シンガーソングライター「みらん」と作家「小原晩」によるエッセイ連載がスタート。2023年2月から2024年5月まで続いた交換日記を終え、2人はついに外に出る。さらには写真家の新家菜々子も加わり、おしゃべりしたり、食べたり、休んだり。忙しない東京で暮らす3人は、休日に何をして過ごすのだろう。
初めてのお出かけはあるドラマのシーンを再現したい、という小原の提案で、神奈川・葉山の海へ。まだ5月とは思えない強い日差しの中、みらん、小原晩、そしてカメラを携えた新家菜々子の3人はバスに揺られた。
INDEX
海へいきたい(from小原晩)
どうやら海へ行きたいと言いはじめたのは私らしい。そんなことすっかり忘れて、海へ行く日程が近づくにつれ「遠いなあ」と私はさんざん文句を言っていた。さいていである。
電車にゆられて海へ行く。仕事でミスしている旨のメールが5つ連続で届く。ミスしすぎているので胸がどきどきする。とても海に行く気分にはなれないけれど、メールでひらあやまりしているとあっという間に時間は過ぎて目的地へ到着する。すぐにみらんちゃんと合流し、どれだけ自分がミスを重ねていて、海の気分ではないか、早口で話す。年下の女の子に出会ってすぐ愚痴を言う(せっかく海へきたのに!)なんて、私はやっぱり、さいていである。ななこちゃんともすぐに合流する。どうやらみんな同じ電車に乗っていたようだ。
ななこちゃんは写真家で、今回からこの連載に正式に加入してくれることになった。すごくうれしい。私たちはこれから、毎月のように3人でどこかへ出掛け、私とみらんちゃんはエッセイを書き、ななこちゃんはその様子を写してくれる。ななこちゃんは撮る側だから、写真には私とみらんちゃんの2人しか写らないけれど、この連載は3人の思い出の記録である。

3人でおしゃべりしながら、バスにゆられて海へ近づく。この頃には「遠出っていいなあ」「海っていいなあ」「たのしいなあ」とすっかり手のひらを返している。
目的のバス停までつき、ご当地スーパーSUZUKIYAで買いものをする。SUZUKIYAの名物であるアジフライは、ひとつ百円で、やすい! おいしそう! ぜったいに食べよう! と盛り上がり、みんなのぶんを買う。
そして、当初より目的としていたペヤングも買う。お湯を入れて、海まで歩く
3人とも好きなドラマ『僕の姉ちゃん』第8話にて、休日のちはるさんが海辺でカップ焼きそばを食べるシーンがある。海といえば、で思い出すシーンはいくつもあれど、私はあのシーンがとくべつ好きなのだった。ということで、それをしに、海へきたのだ。ロケ地だってきちんと調べて、その海へきたのだ。ぜいたくである。そんなことも忘れて「遠いなあ」などと文句を言っていたのだから、私はもうなにも話さないほうがいい。
海までつづく道というのは、どうしてあんなに走りだしたくなるのだろう。たまらなくなって、走りだす。

海はきらきらきらきらきらきら光る。さらわれる。目も心もぜんぶぜんぶ。みんな、うっすら笑っている。人はぜんぶをさらわれたとき、うっすら笑ってしまうものなのだなあ。はあ。私たち、海へきたんだ。
砂浜にラグを敷き、腰をおろして、ペヤングにソースを入れて、よく混ぜ、豪快に食べる。目の前にはきらきらの海。みずいろの空。太陽にまぶしく照らされて、いまにも消えてしまいそうだ。


「そろそろアジフライも食べようか」とみらんちゃんがアジフライをパックからとりだす。「アジフライが海で泳いでる、という感じの写真を撮ってほしいなあ」とみらんちゃんは言う。かわいい発想だなあ、とにっこり見守る。みらんちゃんは、アジフライを空へ掲げる。それをななこちゃんが撮る、と思ったそのとき、後方からすごい勢いでトンビがやってきて、みらんちゃんの手からアジフライをかっさらった。ギヤ〜〜〜〜〜と叫びながらへっぴり腰でみんな逃げる。

まだまだ、さらうぜ! ぜんぶ、さらうぜ! と、いつの間にか集団となったトンビたちは私たちの上をぐるぐると旋回している。なんとか撮影をつづけようとするけれど、何度もトンビはやってくるのであきらめて海から離れて肩を丸めてペヤングをすする。みんな、うっすらつかれている。

どうしてこんなことになるんだろうね、お出かけはたのしいね。