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10代のころから苛まれていた「もうひとりの自分」との関係にも変化が
―歌詞についても生活のワンシーンを描写した楽曲が戻ってきましたよね。ジャケットの写真も含めて「暮らしにもう一度立ちかえろう」というスタンスが見えます。
折坂:『平成』のころの歌詞のつくり方は短編小説に近かったと思うんですね。俯瞰した視線があって、いろんな人生があって、いろんな主人公がいるという。今回の作品はこれまででいちばん自分の生活や体験に近いと思う。
『心理』では自分の生活や体験で得たものをデフォルメしたり気をそらしたりしながら言葉を羅列していたと思うんですけど、以前は恥ずかしく感じたことも、いまは恥ずかしげもなく歌えるようになりました。

―何かきっかけがあったのでしょうか。
折坂:生活を変えていくなかで自分の考え方の癖を見直したんですよ。以前は自分のことを俯瞰で見ているもうひとりの自分がいて、10代のころからその存在に苛まれてきたんです。
昔は自分を肯定するやり方がわからなかったし、音楽をはじめてからも自分が何なのか知るためにエゴサーチばっかりしてて。「みんな私のことをどう思ってるんだろう?」ということが気になってしまって。
―昨年末にはXの投稿もやめましたよね。
折坂:そうなんですよ。以前は俯瞰して自分を見ているもうひとりの自分と対峙したくなくて、誰かのツイートに寄りかかっていたんです。もうひとりの自分に向かって「お前は嘘を言ってる。みんなこう言ってくれてるじゃないか」と(笑)。
でも、ちゃんと「この人(もうひとりの自分)」に向き合って話し合わなきゃと思って。そのためには身体を動かしたり、自分の生活を整えるようにしないと、こいつと話せないと思ったんですよ。そういうことをして、ようやく疎通が取れるようになってきました。

―アルバムの最後に収められている“ハチス”には、<きみのいる世界を「好き」って / ぼくは思っているよ>という一節もありますね。こんな言葉が折坂さんから出てくるとは思わなかったので、少し驚きました。
折坂:前だったら違う表現に置き換えていたと思うんですけど、こういうことも歌えるようになってきたんですよ。
―以前だったら恥ずかしかった?
折坂:そうですね。