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『イカ天』とバンドブーム論――『けいおん!』から人間椅子まで

人間椅子の世界的ブレイクは必然だった。『イカ天』時代からブレない個性を紐解く

2025.3.18

#MUSIC

リフありき、リフ一発で黙らせる

そんな彼らの音楽の最大のシグネチャーと言えるのが、ギターやベースのリフだろう。The Beatles、Dr. Feelgood、ジミ・ヘンドリクス、Bay City Rollers、Led Zeppelin、Cream、Deep Purple、KISS、AC/DC、Metallica、Pink Floyd、The Jon Spencer Blues Explosion、The White Stripes、Nirvana……。ヘヴィメタル / ハードロックに限らず、リフが恰好いいバンドをざっと列挙してみたが、和嶋の弾くリフは彼らにだってまったく負けていない。

これまで聴いたことがない音楽の破片を、その影響を受けたバンドから汲み取る、という現象は珍しいことではないだろう。筆者が1990年代にカール・クレイグらデトロイトテクノをすんなりと受け入れられたのは、それ以前にYMOを聴いていたからだと思う。それに絡めて言うと、英国の音楽評論家 / ミュージシャンであるデヴィッド・トゥープはこんなことを語っている。

トロイの木馬の話ってご存知かな? 木馬の中に兵隊が隠れて、木馬ごと敵の街へ牽かれてくる。そして頃合いを見計らって兵隊たちが外へ飛び出し、街を占領してしまう、というあの話さ。アンビエント・ミュージックは、複雑な音楽的思想を一般に広めるためのトロイの木馬だったと考えているんだ(笑)。

『ミュージック・マガジン』2000年5月号より

つまり、トゥープが「アンビエントが複雑な音楽的思想を広めた」と言うように、多くのリスナーは人間椅子を通じてロックの原型を知らぬ間に埋め込まれていた、とは言えないだろうか。その最大の表出が、印象的なリフの存在である。鈴木がKISSを好きなのも、リフがしっかりしているからだという。はじめにリフありき、リフ一発で黙らせる。人間椅子の音楽の根柢にはそんな思想(とあえて言おう)があるように思う。

人間椅子の曲はリフの宝庫である。重厚なリフ、キャッチーなリフ、創意あふれるリフ、意表を突くリフ、ヘヴィなリフ、軽快なリフ、シンプルなリフ……。これらのリフを通じて、リスナーは古今東西のロッククラシックの美味しいところを呑み込んでいるのだ。ロック史におけるありとあらゆるリフのバリエーションが、人間椅子のアルバムには封じ込められている。生きたロック史、ならぬ、生きたリフのライブラリー、である。和嶋はさながらリフの生き字引と言ったところだろうか。

ここで思い出すのが、日本のヘヴィメタル評論の第一人者である伊藤正則が、ヘヴィメタルは様式美だから嫌い、と言われたときに「様式美だから好きだ」と答えた逸話だ。様式美は様式美なりにアップグレードを計ることは可能だろう。いわば、進化ではなく深化である。ファーストで既に確立されていた自分たちのスタイルを、より深めていく方向で、彼らはそのサウンドを磨き上げてきた。

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