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気持ち悪いものが好き、というバンドの通奏低音
和嶋の活躍が目立ちがちな彼らだが、ねずみ男のコスプレで『イカ天』に登場した鈴木研一も、このバンド特有の禍々しさを、中学時代から友人の和嶋と共有している。

彼の音楽的ルーツは、Bay City Rollers、KISS、Iron Maiden、UFO、King Diamond、そしてもちろんBlack Sabbathである。鈴木は人間椅子を始めた理由を聞かれて「邪悪なことがしてみたい! という願望が湧きあがってくる」と言ったそうだ。鈴木はインタビューでこんな風に語っている(註)。
ちっちゃい頃から骸骨みたいな気持ち悪いものが好きだったんだよ。ねぷたじゃないけど、どうやったら、気持ち悪い感じを人に与えられるのかなと考えた時に、ねずみ男にしようかと思ったの。尖った部分をなんとか作ろうと思って、袋状のシーツの角を頭に乗せて、ねずみ男にしたんだよ。とにかく変な恰好をして目立ちたかったんだろうね。
人間椅子 椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本』(株式会社シンコーミュージック・エンタテインメントより)
気持ち悪いものが好き、というのは、このバンドの通奏低音である。和嶋は、お笑い芸人であるシソンヌのじろうとの対談で同様のことを話している(註)。
和嶋:(前略)僕が子供の頃には、劇団員がやっている「夜行館」というねぷたがありまして。皆、白塗りで引っ張るんです。寺山修司の世界ですよ。それを見て衝撃を受けたのがきっかけで、こういう創作をやっているのかもしれない。
じろう:確かに、おどろおどろしいものに触れる機会がすごく多かったですね! 長勝寺というお寺には、すごいでっかい地獄の絵があるし、ねぷた(註)の裏絵も全部恐ろしい絵ですよね。
―二人は幼い頃からそういうおどろおどろしいものに触れていたからかもしれないですけど、作風にどこかダークな要素もありますね。
和嶋:敢えて人間の暗い面を見せて、カタルシスを得るみたいな。これはカタルシスの原点なんですよ。今は一般的にそういうのを封じ込めようとするけど、昔はそういうものが見られるようになってたんだよね。そこで暗いものを見せて、生きてる実感を得る文化があったんだろうね。見世物小屋は基本的に今ダメでしょ。
和嶋慎治著『屈折くん』(株式会社KADOKAWA)より
「白塗り」という言葉が出てくる。『イカ天』登場時には、ねずみ男のような衣装を纏っていた鈴木は、現在はスキンヘッドで白塗りに口紅を塗ったビジュアルが定番となっている。『椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本』では、特別企画として殿様や女形にも挑戦した。その姿は、ビジュアル系のメイクとは似て非なる、アングラ臭漂うものだと言っていいだろう。