12月9日(土)より3週間限定で上映される草野なつか監督映画『王国(あるいはその家について)』に対する岡田利規のコメントが到着した。また、上映館である東京・ポレポレ東中野にて、上映後のトークイベントの開催が決定した。
休職中の亜希を主人公とする同作は、俳優が脚本の読み合わせやリハーサルを通して役を獲得していく際の身体の変化に着目。同場⾯の別パターンまたは別カットを繰り返す映像により表現され、ドキュメンタリーと劇で交互に語る手法によって、⼈間の⼼情に迫ることに挑戦している。
もともとは2016年度の愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品として製作され、2017年に64分版が発表された。それ以降、再編集を施された150分版が限定的な形で上映 / 配信されており、英国映画協会(BFI)から2019年の年間ベスト日本映画に選出されるなど高い評価を獲得。今回、オムニバス映画『広島を上演する』の1編である草野の最新作『夢の涯てまで』が、『第24回東京フィルメックス』の「メイド・イン・ジャパン部門」に選出されたことを記念し、劇場公開が実現した。
同作に対しては、これまで映画監督の濱⼝⻯介によるコメントが公開されていたが、新たに演劇ユニット・チェルフィッチュの主宰で演劇作家 / 小説家の岡田利規からのコメントが到着した。
この物語を演じる俳優たちが台本を読むリハーサルを重ね、一進一退しながら、徐々にしかし確実に、人物たちを、シーンを、掴んでいく。そのスリリングな過程を追体験することによって観客もまた、なまなかには理解しがたい——理解したいと思うことのできない——主人公の心情に、にもかかわらず心を寄せさせられてしまうのだ。この手法は反則ワザ! と言いたくもなるのだが、でもわたしはわかってる。そう言いたくなるのは、フィクションを観客に浸透させていくことを促す新しい、しかし本質的な手法を勇敢に試し、その効果を余すところなく発揮させることに成功してるこの作品に対しての、負け惜しみでしかないのだ。
岡田利規(チェルフィッチュ主宰/演劇作家/小説家)
俳優たちはテイクを重ね、やがて「これしかない」という声に辿り着く。この特権的な声が本来「OK」テイクとなるものだ。しかし、このたった⼀つの声は、実のところすでに為された無数の発声がその裏に張り付いた複層的なものなのだ。『王国』ではその声は⽰されるとともに解体されて、あらゆる声が「OK」として響く。⾃分が夢⾒たことを先んじてやられてしまったような、そんな感覚を持った。草野なつか監督の勇気と知性に敬意を表したい。
濱⼝⻯介(映画監督)
上映期間中には、濱口竜介、岡田利規、山中瑶子、金子由里奈、金城小百合、荘子itといった各界で活躍する面々と草野なつか監督がトークを行う特別イベントが開催されることも決定した。数日にわたり、ポレポレ東中野の20時の上映後に行われる。
また、シナリオブックの発売も決定。こちらは草野の初長編監督作『螺旋銀河』へも共同脚本として参加し、濱口竜介監督作『ハッピーアワー』などでも知られる高橋知由が手掛けた。
「王国(あるいはその家について)」
出演:澁谷麻美、笠島智、足立智充、龍健太
監督:草野なつか 脚本:高橋知由 撮影:渡邉寿岳 音響:黄永昌 助監督:平波亘
美術:加藤小雪 衣裳:小笠原由恵 ヘアメイク:寺沢ルミ 編集:鈴尾啓太、草野なつか
写真:黑田菜月 演出助手:神田友也 手紙文作成:高橋知由、澁谷麻美
イラスト・タイトルデザイン:さいとうよしみ エンディング曲:GRIM「Heritage」
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司 プロデューサー:鈴木徳至
愛知県美術館美術品収集委員会・オリジナル映像部会委員:天野一夫、岡田秀則、岡村恵子、酒井健宏
企画:愛知芸術文化センター 制作:愛知県美術館 配給:コギトワークス
宣伝プロデューサー:村上知穂 宣伝:大橋咲歩、本多克敏 宣伝デザイン:三浦樹人 予告編:川添彩
2018年/カラー/スタンダード/150分
公式サイト:domains-movie.com
<ストーリー>
出版社の仕事を休んでいる亜希は、一人で暮らす東京から1時間半の実家で数日を過ごすことに。それは、小学校から大学まで一緒だった野土香の新居へ行くためでもあった。
野土香は大学の先輩だった直人と結婚して出産し、実家の近くに暮らしていた。その新居は温度と湿度が適正に保たれ、透明の膜が張られているようだった。まるで世間から隔離されているようだと亜希は思った。野土香の娘・穂乃香は人見知りをしていたが、亜希が遊びの相手をしているうちに懐いた。一方、野土香はとても疲れているように見えた。
数日後、亜希は東京の自宅で手紙を書いていた。夢中でペンを走らせ、書き終えると声に出して読み始める。
「あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です」
そして今、亜希は警察の取調室にいる。野土香への執着、直人への憎悪を、亜希は他人事のように話し始めた。
トークイベント開催情報
ポレポレ東中野にて、20:00の回<上映後>に開催
12/9 (土) 初日舞台挨拶:草野なつか監督、澁谷麻美さん、足立智充さん
12/12(火) 金子由里奈さん(映画監督)×草野なつか監督
12/15(金) 山中瑶子さん(映画監督)×草野なつか監督
12/18(月) 岡田利規さん(チェルフィッチュ主宰/演劇作家/小説家)×草野なつか監督
12/19(火) 濱口竜介さん(映画監督)×草野なつか監督
12/23(土) 金城小百合さん(編集者)、荘子itさん(Dos Monos)×草野なつか監督
シナリオブック
12/9(土)より、ポレポレ東中野ほか上映館にて発売
著者 高橋知由
装填 三浦樹人
発行 株式会社コギトワークス
販売価格 1,000円(税別)
A5サイズ/108p