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「先生」と「宏太の弟」の二面性を巧みに表現する松坂桃李

御上の過去や目的が明らかになってきた中で実感するのは、御上を演じる松坂桃李の高い演技力だ。松坂本人の持つ威圧感のないナチュラルな佇まい、本作での柔らかく響きながらも抑揚のない口調などが、「官僚教師」である御上に、人間としてのリアリティをもたらしている。
第5話までは、生徒の前で高圧的な先生として存在していた御上が、第6話で初めて心の柔らかい部分を開示した。教室の後ろに見えた宏太の亡霊に息を飲みつつ、淡々と過去を語りながらも、噛み締めて大切に一つ一つを言葉にしていく姿。生徒たちに語りかけつつも、それは同時に宏太への懺悔のようにも見えた。

そして、御上が最も感情の揺らぎを見せるのは、母・苑子の前だ。第9話では、宏太が亡くなって以降、御上のことを「宏太」と呼ぶ母に初めて正面から向き合った。宏太が死んだこと、自分は弟の孝であること、自分自身抱える宏太への罪の意識。深く息を吸って、感情の昂りを抑えながら語りかける表情と、母へ理解を促す御上の切実で穏やかな声色。先生としての御上と、暗い過去を持つ宏太の弟としての御上の二面性の表現も含めて、松坂にしかできない役柄と言える。
松坂と『御上先生』の脚本家である詩森ろばとは、映画『新聞記者』(2019年)以来のタッグ。詩森が表現する社会性の強いセリフを体現できる俳優の1人と言えるだろう。松坂は、『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、『御上先生』で日曜劇場の主演、2027年には大河ドラマ『逆賊の幕臣』で主演を務めることが発表されている。今後も、さらに磨かれた演技力が堪能できることだろう。