メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES
『イカ天』とバンドブーム論――『けいおん!』から人間椅子まで

人間椅子の世界的ブレイクは必然だった。『イカ天』時代からブレない個性を紐解く

2025.3.18

#MUSIC

津軽弁の訛り×ロックの新鮮さ

青森出身である彼らは、同地の訛りや方言を意図的に歌詞や唱法に導入していった。その理由に関しては、英米のロックに憧れていたが、田舎者だというコンプレックスがあったから。要するに、どうせなら開き直って津軽弁でやろうという心境だったと和嶋が言っている。それにしてもかなり徹底したものだ。特に初期。三上寛や町田町蔵といった先例はあったものの、日本のロックでここまで訛りや方言をうまくブレンドしたバンドが、どれだけ存在しただろうか。

ちなみに、津軽弁というのは彼の地に馴染みのない人には呪文のように聞こえることもあるようだ。少なくとも筆者はそうだった。例えば、映画『いとみち』(2021年)は、メイドカフェで働く津軽弁少女の成長を描いた青春物語だが、豊川悦司を筆頭に登場人物たちの訛りがきつすぎて、半分くらい、何を言っているか筆者には分からなかった。文脈的に推測することでなんとか内容を把握できるつくりにはなっているのだが、それくらい津軽弁ネイティブの訛りは特徴的だということを同作は証立てている。

人間椅子の歌詞でいちばん方言が極端なのが、『踊る一寸法師』収録の“どだればち”だろう。

それまでも青森の方言を歌詞に散りばめていた彼らだが、“どだればち”はすべて方言で成立しているので内容の解読が不可能なほど。だが、音(おん)としてのシグネチャーは際立って個性的で、サウンドに見事な異化効果をもたらしている。同曲の歌詞を一部、引用してみよう。

どだば向ェの弥三郎ァから
ぼねやみで
昼目目覚まってギターコむたど
弾いでばし
したっキャ蜻蛉後追って
見めぐなったド
どだばこの坂凶作坂
うでだキャなア
街道の玫塊血コ吸って
赤ぐ咲いダオン
葬式の恐って子供等
ごんぼほってらネ

“どだればち”(『踊る一寸法師』収録)

方言や訛りを活かした人間椅子のソングライティングに関しては、顧みられることがほとんどなかったように思う。『イカ天』登場時の衣装が話題を呼んだせいか、ライブでは、たまやマサ子さんやカブキロックスと対バンすることが多かった。本心では「BEGINとか、そっちのほうに入れて欲しかった」と和嶋が、ライブのMCで述懐していた。

記事一覧へ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS