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その選曲が、映画をつくる

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のアーティ・ショウが意味するもの

2024.6.21

#MOVIE

『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のアレクサンダー・ペイン監督による最新作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』が、6月21日(金)より公開となる。

美術や衣装から撮影手法、音楽まで、徹底して「1970年代らしさ」を演出した本作。しかし、そこには単なるヴィテージ風のシミュレーションにとどまらない、歴史や過去を通じて現在を考えることへの「信念」が見て取れると、評論家の柴崎祐二は指摘する。

ある作中人物が好きだったアーティストとして、1930〜1940年代に活躍したクラリネット奏者アーティ・ショウの名前が挙げられる、その意味とは。連載「その選曲が、映画をつくる」第15回。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

1970年代の寄宿学校を舞台にしたヒューマンドラマ

細部へのこだわりと、品の良いリアリズム。ドライでいて大胆なユーモアと、人々への温かな眼差し。アレクサンダー・ペイン監督は、それらすべてを一本の作品の中に巧みに混ぜ合わせることによって、華やかとはいいがたいながらも類稀な成果を上げてきた現代の名匠だ。

本作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は、そんなペイン監督のファンにとって、ひとつの僥倖というべき作品だろう。自身の代表作にして『アカデミー賞』脚色賞へのノミネート作品、『サイドウェイ』(2004年)で見せた絶妙のコンビネーションから20年を経て、名優ポール・ジアマッティとのタッグが復活したのだから。

映画の舞台は、1970年末のクリスマスシーズン、米ボストン近郊の寄宿学校バートン校だ。主人公のポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は、古くからの伝統を誇るこの伝統校で、長年古代史の教師を務めている気難しい中年男である。彼は、クリスマス休暇の到来を目前にして、議員の息子を落第させたことへの罰として、同期間中に親元へと戻れず校内に居残る生徒の監督を命じられる。生徒たちは、せっかくの休暇を、堅物の(しかも学校中から嫌われている)ハナム先生と共に過ごさなくてはいけないことに端から辟易しているが、それは先生の側も同じだ。加えてもう一人、同校の食堂の料理長であるメアリー・ラム(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)も、ガランとした校舎の中で、家族のいないクリスマスを迎えようとしていた。一人息子であり同校の生徒だったカーティスを、ある理由で亡くしたばかりなのだ。

そんな侘しい休暇が始まってしばらくすると、学校の敷地内に突如ヘリコプターがやってくる。居残り組の一人、ジェイソンの父親が、息子をスキー旅行に連れ出すためにやってきたのだ。すぐさま親に電話してスキー旅行同行の許しを得る生徒たち。しかし、ただ一人、問題児のアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)だけが、母親と連絡が取れず、その場に取り残されてしまう。彼の母親は、アンガスがかねてより楽しみにしていたセントキッツ島での休暇を直前になって取りやめ、後夫との新婚旅行に出かけてしまったのだ。そんな顛末からも分かる通り、どうやら彼は、家族関係に大きな問題を抱えているらしい。

残されたのは、ハナム、メアリー、アンガスだけ。それぞれに疎外感を抱えた3人は、些細なことでぶつかりあったり、よそよそしい態度で接しあう。しかし、連日巻き起こる様々な出来事の中で、互いの話に耳を傾け、徐々に心が通じあっていく……。

左からアンガス(ドミニク・セッサ)、ハナム(ポール・ジアマッティ)、メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

これまでの作品で、多様な年齢・出自の「普通の人々」が抱える孤独感・疎外感を映し出してきたペイン監督らしく、本作に登場する各人物のキャラクター造形も実に巧妙だ。一方で、単に愁い強調するだけではなく、随所にコメディ要素を滲ませていく手際も相変わらず冴え渡っている。

また、美術や衣装等、ディティールの作り込みにも定評のあるペイン監督だが、今作でのこだわりぶりは、過去一番の高みに達しているといえるだろう。まず注目すべきが、その「1970年代感」の徹底したシミュレーションぶりだ。映画の冒頭に現れるスタジオロゴとタイトルカードからして、1970年代のアメリカ映画を愛するものであれば自然と笑顔にならざるを得ない仕掛けが施されているのだが、これらは文字通りほんの序の口である。最先端技術を駆使しながら、色調やノイズ、コマ送りのゆらぎ感などを含め、かつてないレベルでの「フィルムライク」なヴィンテージ風プロダクションが再現されているのがわかる。また、ショットや編集でも大胆な試みがなされており、極端なズームアウトなど、1970年代のアメリカ映画でよくみられた(が今はあまり用いられない)技法が効果的に配されることで、単なる「1970年代風」以上のクリティカルな質量を伴った画面が展開していくのだ。

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