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墓場まで持っていくかもしれなかった、お父さんへの愛惜に向き合えた時間
―“papa”はお父さんのことを歌った楽曲で、この映画でも核となると思います。改めてどういった状況で生まれた楽曲なのか、教えていただけますか?
森山:“papa”に関しては、実は“ママ”っていうタイトルで、18、19歳ぐらいからモチーフはずっとあったんですよ。でも20年以上歌詞が付かなくて、だからいつかきっかけがあれば、誰かに提供しようと思ってたんです。だけどある一件があって、この曲を引っ張り出して“papa”っていうタイトルにしてみたら、するするするって曲ができたんですね。
―その一件は、どういうことだったんでしょうか。
森山:うちは両親が離婚していて、父とは小学校5年生ぐらいから何となく離れて暮らしていたんです。離婚の原因は色々あると思うけれど、母がすごく存在感の強い人で、ましてや母の実家に父親が婿入りした形だったから、父は所在がなかったのかな。でも子どもの自分としては、離婚は全然望んでることじゃなくて……そんな感じでしばらく時が過ぎていたんですけど、2020年に、とある人との会話の中で「お父さん好きでした?」って突然聞かれたんですよね。
―唐突に。
森山:そう。身内の好き嫌いって、普段はあんまり考えないじゃないですか。それで「いやまあ、いい人ではありますけどね」とかちょっとお茶を濁してたら、「好きでした?」って重ねて聞かれて。それで考えたんです。そしたら、自分の上書きされた記憶じゃなくて、すごく根本的にあった、小さい頃の記憶が出てきて。
その記憶の中で父親は、本当に愛嬌のある人で。野球が好きで一緒にキャッチボールをしてくれたりとか、ごく一般的な息子と父親との関係があって、毎日父親と遊ぶのが楽しみでしょうがなかったんです。だから「大好きでした」とその人に話して、自分の中にあった父親への気持ちを認められたんですね。それで、自分の肯定感の低さは、どこかで近しい人たちから、父親を否定されてるような気持ちで生きてきたところにあったんだなと腑に落ちて。その中でも、自分が筆頭になって父親を否定してきたと気づいたんです。でもその時に自分の気持ちに正直になれて、すごく救われた気持ちになって、それで“papa”の歌詞が浮かびました。

―お父さんの気持ちに向き合ったことが、森山さんの自己理解につながったんですね。それにしても、本当に不意打ちで。
森山:普通はね、例えば父親が亡くなったりとか、会えなくなって、こういう曲ができてくるじゃないですか。でも僕はこの曲ができた時、父が亡くなるとは全然思ってなくて。ただずっと蓋をしていた気持ちに1回素直になれたことが、創作のきっかけでした。
―ちなみに、それまでお父さんのことを題材にして曲を作られたことはありましたか。
森山:ないんですよね。物理的にも、感覚的にも、できるだけ距離を置いていたので。“papa”が初めてでした。