが加藤君の口ぶりからは伝わってきた(こんなダサい言い回しはしないだろうけども)。

BASEで過ごした数時間は本当にすばらしかった。とくにANA MAZZATTIの“FEEL LIKE MAKIN’ LOVE”のカバーがかかったときなんかは、幸せで幸せで幸せで幸せで、たとえいまここで死んだとしてもまぁ別にあきらめがつくな、とすら思った。

海外からこちらに働きに来ている青年客がこの日誕生日だったらしく、サプライズのバースデーケーキが登場するという微笑ましいヒトコマもあった。DJがNOT WONKの初期曲をかけたとき、加藤君がダッシュで店を飛び出したのには笑った。加藤君は照れ笑いを浮かべながら「いま聴くと低音とか弱すぎて恥ずかしいんすよ」と言った。でもそのあとすぐにTHE BLUE HEARTSの“キスしてほしい”が流れて、僕らはすぐに店に戻って踊った。<どこまで行くの 僕たち今夜 このままずっと ここにいるのか>という一節が、あまりにもいまの自分たちの状況にマッチしすぎていて笑った。甲本ヒロトはいつも本当のことだけを歌う。

3時前、疲労とアルコールでずぶずぶになった身体を引きずりながら外に出た。ELLCUBEがもっているゲストハウスまで加藤君が案内してくれた。途中、立呑キングの前でバーベキューが行われているのが見えたので、ちらっと挨拶に寄ったところ、気がついたらまたビールを飲んでいた。時間も時間だったので宴もたけなわという感じだったが、楽しいひとときだった。良い一日の終わりには、こういうボーナストラック的な時間があるものだ。ベロベロで店を後にしゲストハウスへと辿り着いた。かなり立派な一軒家で、至るところにバンドの物販や機材が溢れかえっており、ベッドは6つか7つあった。完全に酔っ払っていた僕は「加藤君のためだったら何でもするよ、俺は」と言った。加藤君はただ笑っていた。加藤君が帰ると、気絶したように眠った。

苫小牧2日目

翌日の昼過ぎぐらいに加藤君が迎えに来た。車に乗り込み、安くてとても美味しいという海鮮丼屋に向かったのだが、なんとこの日はたまたま休みだった。

完全に海鮮丼の口になっていたので少々ガッカリしたが、気を取り直して港の近くの市場へ行き、味噌ホッキラーメンを食べた。美味かった。苫小牧はホッキ貝が有名なのだそうだ。それから海へ行った。遊泳禁止の海だそうで、砂浜に打ち寄せる波は強くて荒々しかった。こんなところで泳いだら死んでしまうだろうなと思った。

そしてそのあと、苫小牧市民会館へ行った。今日は関係者が集まる打ち合わせがあるそうで、14時になるとゾロゾロと人が集まってきた。昨日会った人ばかりだった。和気藹々と笑いながら、ここにステージを組んで、ここをメインゲートにして……と話し合っていた。全員イケてる不良だと思った。不良はDQNとは違う。不良とは美学や信念にもとづいてキッチリ筋を通し、あらゆる種類の遊びに長けた、機知と度胸のあるストリートの手練れのことだ。加藤君は「このメンツ、頼もしいっすよね」と嬉しそうにいっていた。

メインステージとなる大ホールも見学させてもらったが、想像以上にすばらしかった。クラシカルに荘厳で、でもラグジュアリーさも内包した魔法的空間。こんな場所が取り壊されてしまうなんて本当に残念だと思ったし、こんな場所でEGO-WRAPPIN’のライブが観れたら本当に最高だろうなと思った。

16時過ぎに打ち合わせが終わると、ROOMへと向かった。ROOMとは、ROOTSというクラブが持っているスペースで、それを地元バンドのBANGLANGがスタジオに改装し練習やイベントに使っているのだという。BANGLANGのMVを、この両日撮影してくれた佐藤君が手がけるというので、ちょっと挨拶がてら見学に行ったのだ。詳細は公開されてのお楽しみということで避けるが、かなりおもしろいMVができそうな気配だった。

原チャリにまたがったボーカルの太遥は、1980年代の男性アイドルのような輝きを放っていた。美男でもイケメンでもなく、「ハンサム」という呼称がよく似合う男だ。ROOTSも少しだけ中に入らせてもらったが、実にクールなたたずまいだった。黒を基調としたソリッドな内装と、踊りやすそうなフローリング張りのフロアは、名バコのオーラがぷんぷんに漂っていた。マーヴィン・ゲイの“I Want You”のジャケで有名なアーニー・バーンズの画風を模したと思しき絵が飾られていて、それもまたクールだった。とても音がいいという話もよく聞くし、一度遊びに来たいものだ。

