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グッド・ミュージックに出会う場所

飯田橋「BAR MEIJIU」−−全てに必然性がある、完成されたリスニングバー

2023.8.4

#MUSIC

2010年にオープンした「BAR MEIJIU」。ほど近い神楽坂エリアで食事を楽しむ大人から、音楽好きの20代まで、幅広い層に支持されている。

音楽評論家・柳樂光隆もこの店に魅せられた一人だ。音楽関係者にもファンが多いという同店を、柳樂と訪ねた。

連載「グッド・ミュージックに出会う場所」第3回。

世界観が確立されている、完成度の高いバー

たまたまTwitterで流れてきて気になったバーが僕の行きつけになって3年が経った。飯田橋なんて縁もゆかりもないし、自宅からはちょっと遠い。でも、ここには行ったほうがいい予感があった。それが「BAR MEIJIU」だった。

僕がBAR MEIJIUに魅了された理由は、隅々まで気が配られていて、店として限りなく完成されていること。そして、その「完成度」の中に選曲も含まれていることだ。

東京にはいくつかの完成度の高い店がある。例えば、西荻窪の「JUHA」や渋谷の「Bar Music」。この二つの店では様々なジャンルや時代の音楽が流れているのだが、その店が醸し出したい雰囲気や世界観に沿った共通するテイストや質感やフィーリングの音楽が選ばれているので、不思議な統一感がある。そして、内装やインテリアのデザインまで、その音楽と雰囲気がぴったり合うように施されている。選曲も含めて「しっかりとデザインされている」ことで、どこにもない個性=オリジナリティが生まれている。

カウンターだけでなく、奥にテーブル席もある、ややめずらしい造り。「いわゆるオーセンティックバーのような店にはしたくなかった」のだという。

統一感のある選曲の中に、様々な文脈が混じっている

BAR MEIJIUもまさにそんな「その店にしかないオリジナリティ」がある完成度の高いバーだ。

ジャズやポストクラシカルなどを中心に、店主の松本圭祐さんが選んだ新旧様々なジャンルのレコードがかかっているのだが、「BAR MEIJIUっぽい音楽」が常に流れている、としか言いようがない選曲になっているのがここの特徴だ。

店主の松本圭祐さん。

個人的に気に入っているのはここの壁に飾られているレコードの並び。ジャズの名門レーベル「ブルーノート」のタイトルがずらっと並んでいるのだが、そこには定番だけでなく、DJから再評価された作品や21世紀以降の新しいジャズも含まれているし、スルーされがちな時期の良作もさりげなく並んでいる。そのブルーノートの趣味の良いチョイスはそのままこの店の選曲の傾向を表している。

グラント・グリーンやウェイン・ショーターの有名盤と、ボビー・マクファーリン、リニー・ロスネスなどの1980年代作品が並ぶ。

いわゆる「バー」の落ち着いた雰囲気に合わせたレコードが選ばれているのもあり、テイストは近いものがかかることが多いのだが、似たテイストの中に様々な文脈が絶妙に混じっている。個人的にグッとくるのは、現在のジャズシーンに影響を与えた1980〜1990年代の名プレイヤーの作品がしれっとかかること。既存の「東京のBGM」の文脈からすっぽりと抜け落ちているところをさりげなく持ち込んでいる。かと思えば、レコード屋で1,000円以下で売られていそうな何でもないジャズのレコードもかかっていたりするのだが、どんなレコードもこの店の「シンプルで木の温かみもありつつ少しだけ武骨」な雰囲気そのもので、まるでそこにあるべきインテリアのように鳴っている。

そのために高音質でありながら同時にやさしい手触りで再生することができるオーディオが揃えられているのもここのこだわり。この店のムードそのもののニュアンスがTANNOYのスピーカーからやわらかく鳴っている。

そんな環境だからか、ここではひと昔前にトレンドだったレコードが新鮮に聴こえることもあるし、リリースされたばかりの新譜がずっと前からあったレコードのように響くこともある。BAR MEIJIUではあらゆるレコードが既存の文脈ではなく、この店にふさわしいサウンドとして鳴っていて、特別な空間を作り上げている。

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