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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

雑誌『Pen』主催イベントに細野晴臣、小山田圭吾や蓮沼執太、大森時生らが集結

2025.3.3

#MUSIC

2025年1月25日、東京・TOKYO NODEにて雑誌『Pen』が主催するイベント『Welcome to Pen 2025 CREATORS FES.』が開催された。

同イベントでは、同誌が創刊時から大切にしてきた「上質な日常を提案する」というコンセプトと、世の中のあらゆるクリエイションをリスペクトする姿勢のもと、その年に活躍したクリエイターを称える『Pen CREATOR AWARDS 2024』授賞式、映像上映、トークショー、音楽ライブなどが行われた。

その中から、映画『ルックバック』トークセッション、小川哲×大森時生トークショー『現実と虚構』、細野晴臣×水原希子 / 水原佑果のトーク、蓮沼執太&小山田圭吾(Cornelius)によるライブの模様をお伝えする。

押山清高×担当編集・林士平による映画『ルックバック』トークセッション

映画『ルックバック』トークセッションでは、ダウ90000主宰の蓮見翔を聞き手に、同作の監督 / キャラクターデザイン / 脚本 / 作画を担当した押山清高、原作漫画の担当編集を務めた林士平が、作品制作の裏側や魅力を語り合った。

左から押山清高監督、林士平

まず話題に上ったのは、制作形式。58分という単独作品の映画上映では珍しい上映時間、それを監督も含むたった8人のアニメーターで作り上げたという体制に関して質問がなされた。

林は「原作漫画も144ページで、紙の雑誌でも発表しにくいボリュームでしたが、『少年ジャンプ+』があったことでポンと掲載できました。劇場版アニメもこの時間でどう反応されるかと思ったんですが、クオリティが高ければ楽しんでもらえることがわかりました。今まで劇場作品は90分、120分を目指している人が多かったと思うんですが、これで物語の作り方が広がったと思います」と自身の経験も交えて回答。

押山は「監督だけでなくアニメーターとしてもかなり仕事を抱え込んでしまったので、後半が大変なことになりました(笑)。最後の1週間は、身体が壊れてもいいと1000枚ぐらい描いたんです」と苦労話を披露しつつ、「60分の作品は普通なら20〜30人ぐらいアニメーターが必要です。ですが尺が短い分、絵を濃密にして情報量を増やすことで満足度を高めたい狙いがありました」と語った。60分だから作業が楽というわけでなく、むしろ長編作品やシリーズ作品の方が設定資料などの流用ができ、スムーズに作業できる部分もあるという。

「自分でも漫画を描いてみたくなりました」(押山)

『ルックバック』は2人の少女が漫画家を目指して奮闘する物語だということもあって、本イベントのテーマでもある「クリエイター」に関する話題も上った。

林が「漫画家やアニメーターは、起きている間ずっと描き続けています。この作品がクリエイターに大きく響いたのは、そうした様子をこれでもかと描いたことだと思います。そして実際に押山監督もそうでした(笑)」と語ると、「普段やっていることと内容が一致した、幸福な作品でした」と押山も同意した。

押山は、本作の制作を通じて「自分でも漫画を描いてみたくなりました」と語る。けれども40歳を超えていても可能性はあるだろうか? と尋ねる押山に、林は「ものすごくあると思いますし、今後会社を定年退職した漫画家が増えてくるんじゃないかという予感もしています。今は様々なテクノロジーが作業をサポートしてくれますし、いずれ日本人全員が漫画を描いた経験がある状態にしたいんです」と力強く背中を押した。

押山は、漫画を描いてみたくなった背景に、アニメ制作は膨大な時間とお金がかかる困難がつきまといがちな点があると話す。「今から新作映画を作ろうと思っても、完成は5年先ぐらいでしょう。でも漫画は1人で描けるし、言ってしまえば生活費プラスアルファぐらいの費用で済みます。今は漫画やアニメに海外の投資家も注目している中で、1年ぐらい時間を投じてもいいかもしれないと思っています」。