そして最後、駅まで加藤君が車で送ってくれた。車中で加藤君は、いましがた届いたばかりだという、NOT WONKの新曲のミックス音源を聴かせてくれた。ベースレスのその音源は賛美歌のようなホーリーな空気に満ちていて、静かに斬新だった。夏の終りの高い空の下、暮れ始めた陽が、苫小牧の街をうすく黄金色に染めていた。助手席の窓から流れ行く景色をぼんやり眺めながら、僕らは黙ってその曲に耳を傾けた。まるで映画のエンディングみたいだと思った。そのシチュエーションはあまりにもできすぎていて、ちょっと気恥ずかしさすら覚えたが、でもとても清々しい気分だった。曲が終わるとほぼ同時に駅に到着し、僕らは車を降りて別れた。

「レポート、楽しみにしてます」

「うん。じゃあまた会おう」

握手を交わし、改札を抜けて、ホームで電車を待った。本当に楽しかったな、と思った。こんなんが仕事でいいのかな、と思った。だから僕は、つむじに両手の指先を当てて片足を上げるというクラシカルなポージングを取って、いいんだよーん。と言ったのだった。

NOT WONK 『Changed』

2024年10月4日 Bandcampにてリリース
https://notwonk-theband.bandcamp.com/track/changed

『FAHDAY2024』

日付:2024年10月12日 (土)

場所:北海道 / 苫小牧市民会館 全域(Area_1 / Area_2 / Area_3 / Area_4)

時間:Area_1 OPEN 12:00 / START 13:00
Area_2,Area_3,Area_4 OPEN / START 11:00

料金:Area_1:U-23 4,500円 / FAHDAY MEETINGチケット 5,000円 / 早割 6,000円 / 一般 7,000円 / 当日 7,500円
Area_2 / Area_3 / Area_4:無料

出演:Area_1 EGO-WRAPPIN’ / 踊ってばかりの国 / kanekoayano / NOT WONK

Area_2 GAK / 後藤正文 (※「Recent Report I」立体音響展示) / Tommy△ / WHITELIGHT / mAsa niwayama / 松浦陽 / マレウレウ

Area_3
DJ
君嶋麻里江 / KiNG KiNTA / DJ SADA / DJ FANTA / DJ FUMINN / 元晴 / DJ Yogurt

FOOD&SHOP
A LITTLE BIT. / ARCO / ARCH / IZAKAYA草-SOU- / ISHIBASHI COFFEE / いしかわぱん / おうちコーヒー / ON THE CORNER / 開運ラーメン / 串揚げ屋 丈 / GoGo食堂 / COFFEE KITCHEN TAPIO / さんぼんぎ / 白樺堂 / 鮨鷹 / TONCINI / のらのキンパ / haku生活用品店 / Pâtisserie A.B Racines / HARUの桜の木の下で / Pansal / FAHDAY MEETING OFFICIAL BAR (CLUB ROOTS / Bar Old / Bar Base / 立呑キング) / BROWN and ordinary. / Boogie / VERYCO / poponta cafe / またたび文庫 / meshi to oto / Mogu Kitchen / 焼き菓子 かぎねこ

Area_4
STAGE
KanryO / sheersücker / BANGLANG

INSTALLATION
桑島智輝 / 佐藤祐紀 / 小さなコーヒースタンド by おうちコーヒー / NEW SHOUTAROU × にわとりファミリー FAHDAY2024 特別展示 「The City Built In Memory」 / Mai Kimura

DECORATION
かとうたつひこ / CovoChillCamp / SUU / HAL

主催 / 企画:FAHDAY MEETING
(加藤修平 / IZAKAYA草-SOU- / おうちコーヒー / 株式会社 Bigfish / CLUB ROOTS / 立呑キング / 苫小牧ELLCUBE / Bar Old / Bar Base)
制作:FAHDAY MEETING / 株式会社 WESS / WHITELIGHT / wool100w
協賛:チケットぴあ
後援:苫小牧市 / FM NORTH WAVE

OFFICIAL HP:fahday.com
OFFICIAL X:twitter.com/FAHDAY_official
OFFICIAL Instagram:www.instagram.com/fahday.official/

<チケット詳細>
◾︎FAHDAY MEETINGチケット※無くなり次第販売終了
販売店舗:IZAKAYA草-SOU- / おうちコーヒー / CLUB ROOTS / 立呑キング / 苫小牧ELLCUBE / Bar Old / Bar Base

◾︎チケット一般発売
U-23チケット / 一般チケット
受付期間:7月6日(土)10:00〜10月11日(金)23:59
URL:w.pia.jp/t/fahday2024/

“FAHDAY2024″を主催する共催者たち
izakaya草-sou-, おうちコーヒー, 株式会社 Bigfish, CLUB ROOTS, 立呑キング, 苫小牧ELLCUBE, Bar Old, Bar Base

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