INDEX
『ライオン・キング:ムファサ』とバリー・ジェンキンス監督『ムーンライト』の共通点
A24などでマイノリティの孤独を美しい映像で表現してきたバリー・ジェンキンス監督の作風と、ディズニー映画とは、一見相入れないように思える。しかし、『ライオン・キング:ムファサ』でも、彼ならではの表現が健在であるのに加え、これまでの作品のテーマと通じるところがあり、その作家性は存分に発揮されている。
2019年のリメイク版と同様、今作でも実写と見分けのつかないデジタル映像が用いられるが、よりリアリティを追求するためか、ロングテイクが多めになっており、動物たちがじっくりと映し出されている。また、真上からの俯瞰ショットも際立つ。そうかと思えば、決定的なところでは、極端なクロースアップで表情の微細な変化を捉えており、とりわけ終盤、スカーの孤独を感じ取れるアップにはハッとさせられる。

この映画では、ムファサとタカのアイデンティティや状況が大きく変わる際に、水が関係しているのも特徴だ。ムファサが両親と離れ離れになり溺れている冒頭、キロスたちから逃げる際の川への飛び込み、ムファサの危機とタカが選択を迫られる終盤ーーそれぞれでムファサは水の中に深く沈み、引き上げられる。これには、『ムーンライト』を思い起こさずにはいられない。同作では、主人公の心情が決定的に変化する場面で、キリスト教の洗礼、生まれ変わりをイメージさせるかのように水を用いていた。
水の美しい色彩感を含め、そうした映像表現には、監督の過去作とのつながりが感じ取れる。それは、ジェンキンスの長編全てを担ってきたジェームズ・ラクストンが、撮影監督に起用されたことも大きいだろう。