今年3月に5曲入りのEP『TINY LAND』をリリースしたシンガーソングライターのシトナユイが、早くも新曲“まっすぐ”を発表。「あざとさ」を上手に演じられる女性を横目で見つつ、「まっすぐ」にしか生きられない自分を少しばかりユーモアを交えて描写してみせた楽曲で、これまでのシトナユイとは打って変わって赤裸々な歌詞の世界が印象的だ。
高校まで女子校で過ごしていたというシトナは、大学に進学し周りとのコミュニケーションをどう再構築していったのか。そこで経験した異性間の気持ちのすれ違いやギャップを楽曲にどう落とし込んでいったのか。自身の恋愛観や人生観とともに、ざっくばらんに語ってもらった。
INDEX
“まっすぐ”が私の音楽人生を変えたといっても過言ではなくて。
─資料によると、新曲“まっすぐ”は3年ほど前に完成していたそうですね。当時どのようにしてこの曲が生まれたのか、まずはその経緯を教えてもらえますか?
シトナ:この曲は、当時通っていた大阪音楽大学の楽曲コンペで生まれたものでした。前回のインタビューでも話しましたが、授業でたとえば「アイドルへの楽曲提供」みたいにお題を出され、そこから曲を作ることをよくやっていて。そこで「純愛サイダー」というキーワードを基に曲を書く機会があったんです。「なんて変なお題なんだろう」って思いながら作ったのが最初のバージョンでした(笑)。
─「純愛サイダー」というお題をもらってから、どのようにイメージを膨らませて歌詞に反映させたんですか?
シトナ:コンペだと、やはり周りと違う角度から曲を作らなければというプレッシャーがあったんです。「純愛サイダー」というワードから、普通なら青春のど真ん中で夏っぽいロケーションをイメージしがちだと思うんですけど、私は逆にダンスミュージックに振り切ってみようと。当時憧れていたトム・ミッシュの影響を取り入れ、青春の「爽やかさ」と「あざとさ」をテーマにして作りました。
─コンペだったからこそ、一捻りした発想が生まれやすかったのかもしれませんね。
シトナ:だと思います。周りと同じような曲を作りたくないという意識が働きましたし。もともと私は映画音楽が作りたくて大学に入ったので、このコンペがきっかけで初めて歌ものに挑戦したんです。先生たちに「声がいいね」と褒められたことで自信がつき、そのテープを今の事務所に送ったのがきっかけでアーティストとしての道が開かれました。この経験がなければ、歌ものに対する興味が湧くこともなかったかもしれないですし、この曲が私の音楽人生を変えたといっても過言ではなくて。
INDEX
自分をさらけ出す時期だと思った。
─なるほど。今回、3年経ってリメイクしようと思った理由は?
シトナ:シトナユイとしてアーティスト活動をスタートして、これまでの私は渋くて大人っぽい、ちょっと謎めいた洋楽的なサウンドを奏でるイメージが強かったのですが、前のアルバム『MUSEUM』や“Coffee Time”(『TINY LAND』収録曲)を出したあと、もっと明るくダンスミュージック寄り、かつ人間味のある曲を出す時期だと感じたんです。これまで歌詞はすべて英語で、何を歌っているのか分からない部分もあったかもしれませんが、今回は全編日本語で自分をさらけ出す時期だと思ったのが、リメイクに挑戦した主な理由です。
最初のバージョンはもっと生っぽいサウンドでしたが、今回のバージョンではダンスミュージック感やハウス感を強調しています。歌詞やメロディ、コード進行はほとんど変わっておらず、アレンジとサウンドプロダクションが大きく変わりましたね。
─リメイクする上で、何かお手本にしたアーティストはいましたか?
シトナ:トム・ミッシュをベースに、DURDNやBREIMEN、HONNE、韓国のOOHYO(ウヒョ)など、私が最近好きなアーティストたちの要素を詰め込みました。特にDURDNにはすごくハマっていて、その影響が今回のアレンジにもかなり反映されていますね。
─タイトルにもなっている「まっすぐ」は、歌詞の中で「まっすぐに生きる」や「まっすぐな愛」などさまざまな意味が込められています。シトナさんが考える「まっすぐ」とはどのようなものですか?
