メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

森山直太朗インタビュー 「素晴らしい世界」に直面した、父親と自分の死の淵を語る

2025.3.28

#MUSIC

「素晴らしい世界」は死の淵で見えるもの

―映画には『素晴らしい世界は何処に』というタイトルがついていますが、2022年にリリースされたアルバムに“素晴らしい世界”という楽曲があり、ここから「素晴らしい世界」を森山さんが表現し始めたかと思います。そもそも「素晴らしい世界」について考え始めたのは、どうしてだったのでしょうか。

森山:2021年夏に、コロナにかかっちゃったんですね。かなり重症で、1週間ぐらい熱が40度ぐらい出続けて。ベッドの上でのたうち回るみたいな感じで、酸素濃度も、命が危ない数値を叩き出していたんです。それで、どんどん意識が朦朧としてくると、幻覚とか悪夢を見始めるんですね。

森山:そうやって自分の身体が蝕まれる究極的な恐怖に襲われる中で、自分の中にある闇みたいなものを見たんですよ。同時に熱でそれをデトックスするみたいな感覚もあって。身体的にも、例えば今まで活動している中で、どうしても薬を飲んだり、点滴を打ったりして、抑え込んできたものがウァーってそのとき出て。

―はい。

森山:全てが通り過ぎた10日後ぐらいに、凪いだ水面に自分がポンとこう、いるみたいな感覚になったんですね。大嵐の次の日にからっと晴れたみたいな景色が広がっていて。そうすると、見える景色が変わるんですよ。いつもだったら通り過ぎてしまうような景色、例えばカーテンから光が射してるとか、園児たちが外で遊ぶ声が外から聞こえてくるとか、そういう何でもないことに涙が止まらない。それで、おトイレに行って排泄するじゃないですか。もう、それだけで涙が止まらないんですよ。

―生きていることの実感、でしょうか。

森山:でしょうね。「人生なんてこんなもんだ」とか、「いつか死ぬんだ」とか、頭では分かってるつもりじゃないですか。それに死ぬ勇気も努力もしないくせに、死んでしまいたいと思ったりとか。だけど、身体はこんなに生きることに執着してるんだと思ったら、すごく尊いなっていう感覚になって。その時に、“素晴らしい世界”っていう曲が生まれたんです。

ーその時の森山さんに見えていた景色が、「素晴らしい世界」だったという

森山:そう。つまり死のような闇に直面して景色の感じ方が変わったときに、「素晴らしい世界」は自分の中にあるものだと分かりました。それまでは自分の外にある社会とか環境、周りの人に対して自分なりの素晴らしさを求めてたんだけど、なんてことない、自分の中にしかないものなんだって感じて。だからコロナになったことは超バッドメモリーなんだけど、僕にとってはすごく大切なプロセスや経験がありました。

―そこで見えた景色は、それ以降も見え続けているんですか。

森山:いや、今は見えなくて、あの感覚にどうやったら戻れるんだろうって思うぐらい。今までと同じような生活に戻っちゃうと、やっぱり人間って思考が止まっちゃいますね。だけどあの経験について今こうやって久々に話して、少しでも思い出せた気がするから、よかったです。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS