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家族の過去と現在、複雑な感情を描く物語
あらすじを紹介しよう。時は1970年代後半。若きドニー(ノア・ジュプ)とジョー(ジャック・ディラン・グレイザー)のエマーソン兄弟は、自家が保有するワシントン州フルーツランドの広大な土地に一家で暮らしながら、音楽を演奏し、作ることに熱中していた。特に、弟のドニーの才能には周囲も驚くほどで、彼の才能に早くから可能性を感じていた父ドン・エマーソン・シニア(ボー・ブリッジス)は、私財を投じて自前の練習スペース兼レコーディングスタジオを建ててしまうほどだった。
みるみるうちにレパートリーを増やしていった彼らは、ドニーが17歳、ジョーが19歳を迎えた1979年、ついに自分たちだけでアルバム『Dreamin’ Wild』を作り上げ、溢れんばかりの希望とともに、家族で設立した自主レーベルからリリースした。しかし、音楽業界にコネクションがあるわけでもない一家は、実際のところそれをどうプロモーションするかも分からず、結局は数少ない知人たちの手に渡ったのみだった。当然ながら商業的にも何らの反応も呼び起こさず、時の経過の中に埋もれていったのだった。それでも息子の才能を信じてやまない父は、新たな作品の制作のため自身の土地を抵当に入れて借金を重ね、ついにはほとんどの資産を手放すに至ってしまう。

それから約30年。大人になったドニー(ケイシー・アフレック)は、アメリカ東部ワシントン州のとある街の小さなスタジオを妻ナンシー(ズーイー・デシャネル)と切り盛りしながら、ローカルミュージシャンとして活動を続けている。しかし、その生活はかつて若き日に思い描いていたような華々しいものではなく、スタジオの経営難もあって、徒労感を重ねながら毎日を過ごしている。
そんなある日、実家に残り家業を手伝っている兄ジョー(ウォルトン・ゴギンズ)から、思いがけない電話がかかってくる。なんと、30年以上前に兄弟で録音した自主制作盤『Dreamin’ Wild』にレコード会社の人間が興味を示し、フルーツランドまで直接訪ねてくるというのだ。
ほどなくして彼らに会いにやってきたレーベルのディレクター、マット(クリス・メッシーナ)は、一家にとってにわかに信じがたい話をする。あるコレクターが雑貨屋の隅に眠っていた『Dreamin’ Wild』を偶然「発掘」した経緯、それが一部の音楽ファンの間で熱い支持を広げていること、そして、同作が掛け値なしに素晴らしい内容で、是非とも自社からリイシュー盤を発売したいと考えていること。

ジョーや他の家族はこの話を聴いて大いに盛り上がるが、かつて自身が17歳だった頃、アルバムの全ての曲を書き、録音やミックスを含むほとんどの創作作業を行ったドニー本人は、そのオファーに驚きつつも困惑を隠しきれない。その困惑は、いざアルバムがリイシューされて各メディアで大きな話題となり自身への注目度が急上昇していく中で、いつしか苦悩へと変わっていく。次第にドニーは、父や兄への複雑な思いや、自身が抱え続ける感情と向き合うことへと導かれていく……。