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映画『ライオン・キング:ムファサ』解説 人種とアイデンティティの視点で紐解く

2024.12.20

#MOVIE

タカが抱える「男らしさ」という呪縛

配役について触れたが、タカ(後のスカー)の声を演じたのが、ケルヴィン・ハリソン・Jr.というのも重要だ。タカは、ムファサと兄弟になるものの、冒険の途中で自己を見失い、復讐に走る。タカはムファサよりも色が薄く、はっきりとしないライオンであり、作中でアイデンティティがもっとも揺れ動くキャラクターである。

タカがスカーへと変化するのは、白いライオンにそそのかされたのがきっかけだが、それ以外にもいくつかある。父によってムファサと競争させられ、その後も比較され続けたこと。自分でも比較するようになり、男らしさに自信が持てなくなったこと。王の資質として、騙すことや狡猾さを教えられたことなどが挙げられる。

(左から)サラビ(声:ティファニー・ブーン)、タカ(声:ケルヴィン・ハリソン・Jr.)、ムファサ、ヤングラフィキ

ここで思い出したいのが、スカー役のケルヴィン・ハリソン・Jr.が、トレイ・エドワード・シュルツ監督作『WAVES/ウェイブス』(2019年)で、主人公のタイラーを演じていたことだ。この映画は、トキシックマスキュリニティ(自らをも苦しめる有害な男らしさ)をテーマとした作品だった。このトキシックマスキュリニティは、#MeTooムーブメントやトランプ大統領誕生などによって、特に議論されるようになった概念だ。タイラーは、父から理想の男性像を教え込まれ、レスリング部として活躍するが、怪我をしたことでその競争から転げ落ち、心まで壊れてしまう。精神的なマッチョさや男らしさに悩み、壊れていくタイラーの姿は、本作でのタカの姿と重なって見えてくる。

この男らしさと対象的な性質を持っているのが、女性たちの間で育ち、生きることを覚えたムファサだ。子どものときは足の速さを自慢するものの、その後、競争的なものを強調しなくなっていく。タカが父に教えられた王の狡猾さや男らしさとは別の仕方で、ムファサは自己を確立していくのだ。

男らしさとアイデンティティの揺らぎは、ジェンキンス監督作品のテーマでもある。とりわけ『ムーンライト』は、アフリカ系かつゲイという二重のマイノリティである主人公が、男らしさをめぐって悩み、その内面の孤独を表現した作品だった。

『ライオン・キング:ムファサ』は、団結して困難に立ち向かう冒険活劇であると共に、人種やアイデンティティをめぐる問題など、多様な解釈が可能な映画になっている。ディズニー名作の待望の前日譚であると同時に、バリー・ジェンキンス監督が起用された意味をはっきりと見出せる作品でもあるのだ。

『ライオン・キング:ムファサ』

12月20日(金)全国劇場にて公開

原題:Mufasa: The Lion King
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:バリー・ジェンキンス
字幕版声優:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティファニー・ブーン、マッツ・ミケルセン、ドナルド・グローヴァー、ブルー・アイビー・カーター、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジョン・カニ、セス・ローゲン、ビリー・アイクナー、プレストン・ナイマン、カギソ・レディガ
超実写プレミアム吹替版声優:尾上右近、松田元太(Travis Japan)、MARIA-E、吉原光夫、和音美桜、悠木碧、LiLiCo、渡辺謙 ほか
© 2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/lionking-mufasa

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