シトナ:「まっすぐ」というキーワードは、「純愛ソーダ」の「純愛」からすぐ浮かんできたんですけど、私自身、すごく「まっすぐ」な性格なんです。嘘をつくのが下手だし、友人にも「今、帰りたいんでしょ?」「顔に出てるよ」なんて見透かされちゃうこともしょっちゅうで(笑)。
―素直なんですね(笑)。
シトナ:何事にもすごく熱中する性格で、恋愛面だけじゃなくて、自分の身内や友達、大好きな人に対しても、裏切らず、嘘をつかずにまっすぐ向き合いたいタイプなんです。この曲で「まっすぐが嫌だ」とか「きつい」と歌っているのは、あざとい女性像を自分なりにイメージして、そのキャラクターがそう感じているんじゃないかなと考えました。
─つまり「まっすぐ」な人の対比として「あざとい」人を描いたのですね。「あざとい」という言葉についてはどんなイメージがありますか?
シトナ:私は中高一貫の女子校に通っていたので、男女が一緒にいる雰囲気とか全然わからなくて、大学に入ってから「共学の子ってこんな感じなんだ」と驚いたのを覚えています。その時に「あざとい」っていう言葉にすごく興味が湧きました。
私、基本的に高いところある物を取るときも自分で椅子を持ってきてその上に乗るし、アンプやギターも自分で運ぶタイプなんですけど、すごく可愛い子たちは誰かに頼る術を知っていて、そういうところに憧れを感じることもあって。それがこの曲のテーマを決めるきっかけになったんだと思います。
─「誰かに頼る術」って、例えば「これ高くて手が届かない」みたいなことを、男性の前で言えちゃうようなこと?
シトナ:そうそう。防音室のドアが重たくて、中から「開けられない!」と男性に言っているのを見て、「え、じゃあどうやって入ったの」と思ったりして(笑)。そういう場面が楽しくて面白かったので、そこにフォーカスした曲が作りたかったんでしょうね。
INDEX
ありのままの自分をそのまま出している女の子ってあんまりいないと思うんですよ。
─<Boy dreaming sweet pretty cute charming girlfriend / (Hah) it’s just a 幻想>(男性が夢見る「可愛くてキュートでチャーミングなガールフレンド」なんて幻想)と英語で歌っていますが、実際にそう思ったことはありますか?
シトナ:実際に思ったことはあまりないですけど、私の場合、それとは逆の幻想をたまに押し付けられることはありますね。大人しくて人見知りの性格なのに「すごく遊んでそう」とか「強そう」「恋愛経験豊富そう」みたいに言われたりして。どちらにせよ、ありのままの自分をそのまま出している女の子ってあんまりいないと思うんですよ。なので、そういう他者からの押し付けに対する皮肉がこの曲にはちょっと込められているんです。
─特にセクシュアリティーをオープンに表現している女性に対しては、蔑視的な振る舞いをする男性が少なくないと感じています。
シトナ:そうですね、実際にそういうこともあります。私が何か問題に直面した時や周りの状況を見ていると、「あの子、お化粧濃いよね」とか「男の子とばかり仲良くしてるよね」なんて言われたりして。そういう、外からの印象や思い込みで孤立することもありました。これは女子高でも共学でも、学生や女性特有の世界なのかもしれない。
─ちなみに、男性が描く作品に登場する女性について、ここで言うような「可愛くてキュートでチャーミング」な、いわゆる男性の幻想を具現化してると感じることはありますか?
シトナ:作品に限らず、男性社会では「女の子はこうであれ」みたいな願望って確かに感じる時はあります。私、坂道系のアイドルが本当に好きなんですけど、彼女たちに対してそう思っている男性は多いし、それを受け入れているアイドルも中にはいると思います。
─おっしゃるように、アイドルはファンの幻想を背負っている部分が少なからずありますよね。それに抗い、自分らしさを通すアイドルも増えてはきていますが、そういう人たちはバッシングの対象になりやすい。
シトナ:そうですね。逆に、私を含めた女性も男性に対し「イケメンで高身長がいい」みたいな理想を押し付けてしまう場合もあって。結局、お互いに幻想を抱き合っているところがあるのはないかと。その幻想に対して皮肉を込めたような、一歩踏み込んで表現する曲があってもいいかなと思っています。