NOT WONK / SADFRANKの加藤修平が「自分自身」を探る連載「Stronger Than Pride」。SADEは愛と解いたこのお題、果たして加藤は何を見つけるのだろうか。最終回となる今回は加藤と、これまで取材 / 執筆を担当したライターの山塚リキマルのふたりで、これまでの内容を振り返りつつ、2時間たっぷり語り合った。
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自分で言うのもなんですけど、気はいい方だと思いますよ(笑)。
山塚:いやいや、全4回、あっという間でしたな。第1~3回はほぼノープランで、自然発生的なセッションを捉えるつもりでやっていたんだけど、最終回はこれまでを振り返りつつ、加藤くんのパーソナリティを考察する回にしようかと。
加藤:よろしくお願いします。

SF(ソウルフル)作家/テンション評論家/プロ遊び人。‘22年と’23年にリリースした自主制作誌『T.M.I』が歴史的小ヒットを記録。ヤングラヴというR&Bバンドで語りを担当するほか、ネオ紙芝居ユニット・ペガサス団でも活躍中。
山塚:この連載の目標って、加藤くん自身が知らない自分を発見するっていうのと、それからともするとシリアスに見られがちな加藤くんの、気のいいロック兄ちゃん的な側面も発信していきたいみたいな感じだったよね。
加藤:自分で言うのもなんですけど、気はいい方だと思いますよ(笑)。常に眉間に皺が寄ってるワケでもなくって。思った以上に構えられちゃったりするときがあって、それはオレ的にもそんなに嬉しいことではないので。
山塚:連載前のイメージでいうと、加藤くんってこっちの背筋が伸びるような人だなって思ってたんだよね。不良の先輩的な感じというか。加藤くんってビビってないし、舐めんなマインドが根底にある気がするから。
加藤:舐められちゃマズいな、っていうのはあるんですけど、舐められたくない感じが出てる人って舐めたくなるじゃないですか(笑)。リラックスしてない奴って分かるし、その感じも嫌だなって思ってて。
山塚:で、連載通して改めて感じたんだけど、加藤くんって気さくだよね。加藤くんはどのジャンルの人が来ても乗りこなせる人なんだ、っていう発見があったな。加藤くんって受け身が上手いんだなって。
加藤:「結局オレはどういう人間だったんだろうな」って考えてたんですよ。それでオレ、人の話を聞くの好きだから、話し上手っていうよりは聞き上手かもって結論づけたんです。基本受け身なのかもしれない。
山塚:あらゆるジャンルの人に対して、フェアだしフラットだなって思う。さっき出た話だけど、加藤くんはデフォルトでリラックスしてるというか、結構何が起きてもうろたえないよね。
加藤:会話のスピード速い人っていっぱいいるじゃないですか。自分の言いたいことを即座にまとめられる、インプロ上手な人。昔はそういう速さこそが至高っていうか、自分のアイディアをいっぱい的確に発せられることがカッコいいと思ってたんですけど、速さって実はそんな大事じゃないのかもな、って。そこに終始するコミュニケーションに興味なくなっちゃって。

NOT WONK/SADFRANK。1994年苫小牧市生まれ、苫小牧市在住の音楽家。2010年、高校在学中にロックバンドNOT WONKを結成。2015年より計4枚のアルバムをKiliKiliVilla、エイベックス・エンターテインメントからリリース。またソロプロジェクトSADFRANKとしても2022年にアルバムをリリース。多くの作品で自らアートディレクションを担当している。
山塚:ふ~む。加藤くんって野球やってたじゃん、その中でのポジションってどんなだった? クラブチームでの立ち位置というかキャラってそれぞれあるじゃん。
加藤:前に出てウケを取りに行ったりするような人間ではなかったかなぁ……そのクラブの友達とは、言葉遊びとかで遊んでた記憶がありますね(笑)。
山塚:てぶくろ反対から読んで、みたいなそういうヤツ? ピザって10回言って、とか。
加藤:もうちょっと高度な遊びをしてたような気がするんですけど(笑)。すぐチンチン出したりするようなタイプではなかったですね(笑)。
山塚:チンチンね(笑)。この取材前に友達と話してたんだけど、札幌のオレら界隈と比べると加藤くんってやっぱ圧倒的に汚くないよねって話してた(笑)。
加藤:汚くないって衛生的な意味でですか?(笑)
山塚:いやもう、あらゆる意味で。笑いの取り方のダーティーさとか(笑)。加藤くんってやっぱ品あるなって思うね。食べ方とか綺麗だし。
加藤:(笑)。魚とか食うの上手いっすね、オレ。
山塚:昔、人づてに聞いたんだけど、加藤くんと元熙(※)が飯食ったとき、元熙の食い方があまりに汚すぎて加藤くんが指導したみたいな話、笑ったな。
※津坂元熙:札幌のポストハードコアバンド、CARTHIEFSCHOOLのベーシスト
加藤:ススキノの吉牛行ったときかな? 米粒いっぱい顔に付けながら食べてる元熙見て、「いやさすがに!」と思って(笑)。ハシをこう持って、丼を持ったら食べやすいよとか言って(笑)。
山塚:親にマナーとか結構しつけられた?
加藤:そんな厳格な家庭ではないですからね、ウチも。男4人兄弟で、母ちゃんが一番強くて、食卓が山賊みたいになる家ではあったっすけど。

山塚:おかず取り合う的な?
加藤:いや、うちの母ちゃんは「足りない」って状況を絶対作らない性分で、米一升炊くみたいな家だったんですよ(笑)。
山塚:4人兄弟って普通にケンカとか多そうだけど。
加藤:しなかったっすねえ、今でも仲いいし。一番上の兄貴が5個上なんですけど、身体もデカいし空手もやってたから圧倒的に強者で、そこで統制取れてましたね。ケンカにもならない。支配っていうか(笑)。
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自分が健康的に続けていくためにはどうしたらいいのか、ってことに気持ちが向いてる。
山塚:加藤くんは去年30歳になったんだよね?
加藤:そうです。
山塚:30代の抱負、って言ったらアレだけどさ、「この歳までにこうなりたい」みたいなイメージとかってあったりするの?
加藤:う~ん……去年、『FAHDAY』(※)をやったじゃないですか。25歳ぐらいの頃に、「30までに苫小牧の人たちと大きな何かをやりたい」って思ってたんで、 それは出来たなって感じですね。20代前半のときは、バンドでガンガンやってる先輩たちの背中がすごく遠くって、「アレには勝てないな」って気持ちがあったんですけど、この歳になると辞めてったヤツの背中のほうが近いじゃないですか。先輩でも30過ぎて音楽から離れちゃったり。そういうものの近さのほうが怖い。もちろんそんな気はないけれど、そうなる可能性は絶対あるじゃないですか。音楽を続けたかったけど辞めざるを得ないような状況はきっとあって。いまは自分が健康的に続けていくためにはどうしたらいいのか、ってことに気持ちが向いてますね。
※加藤修平が発案者となり2024年10月に地元北海道苫小牧で開催された表現の交換市(オフィシャルサイト)
山塚:なるほど。続けるって大変なことだけど、20代と30代ではその大変さの質はかなり違うよね。
加藤:12月の頭に、札幌のPrecious HallでPROVOの周年パーティーがあったときに、 夏目さん(Summer Eye)が来てたんですよ。で、夏目さんと飲んでたら今みたいな話になって、自分が音楽できなくなったとき、それによって凹むヤツの顔がだんだん見えてくるよねって。仮に、NOT WONKってバンドが解散したり、オレが音楽活動をやめたとしたら、それは目も当てられないぐらい最悪な結果だと思うんですよ。すべての可能性を潰しちゃう感じというか。だから辞められないっすよね、って夏目さんに話したら「シャムキャッツが解散したとき、オレも全く同じ気持ちだった」って言ってたんですよ。
山塚:続けるって、いろんな方向で努力が必要だよね。オレの周りのバンドマンも、20代後半からみんな急に健康に気使い出したもん。それまで毎晩大酒飲んでベロベロになって路上で寝てたのに、急にストレッチとかやり始めて。やっぱ身体が資本なんだなって思う。

加藤:マジでそう思いますよ。追いつかなくなるだろうなっていう。
山塚:それの究極がミック・ジャガーとかなんだろうな。
加藤:こないだ、エレカシ宮本浩次の新曲が出たんですよ。それがめっちゃヤバくて、2ビートなんです。2ビートっていうかDビート(※)みたいな。しかもあんまり上手くいってる感じがないんですよ。マジでこれをやりたかったんだな、って感じしかなくて。
※DISCHARGEを源流とするハードコアパンクのリズムフィギュア
山塚:これヤバいね。ロボットアニメのOP系の込み上げ感が満載。
加藤:その感じかも。続けられている人は、単純にやりたいことがずっとあるんだなって思いました。
山塚:こないだネットニュースで見たんだけど、プリンスの未発表曲って8000曲ぐらいあるらしい。西暦3000年まで毎年アルバムを出せる計算なんだって(笑)。
加藤:曲をたくさん書けるってすごいなって思うんですよね。たまに聞くじゃないですか、今回のアルバムは200曲書いた中から選んで制作した、みたいな。僕はそのやり方が全くわからないというか、「作ってるときにわかんねーのかな?」って気がするんですよ(笑)。
山塚:もうちょっと照準合わせろと(笑)。
加藤:そうそうそう(笑)。作るだけだったら出来るんですけどね。一部分を変えれば違う曲って言い切れちゃうし。こないだの(香田)悠真くんとの対談のときにも話しましたけど、やっぱアーカイブ欲があるんですよ。作っている瞬間からそこが満たされてないと。

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人から認められてるとはあんまり思ってないですけど、自分のやってることが間違ってるとも思ってない。
山塚:そういえばNOT WONKの新譜『Bout Foreverness』、聴かせていただきまして。めっちゃカッコいいね。カッコいいとしか言えない(笑)。
加藤:あ、ありがとうございます(笑)。
山塚:それで、NOT WONKの1stってどんな感じだったっけ? と思って、遡って聴き返したりしたんだけど。で、加藤くんってやっぱ歌超上手いなって思った。加藤くんってソウルシンガーなんだなって。
加藤:マジっすか。
山塚:あくまで主観だけど、同時代の、同世代の、圧倒的に歌が凄いロックボーカルとして、踊ってばかりの国の下津くんと加藤くんって、オレの中でツートップ的な存在なんですよ。でも2人はシンガーとしてとても対照的だと思う。取材したとき、下津くんは歌詞とメロディが同時に出てくるって話してたんだけど、加藤くんは圧倒的にメロディが優位だって言ってたよね。
加藤:そうですね、一回思いついたメロディを忘れることってあんま無くって。こういうメロディを歌えたらいいな、っていうストックは頭の中にいっぱいあるんですよ。テンポ感とか使う楽器の種類とか込みでイメージがあるんですけど。下津さんってやっぱフォークシンガーじゃないですか。

山塚:フォークとブルースだなって思う。
加藤:歌詞のはみ出し方とか、憧れる部分ありますね。一昨年かな、苫小牧に下津さんが弾き語りで来てくれたとき「加藤ちゃん一緒にやろや!」って誘ってくれたんですけど、認めてくれてる! って思って嬉しかったんですよね(笑)。オレ、あんまり人から認められてると思ってないんですよね。
山塚:あんまり好きな言葉ではないんだけど、それはいわゆる自己肯定感が低いみたいなこと?
加藤:うーん……人から認められてるとはあんまり思ってないですけど、自分のやってることが間違ってるとも思ってないんですよ。伝わると思ってやっているけど、そんなに簡単に伝わるものじゃないとも思うし。だから「良い」とか「凄い」とか言葉にして言われると、おだった犬みたいになる(笑)。
山塚:連載の第2回で聞いた話だけど、向井秀徳さんに「オレが今までレコードで聴いてきたレスポールと同じ音をしている」って言われたのとか、すごくいいエピソードだよね。
加藤:飛んでくると思ってなかった方向から飛んでくると、ビックリしますよね。
山塚:誰のリアクションもない環境にいたとしても、音楽やると思う? たとえば無人島に一人、加藤くんが取り残されたとしても、そこで曲作ったりする?
加藤:ずっと歌ってそうな気はしますね。ずっと歌ってるんすよ、オレ。無意識に口笛めっちゃ吹くし、耳に残ったCMソングとかもすげえ歌うし。楽天カードのヤツとか(笑)。
山塚:鼻歌とか歌う?
加藤:めっちゃ歌いますよ。
山塚:根本的に歌うことがめっちゃ好きなんだね。あのさ、日本の音楽教育のあり方を批判したいとかそういうワケじゃないんだけどさ、日本の音楽の授業って、むしろ音楽を嫌いになる方向に仕向けてるじゃん。

加藤:そうっすね。音楽って恥ずかしいことって刷り込まれますからね。
山塚:合唱コンクールとかさ、ノーミスクリアこそが正義って価値観があるよね。オレもそういうのがトラウマ化してたから、人前で歌ったり演奏するなんてとんでもない事だってずっと思ってた。
加藤:オレもそうですよ。だから歌わなくていいように指揮者やってました。「合唱とかめんどくない?」みたいな集団心理があるじゃないですか、そこで「めんどくないよ!」とは言えなくて。中学のときとか皆に合わせてたんですけど、でもいざ本番になって、めんどそうに歌う事だけは出来なかったんですよ。そういう風に歌うのは嫌だなって。小学校のときは凄く合唱好きだったんですよ。
山塚:そうなんだ。
加藤:僕が通ってた小学校は人が少なくて、全校生徒で10人いるとかいないとかだったんで。だから学芸会のときは全校合奏だったんですよ。全校生徒で一曲を演奏するっていう。
山塚:1年生から6年生まで? 凄い。
加藤:1年の子はタンバリンとか鍵盤ハーモニカで、上級生になるにつれシンセとか木琴をやるみたいな。オレが6年生のとき、『ハウルの動く城』のテーマを全校合奏でやったんですけど、それがヤバかった記憶がありますね。オレはそのときピアノをやったんですけど、本番が素晴らしくて。小学生だから全然演奏は下手くそなんですけど、凄く気持ち良かったんですよね。合奏ヤバ! みたいな。
山塚:それは良い体験だね。
加藤:そういう良い体験をしてたのに、中学に上がると素直じゃいれなくなっちゃったというか。シンプルにスレないといけなくなっちゃって。でも『ハウル』をやったときの気持ち良さを絶対自分では否定できなかったんですよ。だからせめてもの反抗として指揮者に立候補して。
山塚:そういう原体験があったんだ。久石譲の曲ってダイナミックさ半端ないもんね。あれ全員で演奏したら感動っていうか、トランスするよね。
加藤:すごいっすよね。坂本龍一とかもそうだけど、クラシカルなのにメロディがポップでわかりやすい曲がいっぱいあるじゃないですか。その強度ってヤバいなと思う。
山塚:久石譲も坂本龍一も、とても大衆的なメロディを書くよね。じーちゃんばーちゃんから小さい子供まで、誰が聴いてもいいと感じるような、最大公約数的なポップネスというか。
加藤:ムチャクチャいいですよね。
山塚:加藤くんは劇伴とかサントラってやった事ないんだっけ?
加藤:ないですね、リーバイスのCMはやった事ありますけど。映画音楽とかやってみたいですけどね。
山塚:好きなサントラ盤とかある?
加藤:『フィラデルフィア』って映画が好きで。ニール・ヤングがその主題歌をやってるんですけど、それは葬式でかけたいぐらい好きですね。
山塚:おお、これはサントラにSADEも参加しているんですな。
加藤:ぜひ聴いてみてください。音楽も映画自体も、すごく悲しいんですけど。
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ブームとかトレンドじゃなく、アルゴリズムから外れた何かを、なるべく受け取りたい。
山塚:この連載の裏テーマとして、加藤くんが苫小牧に軸足を置いてる理由っていうのがあると思うんですよ。失礼な話、これまでちょっと不思議だったんだけども。
加藤:あ、そうなんすね。

山塚:変な話さ、東京でライブするとしたら、東京にいれば交通費が丸々ギャラになるワケじゃん。飛行機代とかバカにならないし。
加藤:マジでそうなんすよ(笑)。もし東京で活動してたら、たぶんもうちょっといい暮らししてますからね。それに東京にいたら、クラブでも映画でも展示でも色々あるじゃないですか。
山塚:毎日何かやってるもんね。
加藤:アウトプットする場所もたくさんあるし。単に演奏するだけならどこでも出来ますけど、結局受け皿があるから表現が出来るってことも往々にしてあるじゃないですか。ニッチだったりカルト的な何かでも、思いついたことがパッとすぐ形にできるって、都会の強さだなって思うんですよ。でも、基本田舎に住んでるヤツにはそれが無いじゃないですか。札幌でもギリないんじゃないかなって思うんですよね。
山塚:そうだね、札幌でもどこかで頭打ちになって、都会に出ない限りこれ以上のことは起きないみたいなタイミングがある。
加藤:そういう風に、いい事っていっぱいあると思うんですけど。ただそれが、自分の好きな場所を離れる理由にならない。でも、好きだからここにいるって言うとちょっとズレる感じもして。やっぱどこかちょっと実験的なんですよ。こういう感じのヤツが、こういう感じの街で、音楽ビジネス的なメインストリームに乗っからずに続けていったらどうなるんだろう、みたいな。
山塚:ある種、社会実験じゃないけども。
加藤:そういう気持ちはありますね。これってどこまで行けるんだろうかって気になるんですよ。こうやった方がやりやすいとか、こういう方が刺激的とか、そういうのを100%分かった上で、そうじゃない選択を続けた人がいないし。
山塚:成功例も失敗例もないもんね。
加藤:それがめっちゃ気になるなーっていう。LOSTAGEが奈良にいて、SLANGが札幌にいて、ってありますけど、たぶん目指してるポイントはそれぞれ違うと思うんですよね。東京以外に暮らして音楽を作っている人のことを、一緒くたに考えている人って多いじゃないですか。東京からその他の地方に向けられる眼差しって、そんなにバリエーションがないと思う。
山塚:昔から郷土愛というか地元愛というか、そういうのってあった?
加藤:埼玉に親戚がいるんで、子供の頃から東京に遊びに行ったりはしてたんですよ。でもそこから苫小牧に帰ってきても「何もねえな」とは思わなかった。それが不思議なんですけど、なんなら都会的に感じてるみたいな。いつもクルマで通る跨線橋があって、そこはデッカい団地がいっぱいあるんですけど、その団地を見たときに、未だに都会的に感じるんですよね。
山塚:そのビジュアルというか。
加藤:シティの要素はないハズなんですけど(笑)。道路がただのコンクリートじゃなくて煉瓦を組んだ風になってる道を見て「都会っぽいなー」って思ったりとか(笑)。「建物も飯も匂いも人間もダサくて田舎っぽいヤツばっかりで、こんなところにいたらオレはこいつらと同じになってしまうからとっとと出てやるんだ!」 とか思ったことないんですよね。故郷に嫌悪感を抱いたことがない。東京生まれ東京育ちの人も、シティだから好きとか、そういう理由を並べながら暮らしてる人っていなさそうじゃないですか。もしかしたらその感覚に近いのかな。

山塚:そもそも飢えてないって感覚なのかな。
加藤:田舎だと「この街でGreen Day知ってるのオレだけ」みたいなのあるじゃないですか。そんなワケはないんですけど(笑)。でも、それって東京の「来日行ったよ」みたいな人が普通にいる環境と、実は情報の総量ってそんなに大きく変わらないんじゃないかって気もしていて。それをアウトプットするときのリアリティには関わってくるかもしれないですけど、その情報自体がその人をどれだけ幸せにしているかっていうのとは関係ない気がするんですよ。もしかしたら見ない方が幸せだったものっていっぱいあるんじゃないかって。
山塚:広い意味で。
加藤:広い意味で。海外アーティストの来日で、どうしても観たくて観に行ったものって、オレ10回もないですね。本当に好きでずっと観てみたいと思ってたモノが、想像を超えた瞬間ってあんまり無いんですよ。もしかしたら出会えてないだけかもしんないですけど、いつの間にか期待しなくなってしまったなって。東京はもっとスゲエんだろうな、ヤバいこと考えてるヤツがいるんだろうなって想像してて、いざ行ってみると、そこまで考えてるのオレだけだったみたいな事とか。
山塚:都会だろーが田舎だろーが、結局めっちゃカッコいい人って、ごくごく一部しかいないんだなっていう体感はありますな。
加藤:「これは考えたこともなかった!」ってものにブチ当たる事って少ないですね。それが局所的にどこか一部に集まっているとも思えないし。比率で言ったら多いとかはあるかもしんないけど。ブームとかトレンドじゃなく、アルゴリズムから外れた何かを、なるべく受け取りたいって思ってるんですよね。
たとえばBASE(※)とか、同時代性ってものをあんまり感じないんですよ。どういうものが今ホットなのか、ヒップなのかっていう目配せを一切感じない。それを田舎臭いって表現する人もいるかもしれないけれど、オレは年間ベストみたいな事に興味がないんですよ。「今年これが急に好きになった」とか「なんか分かんないけど今これが自分に必要だと思った」みたいなものって、絶対誰しもあるはずで、そういうものにめちゃくちゃ興味がある。そういうものに影響を受けて何かを作るほうが、めちゃくちゃオリジナルな気がするんですよね。

山塚:世間的なトレンドより、個人的なマイブームの方が、クリエイティブにおいて重要みたいな話だよね。
加藤:それが東京にいたら出来ないとかは全く思わないし、気づいたらそうだったって人もいるだろうけど、環境から変えちゃうってやっぱ早いですよ。耳に入ってくるものが全然違うから。
