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神木隆之介が演じ分ける3つの声

実在する端島の歴史を元に人間の営みを描いてきた物語の中心でストーリーを牽引するのが、一人二役で鉄平と玲央を演じる神木隆之介だ。とりわけ、アニメ映画の声優としても経験が豊富な神木の声による演じ分けが、この特殊な物語を分かりやすいものにしているとも言えるだろう。
玲央を演じる時の誰からも距離を取り、諦めたような声色と、鉄平を演じる時の素直で優しく正面から相手に向き合う熱い声色は、一人二役であることを忘れさせるほど異なる。また、鉄平は家族や朝子に愛を向けているが、玲央は母親のことを「母親の人」と呼ぶなど、友愛の感情を一つも知らない様子。声色だけではなく、ふとした視線、その力強さ、目に宿る光からも人間性の違いを感じさせる。鉄平と玲央に血縁があるとしたら、どのように現在の玲央へとつながったのか。両極端な芝居を見せているからこそ、鉄平の行方を辿ることになる最終章に期待を寄せてしまう。

また、神木は端島パートのモノローグも担当している。このモノローグは、鉄平の心情説明というよりも、セリフや映像だけでは説明しきれない端島の特殊な状況を説明する役割を担っている。モノローグの内容には客観的な視点がありつつ、その声色には端島への強い愛情が滲む。状況説明とも感情説明とも感じさせない不思議な距離感のモノローグは、端島パートを単なる過去の出来事ではないと納得させる力がある。淡々と説明する場面や熱を込めて楽しそうに語る場面もあれば、一言ずつ噛み締めるように語る場面もあり、言葉に向き合う神木の真摯な態度が表れている。
第4話のモノローグは特に素晴らしかった。端島の人々は、大き過ぎる後悔を自分に突きつけないように、誰かを傷つけないように、戦争にまつわる記憶に沈黙する。表には出さない生々しい戦争の記憶と感情を、鉄平のモノローグが補った。精霊流しや盆踊り、端島の人々が見上げる花火と共に流れる鉄平の切実な平和への祈りは、このドラマに出会えてよかったと思わせる、秀逸なものだった。