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ゆらめく「細野節」、安部勇磨の歌う“冬越え”
『HOSONO HOUSE COVERS』で“冬越え”を歌ったのは、安部勇磨だ。果たして彼は「のー」をどう歌っているだろうか。
この“冬越え”は、アルバムから先行配信の2曲目に選ばれていた。配信シリーズはマック・デマルコの“僕は一寸”でスタートし、日本人アーティストとしては彼が最初だ。

イントロでは、はっぴいえんどがLAでレコーディングした3rdアルバム『HAPPY END』(1972年)のラストに登場する“さよならアメリカ さよならニッポン”のリフをちょっとオマージュ。
アメリカンミュージックとジャパニーズミュージックの「あわい」へと漕ぎ出した時期(ヴァン・ダイク・パークスという巨大な音楽のるつぼ的人格との出会いも含め)の細野に思いを馳せつつ、その旅路のはるか先を生きる1990年生まれの安部が、コタツを囲んだパーティーに現在の細野を迎え入れているような温もりがある。ふわふわとした女性コーラスも楽しい。『HOSONO HOUSE』ならぬ、「ABE HOUSE」みたいな感覚も意識されているだろう。
肝心の「のー」は、「の」に力点が置かれ、若干シャープ気味になってから少し下がる。オリジナルとは少し違うアクセントを置くことが安部勇磨の「節」だ。細野自身が1974年の『ホーボーズ・コンサート』で披露している珍しい弾き語りバージョンにも近い気もする。ライブで歌うことを意識すると、あそこはどうしても力が入って変化するのかもしれない。
ちなみに、2019年に発表された『HOCHONO HOUSE』での細野自身による46年ぶりのセルフカバーでは、「のー」はふわっと空中に解き放たれ、ゆるやかに上昇して消えてゆくような歌い方になっていた。何が正解か、なんてあらかじめ設定していない。細野の表現は、何かを記念碑のように固定してそこに固執するのではなく、AIには解析不可能なゆらめきを絶えず生成しながら変化することの大切さを、いつだって未来に向けて伝えている。