山塚:都会は望む望まざるに関わらず、情報が入ってきちゃうし、どうしても影響を及ぼしがちかもね。
加藤:自分の場合だったら、スコット・ウォーカー(※)のことが大事に思えてきたりするのって、何とも関係がないんですよ。なんでこんなに好きになったんだろうって考えたら、苫小牧の駅前にハヤシって喫茶店が以前あって、そこでジャッキー・トレントの“make it easy on yourself”が流れてて、調べたら作曲がバート・バカラックなんだって分かって、そこから遡ってウォーカー・ブラザーズのバージョンに行き着いて、こっちの方がいいかもってなって、それでスコット・ウォーカーが好きになって、って流れがあったんですよ。この話って、どんどん苫小牧の駅前からずっと外れていくんですけど(笑)。
※1960~70年代にかけて活躍したアメリカの歌手 / 作曲家。ウォーカー・ブラザーズの一員として数多くヒットを飛ばし、デヴィッド・ボウイやトム・ヨークにも多大な影響を与えた
山塚:苫小牧の駅前、関係ないね(笑)。
加藤:で、それをリファレンスにアルバムを作って、東京でレコーディングするっていう。
山塚:色んな時間が層を成して流れている。
加藤:そしてそのレコーディングした曲を聴くヤツには、そんなこと一切関係がないっていう(笑)。
山塚:いいね。何かが(笑)。でも年間ベストの話、すげえ分かるな。2024年に、自分の中でオールディーズのブームが来ることだって当然あるワケで。
加藤:その理由を考える方が絶対面白い気がする。シティポップが流行った理由とかもそうじゃないですか。それが人にフィットした理由って、簡単に一言で説明できるモノでもない気がする。
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アキムとこれから2人でやっていくぞって誓い合わないとなって。
山塚:年末年始って何してた?
加藤:ボケーッとしてましたね。何もしないことにしよう、って思って。去年ほんとに休みがなくって、身体も頭も止まるスキがなかったので、ここで休もうと。でも元旦からアキムと会ったりしたな。
山塚:打ち合わせ的な?
加藤:まぁ、軽く新年会もしつつ。去年、NOT WONKからフジ抜けちゃったじゃないですか。フジはバンドの中ですげえ色んなことやってくれてたんですけど、それが無くなって……で、リキマルくんもご存知だと思うんですけど、アキムってあの感じじゃないですか(笑)。
山塚:飄々としてるよね(笑)。
加藤:捕まえておかないとどっか行っちゃうんすよね(笑)。路肩で寝てたりするタイプなんで。2人のバンドにもなったし、これから2人でやっていくぞって誓い合わないとなって。いつ空中分解してもおかしくないって気はしてるんです、バンドがいい状況だとは思ってないので。そういうのもあって、アキムと「今年は頑張ろうぜ」って。

山塚:決起会的なね。では、そろそろ連載のまとめ的なところに入っていきたいんですが(笑)。当初の目的は、加藤くん的にはどのぐらい達成できたでしょうか?
加藤:どうなんでしょうね……SADFRANKでアルバム作るときも同じ気持ちだったんですよ。自分の中の、自分で見つけていない部分を探るっていう。そうなるとテーマとして、自分っていうものがめちゃくちゃ大きくなるじゃないですか。「自分とは」っていうと安っぽい哲学みたいだけど、そのテーマに凄く興味があったので、作ってみたんです。でも、完成してリリースして、ふと振り返ったとき、自分のことをデカいテーマとして扱いすぎだったんじゃないかなって。
山塚:私小説的になりすぎたみたいな感じ?
加藤:うーん、沖に一隻のボートを浮かべて自分を探す感覚でいたのかもしれないと。それってあんまり良い探し方じゃなかったんですよ。見つけたいものを見つける作業になっちゃうというか、新しい何かを見つける事にはならないんじゃないかって。だから、プロセス的には逆を辿るべきだなと。「これは自分じゃない」って決めつけちゃってる部分を、探し終えたファイルの中から見つめ直さなきゃいけないなって。
山塚:灯台下暗し的な。なんか見落としてるところがあるのかなっていう。
加藤:そういうのがあるのかなって。で、この連載をやってみた結果、新しいかどうかは別にして、「オレってこうだったよね」みたいな。シンプルに「話すのって楽しいよね」「恥の感覚ってあるよね」とか、そういう誤魔化せない部分をいっぱい話せた気がするんですよね。前述の通り、オレはあんまり人に認められていると思ってないんですけど、自分の中の誤魔化せない部分を認めてもらったなって。
山塚:発見っていうよりは、納得した的な。
加藤:「そうでございました」 っていう(笑)。大航海だ、旅に出るぞって言って船に乗ったはいいけど、探してたものは全然陸地に置き忘れてたみたいな(笑)。
山塚:それが分かっただけでも大きな収穫ですな。面白い連載だったと思う。

加藤:色んなものを見るときのモノサシとして、刺激的かどうかってさほど重要じゃなくなってきてるんですよ。それを大事にしてる時期ってめっちゃあったんですけど。
山塚:どれぐらい新しいかとか、どれぐらい刺さるかとか。
加藤:でも「刺激的」って型もあるよなって思い始めて。すげえノイジーとか、すげえデカいとか、すげえ静かとか。そういう型のもとに刺激ってあるような気がしちゃってきてて。それが見えると、何を見てもあまり刺激的には感じない。
山塚:ヤバいものってある程度テンプレートがあるからね。
加藤:それでも刺激的なものはあるし、求める気持ちもあるんですけど、現時点での自分はそこじゃないのかも。今回のアルバムもそうですけど、「何か起こしたい」みたいな気持ちがいままでで一番少ない。むしろ「何も起きないでくれ」とすら思っていたかも。暗い発言ですけど(笑)。
山塚:それは野心とは別な話だよね。
加藤:そうですね。目論見とか野心は全然あるんですけど、ふと自分の小さいところに立ち戻ったときに「もう何も起きなきゃいい」って気持ちもあるというか。Radioheadの“No Surprises”って曲が好きなんですけど、まさにそんなようなこと歌ってるんですよ。「もう何も起きなきゃいい」って邦題をつけたいとオレは思っているんですけど(笑)。
山塚:連載の締めくくりが「もう何も起きなきゃいい」なのは凄いね(笑)。
加藤:こう思うからこうしたい、っていう気持ちは何事にもあるんですけど、こう思うのは何でなんだろう? って思うんですよね、いつも。
山塚:思う理由ね。
加藤:思う理由を知りたくなってしまう。嫌いなことでも、なんで嫌いなんだろうと思って調べたり。そうするとあんまり嫌いじゃなくなってくるんすよね。気持ちより理由の方が大きくなってくるから。
山塚:なるほどね。加藤くんってロジカルな人だよなっていうのは連載通して感じたな。
加藤:でも、オレのロジックって、限りなく仮説に近いんですよ。こうなるかもしれないと思ってやってて、全然ハズれることがあるんで。で、それに対しての嫌悪感もないんですよ。答えじゃなくて疑問がそこにあるだけで誰かのためになることもあるんで。「何で?」って言うだけでいいことも多分あるはずなんすよ。大事じゃないですか、「何で?」って思うのは。
山塚:エビデンスとか対案がどうとか言ったりするけども、問いそのものに価値があるよね。それで勇気づけられたり、知見を得ることもたくさんあったりするし。えっと、それじゃ、そろそろ本気で締め括りたいと思うんですが、最後に何か言い残したことはありませんか。
加藤:ん~……難しいんですけど、持ち上げられたいワケではないんですよ。凄いよねって褒められたりしても、「自分の頭の中にあることの方がもっと凄いのに……オレはまだ何も出来てない……」みたいな気持ちになったりするんです。だから早く色んなことを形にしたいな、って思います。狙ったところに投げられるように、もっと精度を上げたいですね。ど真ん中に完璧に投げられるようになったら、それは全部をやめる日だと思いますね。曲でいったら、その一曲でいいはずなので。「一生コレってことで大丈夫です!」って言える日があったらいいな。
山塚:全部を打ち抜ける一発を、ぜひ叩き出して欲しいですね。では……連載、お疲れ様でした(笑)。
加藤:はい、ありがとうございました(笑)。
