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何かを食べさせるさとこの姿と母の並べた「ご馳走」の数々

先の記事でも書いた「生産性や向上心があってこそ認められる場所」である社会から一歩外れたその先にある「自分のペースで生きる幸せ」には、常に少しの「孤独」が付き纏う。本作を通して痛感するのは、自分らしく生き続けることと、大切な誰かと一緒に生き続けることは必ずしも一致しないということだ。でも、ずっと1人で生きなければならない訳ではなくて、それぞれに孤独を抱えた彼女ら彼らは、「食」を通して互いの幸せをちょっとずつ持ち寄って暮らしている。相手の思いが強くなり過ぎたら少し離れて、適切な距離感を意識しながら。
他者の葛藤を目の当たりにしたとしても「抱えている悩みは1人ずつ違って、他人にはどうすることもできないのかも」と、ただ傍で話を聞くだけで、深くは関わろうとしないさとこが、話す相手に対し、突発的に何かを食べさせようとする姿が好きだ。例えば第5話において、司と行った山で彼の過去の話を聞き、何を言うでもなく、手にしていた「気持ちが沈んでいる時にいい」「元気になれる」栗を懸命に差し出そうとする姿。もしくは第6話において、できたての金柑のシロップ煮を、受験勉強のために部屋を借りに来た弓の口に放り込む姿。一方で、さとこの母・惠子が、さとこの家を訪ねテーブルの上に餃子に酢豚、ハンバーグ、エビグラタンと「ご馳走」を4つも並べたのも、母の「食」を通した愛だった。その後、実家に赴いたさとこは、庭でままごとをして遊ぶ姪を見て、姪にかつての自分を重ね、母の並べた「ご馳走」の数々が、どれも過去の自分の好物だったことを思い出す。