アニメーターと漫画家、仕事にする上で気になる生の声

最後の話題は「アニメーターの良いところは何か」。押山はその魅力を「ものづくりをすること自体に幸せがある」と語る。

「たとえヒットしなくても作っている時間は幸せだし、完成したらもっと幸せです。アニメーターは目の前の作業に没頭できる仕事だし、チーム制だから給料も出る。自作の売上に収入が左右される、漫画家より安心感はあると言えるかもしれません」。

林はそれに対して、漫画編集者の目線から「漫画作品がアニメ化されると、自分でも不思議に思うぐらいの広がりがあるんです。『ルックバック』も国内より海外での収益の方が大きいはず。特に海外のこれまで漫画を読んだことがない人は、最初にある程度読み方を学習しなければならないから、アニメの方が海外には広がりやすいです。漫画制作の方がトライはしやすいですが、アニメの方が広がる可能性は大きいと思います」と語った。

ここまで聞き手を務めた蓮見は「『ルックバック』を劇場で観た時に、藤野が漫画を描く背中を映すシーンでもう泣いてしまったんです。今日お2人の話を聞いて、クリエイターたちの多くの思いが込もっているから惹かれたのかもしれません」と締めくくった。

司会の蓮見翔(ダウ90000)

直木賞作家の小川哲とプロデューサー大森時生が「現実と虚構」をテーマに対談

トークショー「現実と虚構」では、テレビ東京のプロデューサー / 演出家として『イシナガキクエを探しています』『飯沼一家に謝罪します』などフェイクドキュメンタリー作品を手掛ける大森時生と、小説『地図と拳』で直木賞を受賞した作家の小川哲が対談。2人は何度か食事にも行った仲だという。

左から小川哲、大森時生 撮影:河内彩

最初に『飯沼一家に謝罪します』の冒頭部分が上映され、両氏による「現実と虚構」をテーマにした対話が始まった。

まず大森は、自身が手掛けた作品だけでなく、『変な家』(小説 / 映画)、『近畿地方のある場所について』(小説 / 映画化決定)など、広義のフェイクドキュメンタリーやホラー要素のある作品が度々話題を呼んでいることを指摘。「こうした盛り上がりは今がピークだと感じますが、一般論として景気が悪いとホラー作品が流行ると言われています。僕は1995年生まれで、現在に至るまで世相が良くなったと感じることはありませんでしたが、皆さんも生きていて楽しいことが少ないかもしれないのかなと。作品を通じて最悪さを享受することが、意外に救いになることがあると思うんです。暗い気持ちの時には明るいコンテンツが受け入れられないことがありますし」と語る。

以後の対談では「フェイクドキュメンタリーの表現形態はどんなもので、どのように観客の心を動かしているのか」が話題の中心となった。

フェイクドキュメンタリーは「レイヤー操作」がカギ

両氏は、フェイクドキュメンタリーの特徴は「作品を捉える際のレイヤー(階層)が多く複雑なこと」にあると語る。例えば『飯沼一家に謝罪します』は、同作に登場する「飯沼一家」が火事で亡くなってしまった謎を追う架空のドキュメンタリー番組として展開するが、作中ではさらにその飯沼一家が存命時に出演した、別のバラエティ番組も流れるという複雑な構成だ。大森は「自分の態度を決めかねる、保留せざるを得ないのがフェイクドキュメンタリー独特の感覚です。ホラーではない作品でも不安になってしまうのは、このレイヤーが見定められないからです」と語る。

https://youtu.be/5reWQdYhe6c?feature=shared
大森時生プロデューサーが、ホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』の皆口大地、『フェイクドキュメンタリーQ』の寺内康太郎のほか、『第2回日本ホラー映画大賞』を受賞した近藤亮太らとタッグを組み制作するテレビ東京の人気シリーズ『TXQ FICTION』第2弾。

さらに大森は、そうしたレイヤー操作はフィクション以外の番組でも行われていると指摘する。

「バラエティ番組でVTRが流れている際、スタジオの様子を捉えたワイプも同時に映されるのは、視聴者のレイヤーを固定するためです。これは、視聴者がVTRを見てどんな感情を抱けば良いのかもアウトソーシングされていると言えますし、今は大量のコンテンツがある時代なので、いちいちそれらを見て感情を動かすのも大変だからということで、ワイプがあることは意外に大事なんです。そうした作用を応用したのがフェイクドキュメンタリーだと思っています」。

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