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聴く者の意識を最小単位まで分解し集中させる『ultratronics』の凄みが凝縮
さて、あまりに刺激的なオープニングを経て皆がビリビリと身体の痺れを感じる中、Ryoji Ikedaが颯爽と現れる。巨大なスクリーンを背後に必要最低限の機材とともにぽつねんとたたずむシンボリックな姿は、それだけでRyoji Ikeda作品の概念を表象しているようだ。

早速、傑作『ultratronics』の冒頭の曲“ultratronics00”が静謐なパルス音とともに始まる。まずここで、身の毛がよだち、毛穴が開くのが分かる。観客の身体がびくっと動き、会場中に鋭敏な感覚がうごめく。そのまま“ultratronics01”になだれこみ、白 / 黒のモノクロームでデータを視覚化したかのような映像がスクリーンを占拠し、音と映像が同期しながら会場全体を突き抜けていく。もちろんそれ自体は特に目新しいものではなく、これまでのRyoji Ikedaワークスにおいても度々実践されてきた手法であるが、多岐に渡る彼の取組の中でも今回は『ultratronics』という明晰さを凝縮したような作品のライブであるがゆえに、これまで以上にシンプルで透き通った凄みが直接的に働きかけてくる印象だ。
そしてここに、『ultratronics』のライブ公演が持つ体験としての本質がある。というのも、映像にしても音楽にしても、聴く者の意識を最小単位まで分解し集中させるのが『ultratronics』の傑出した作用であり、だからこそ、映像を構成する光=電磁波や、音楽を構成する音=機械波が物理的な波動現象として私たちの身体に働きかけることを実感させられるからだ。映像や音楽を電磁エネルギーとして、また分子の運動エネルギーとして知覚できるレベルにまで研ぎ澄ませていくのが本公演の最大の醍醐味と言っても過言ではない。特に、尋常ではなく太い低音域を随所に織り交ぜることで生まれるダイナミズムは、時に骨伝導としても私たちの身体に打撃を与える。皮膚が、聴覚や視覚といった機能をも持ち合わせた「0番目の脳」と呼ばれる高機能な感覚器官であることを思い出すのである。
