それぞれの音楽シーンの最前線を駆け抜け、新たな潮流を生み出してきたSIRUPとSKY-HI。2人はこれまで、音楽性や社会への意識でシーンを切り拓きながら、次世代のアーティストが目標とするような活動を届けてきた。そんな彼らは現在、30代後半。デビュー当初の「若手アーティスト」としてのフェーズを超え、音楽業界の中で確固たるポジションを築いている。
今回は、音楽シーンのパイオニアとして活躍してきた2人に、これまでのキャリアと、これからの未来について話を聞いた。自身の進化、これからのアーティストとしての在り方、そしてSIRUPがホストを務めるイベント『Grooving Night』での共演について——彼らが見つめる「新たな道」とは?
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一番やるべきなのは「未来の俺みたいな子」を救える場所を作ることだと思った。(SKY-HI)
―まずはお互いにシンパシーやリスペクトを感じる部分について聞きたいです。
SKY-HI:俺はね、やっぱSIRUPの楽しもうとする姿勢がいいなって。「選挙行こうぜ」をいかに楽しそうに言うかっていう。
SIRUP:『Grooving Night』も確かにそれに近いものはある。
SKY-HI:人って、真面目な話をするゾーンとふざけたことを言うゾーンを完全に分けちゃう方が楽じゃない。俺自身もそういう時があるんだけど、SIRUPはそこを分けずに混ぜていく感じがすごいよね。

圧倒的なRAPスキルのみならず、卓越したボーカル&ダンス&トラックメイキングスキルでエンターテインメント性溢れるコンテンツをセルフプロデュースで創り上げ、常に世に提示し続ける。2020年には、マネジメント/レーベル「BMSG」を立ち上げ代表取締役CEOに就任。ボーイズグループBE:FIRSTやMAZZELをプロデュース。アーティスト・プロデューサー・経営者と多岐に渡り才能を発揮している。
SIRUP:嬉しいです。俺はSKY-HIの、社会的意義を持って何か変えようと活動する部分にシンパシーを感じてて。その上で、ビジネスとして成功させているところも尊敬してる。自分はまだ「自分のことを通して」というスケールで動いているところがあるし、結構感情ベースで動くけど、SKY-HIは知的好奇心が強くて、戦略的なデータベースと自分の感情が合わさって色々な角度から言葉が出てくるのはすごいなって、マジで思います。
SKY-HI:ありがてぇ。
SIRUP:あとは音楽シーンをもう、全部経験してるじゃないですか。
SKY-HI:そうなの。キメラだよね。
SIRUP:この業界、長くやればやるほどキメラになっていきますよね。
SKY-HI:なりたくてなったキメラでもあるけど、ならざるを得なかったキメラでもある。やりたいこと自体は昔から変わってないんだけど、2010年当時のHIP HOPの状況とかロックフェスの状況とか、生存環境が毎回違ったから、エラ呼吸もできるけど空も飛べる、みたいな生き物になっちゃった。「ロックバンドのボーカリスト」みたいなわかりやすさとは対極の、説明が難しい、ハイコンテクストな人間になっちゃったなって。
SIRUP:アイドルとしてのアイデンティティも、ラッパーとしてのアイデンティティも完全に築いてきたじゃん。それは尊敬しているところだし、ほんまにめちゃくちゃしんどかったよなって。何かしらのレッテルを貼られたり、枠にはめ込まれても切り込んでいった。ハートの強さがあるなって。

ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&BにゴスペルとHIPHOPを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで、誰もがFEEL GOODとなれる音楽を発信している。「FUJI ROCK FESTIVALʼ21」に、国内のR&Bアーティストでは異例となる初出演でメインステージ GREENSTAGEに立ち、圧巻のパフォーマンスを魅せた。これまでにイギリス・韓国・オーストラリア・台湾などのアーティストとのコラボ曲をリリースしている他、2022年には自身初となる日本武道館公演を開催するなど、日本を代表するR&Bシンガーとして音楽のみならず様々な分野でその活躍を広げている。
SKY-HI:あと、無謀さね(笑)。
SIRUP:無謀さと「絶対やってやるぜ」っていう自信を、10年以上持ち続けているんだよね。しかも自分のことだけじゃなくて、BMSGもやっているわけで。
SKY-HI:「ああやって苦しんだから、これが生まれたんだ」ってものが欲しくて会社を作った側面もある気がする。自分の会社を作って、自分の好きな音楽を作って……っていう夢は、やっぱ見るじゃない。20代の頃は、この規模感でやろうっていうところまでは考えてなかったけど、BMSGの準備をする時に、自分1人でやるのか、Novel Coreみたいな毛色の変わったアーティストを抱えるHIP HOPレーベルをやるのか、第3の選択をするのか、考えたの。それで結論、一番やるべきなのは「未来の俺みたいな子」を救える場所を作ることだと思ったんだよね。
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やっぱ自分のことが分からない。200人くらいいる自分を「1人ずつ肯定する旅」をしてる。(SIRUP)
SIRUP:もう1つ聞きたいのが、自分たちの世代だとレゲエとHIP HOPはバチバチに対立していたじゃない? 今はアイドルもHIP HOPも全盛期だけど、この動きをどう捉えてるのかなって。
SKY-HI:俺たちが20代後半の時って、まさに韓国がそうだったじゃん。アイドルとHIP HOPが全盛で、HIP HOP性の強いアイドルのラッパーと、アイドル性の強いHIP HOPのアーティストがコラボすることが沢山あったし、それが羨ましかった。だから今自分が20代前半だったらトライしてみたかった気持ちもあって、羨ましい。でも、俺が引退してからじゃなくて、自分が現役でマイクを握っているタイミングで、日本の音楽シーンがここまでくることができたのは良かったなって。

SIRUP:それを実際に担ってますしね。
SKY-HI:何かを担っている自負はあるし、もっとやりたいこともいっぱいある。ちゃんみなと一緒に『No No Girls』もやったけど、ちゃんみなはコロナ禍に週5で会ってた親友でもあるし、よく一緒にいる中で、自分自身をジャンルとして提示するってことを、まだ自分はやり切れてないなって反省して。だから今年は久しぶりにアルバム出すけど、ちょっと頑張ろうって感じ。
―何を頑張りたいんですか。
SKY-HI:存在証明。BMSGの中ではプロデューサーとしても社長としても権力勾配が自分に傾いている分、承認欲求を消す必要があるって意識してて。BE:FIRSTと一緒にやっていくことでその欲求が満たされてもいたから、承認欲求がない時期を2年くらい過ごしてて。その状態でいられること自体は人としては素晴らしいことだけど、表現欲求も薄くなっていて。それが去年、承認欲求が今一番強い時期の若いアーティストたちと話したり、一緒に物を作ったりする中で、「今、俺、一番頑張らなきゃ駄目な時だ」と思って、また最近めっちゃラップしてる。
―承認欲求の話でいうと、自分がやりたいことと、自分が他の人のためにやりたいことっていうのが混ざって、アーティストがプロデューサーの所有物になっちゃうっていうのは、問題としてありますよね。
SKY-HI:そうならないようにしたいなと思ってたんけど、今は特に意識してないかも。シンプルにそれが、やるべきことの優先順位に入らない。なんでアルバムを出すのかっていうと、それを「やりたい」ってだけじゃなくて、「やるべきこと」だと感じてるから。BMSGとしてBE:FIRST以外にも色んなアーティストがいて、「中1から見てきた新しいグループのデビューが今年あるよ」ってなったら、多分世間的な説得力をもう1つ作る必要があるなって。つまりBMSGっていう法人格での優先順位と、自分個人の「今やりたいこと」が重なってるから、フルスイングしてるっていう感じ。「やるべきこと」と「やりたいこと」が合致しない限りはリリースしないようにしようかなって思ってて。

―やりたいことを両方で見つけ、やりたいことがあり続けるっていうこと自体がすごい難しいよね。それはたとえばSIRUPの場合だったら、数字を追うこと以前に海外のアーティストと曲を作ることによって、新しい世界を知るとか、社会的な課題に対する活動をするとかあると思うんだけど。
SIRUP:そうですね。あとすごいパーソナルな話になってくるけど、やっぱ自分のことが分からないんですよね。200人くらいいる自分を「1人ずつ肯定する旅」をしてる感覚もあって。
SKY-HI:なんか分かるかも。
SIRUP:色んな人と向き合うことで自分を知っていく、みたいなのが好き。やっぱり海外コラボとか、文化圏を超えていくと、学びも出会いもすごくある。自分はまだ、めちゃくちゃ時間をかけて自分自身をコントロールしてる感じがあるけど、SKY-HIがこれだけ色々なことをやれるのって、そこが長けてるんだと思う。同時に、自分を大事にしてるじゃないですか。
SKY-HI:一応してると思う。できてるはず。
SIRUP:だから、今のBMSGのために自分をもう1個格上げしたいっていうのもあると思うし。
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SIRUPが「楽しんで発信する」現場の空気に興味がある。(SKY-HI)
―「色々なところに出て行って、人との出会いを通じて新しい自分を知る」って話が今出たけど、『Grooving Night』がまさにそういうテーマだと思う。あと日高くんが「色んな優先順位がある」って話をしている中で、『Grooving Night』に出てくれるのが嬉しいなって。
SKY-HI:シンプルにSIRUPと話したいなと思って。自分のラジオ番組もそうだけど、会いたい人と、アイドリングトークなしで真面目な話がたくさんできるから、時間以上に得られる栄養が大きい。リソース取られるって意味では確かにそうかもしれないけど、SIRUPと深い話から軽い話までできて、しかもセッションまでできるのなら楽しいなって。今話したい人ランキングで言うと、トップ3では間違いなくある!
SIRUP:めちゃくちゃ嬉しい。

―『Grooving Night』に関して、興味のある点は?
SKY-HI:さっきも言った通り、SIRUPの「楽しんで発信する」って部分を尊敬してるし、それを実際にやってる現場の空気に興味がある。もちろん色んな仲間含めてのアクションだとは思うけど、代表して表に立つ立場のSIRUPの姿はめっちゃ見たいな。SIRUPは音楽も含めて、メッセージが説教臭くないし、あざとさがないよね。やっぱり、あざとさがないのはデカいかも。
SIRUP:コロナが始まってからは特に、説教臭くにならずに「みんなで考える」「自分の考えを伝える」のをどうやるのか考えてた。『Grooving Night』を企画する時も(初回は2023年3月開催)、「寝る前に喋ってるぐらいのものをみんなでやろう」っていうアイデアがあって。今までゲストに来てくれた人たちも社会的問題に関する発信をしている人たちだったけど、SKY-HIはその中でも一番取り組みまくって発信もしながら、メジャーのところでも勝ち抜いてる人。もっと言うと、社長という側面がある人と俺が、ベッドを並べて何を喋るのか、楽しみにしててほしい。


SKY-HI:その感じがすごい素敵だなと思う。過激派じゃないっていうかさ。絶対に主張すべきものは強く持ちつつ、世の中にたくさんある「そうは言っても」の部分を許容する心もあるじゃん。世の中を良くするためには、潔癖では良くないって思うんだよね。江戸時代の「白河の 清きに魚も 住みかねてもとの濁りの 田沼恋しき」(※)じゃないけどさ。発信することも白か黒かじゃなくて、白に近いグレーに近づけていきたいし、真剣な話でも空気が硬いのは嫌だから、なるべくカジュアルにやりたい。だからさ『Grooving Night』のパジャマでやるというインターフェースはすごくいいよね。
※編注:汚職にまみれた田沼意次時代の後、寛政の改革を進めた松平定信のあまりの引き締めに庶民が辟易し、田沼時代の華やかさを懐かしんだ歌