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額田大志(ヌトミック / 東京塩麹)インタビュー 演劇・音楽シーン注目の92年生まれ

2025.1.10

#STAGE

2016年に結成されたヌトミックは音楽との強い結びつきを持ちながら、「上演とは何か」を根本から問い直してきたラディカルな演劇カンパニーだ。主宰の額田大志は東京藝術大学で作曲などを学んだが、卒業制作では演劇を上演。その後は、ミニマルミュージックを援用した東京塩麴という音楽グループで活動しながら、ヌトミックでは野外劇や市街劇など野心的な試みに幾つもトライしてきた。

また、額田はさまざまな作品の劇伴や音楽を手掛けており、中でも、『第64回岸田國士戯曲賞』を受賞したQ『バッコスの信女―ホルスタインの雌』(脚本=市原佐都子)での仕事は大きな反響を呼んだ。そんな額田が作・演出・音楽を担当したヌトミックの新作音楽劇『いつまでも果てしなく続く冒険』が、1月17日(金)~19日(日)まで、東京・吉祥寺シアターで行われる。インタビューでは、公演についてのみならず、額田大志という才人がどのような来歴を経て今に至るのかに焦点を当てつつ、彼が今興味があることを掘り下げて訊いた。

人と作品を作ることが「大切なコミュニケーションの形だった」

―額田さんはお母さまがリトミック(※)教室をされていたそうですね。どのような家庭環境だったのでしょうか?

※楽しく音楽と触れ合いながら、子どもたちが個々に持っている「潜在的な基礎能力」の発達を促す教育。

額田:リトミック教室にはまだ物心がついていない2歳の頃から通っていました。当時はどちらかといえば通わされていたという意識が強かったですね。教室では、右手と左手で違う拍子を叩くという遊びをやったんですけど、今考えると、それってポリリズムとかクロスリズムなんですよ。そういう概念を感覚的に身につけていたというのはあるかもしれません。

―当時、印象的だったことはありますか?

額田:リトミック教室って毎年発表会があって、そのフィナーレに母親も含めた先生たちのパフォーマンスがあったんです。それがめちゃくちゃかっこよかったのを覚えています。東京の土地の名前を言いながら身体表現も付けてパフォーマンスをするんですけど、それを見て「母親ってすごいな」と思った記憶がある。一見遊びのように見えるものも、本気でやるとかっこいいんだなって。

額田大志(ぬかた まさし)
作曲家 / 演出家。1992年東京都出身。東京藝術大学在学中にコンテンポラリーポップバンド『東京塩麹』結成。ブレイクビーツとミニマルミュージックを掛け合わせたサウンドで注目を集め、2017年にリリースした1st Album『FACTORY』は、NYの作曲家スティーヴ・ライヒから「素晴らしい生バンド」と評された。また2016年に演劇カンパニー『ヌトミック』を結成。「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出で、パフォーミングアーツの枠組みを拡張していく作品を発表している。『それからの街』(2016)で『第16回AAF戯曲賞大賞』、『ぼんやりブルース』(2021)が『第66回岸田國士戯曲賞』ノミネート。古典戯曲の演出で『こまばアゴラ演出家コンクール2018最優秀演出家賞』を受賞。

額田:父親は国語の教師で、高校の演劇部の顧問をやっていました。最近知ったのですが飴屋法水さんと高校の同級生で、2人で渋谷の映画館で『明日に向って撃て!』を観に行くなど仲が良かったようです。

そんな父親だったので、本棚にはたくさん本があって。村上龍の小説など勝手に読んでいました。小さい頃は学校の図書館にも毎日通ってひたすら本を読んでいたんですが、それは本を無限に買ってくれた両親の影響があると思います。大学に入ってからは村田沙耶香さんとか、舞城王太郎さんなどをずっと読んでました。

―今、額田さんは東京塩麴というバンドでも活動されていますが、初めてバンドを組んだのはいつでしょうか?

額田:中学でバンドを始めて、その時はドラム担当でした。最初は大好きだったユニコーンとか、THE YELLOW MONKEYのカバーをやって。高校の時に自主的にアルバムを作ったんですけど、たまに聴き返すと普通に5拍子の曲があったり、同じフレーズを繰り返している曲もあったりして。Radioheadなど、より実験的なロックバンドからの影響もあったんだと思います。

―ユニコーンはどういう所が好きだったんですか。ミニマルミュージック的な表現を指向し、その道の大家であるスティーヴ・ライヒにも絶賛された東京塩麴とは、いっけん結びつかないですよね?

額田:ユニコーンはものすごく自由なバンドだと思うんです。住所を言うだけの曲とか、適当でふざけたような曲もいっぱいある。そういう音楽は、リトミックから入った自分には新鮮に感じられました。特に後期の『ヒゲとボイン』というアルバムは曲ごとに全部ジャンルが違うみたいなつくりで。バンドという運命共同体の中に、こんなに雑多なものが同居しているんだ、と驚きました。決まりを設けずに自分たちが面白いと思ったことを、ただつくっているというユニコーンのセンスが好きなんですよね。The Beatlesとかもそうですけど、メンバー個々が面白いと思ったことを反映できている感じがすごく良い。みんながわいわいやっているのに憧れたのかもしれないです。

―他に当時音楽に関わった経験はありますか?

額田:高校の吹奏楽部は少し変わっていてで、文化祭で演出とか音響とか照明とか、自分たちでステージのセッティングとかも全部やるんですよ。僕はちょっと出しゃばって吹奏楽の編曲をやっていて。でも、そういうのって先輩たちから反感を買ったりもするじゃないですか(笑)。それで嫌なこともたくさんありましたが、中には応援してくれる人もいて、嬉しかったですね。あまりしゃべるのが得意じゃなかったので、ものを作ることで人が動いてくれたり協力してくれるのが楽しいと思いました。当時から友達が多い方ではなかったので、他者と1つの作品を作るっていうことが、自分にとっての大切なコミュニケーションの形だったんですよね。

なので今も根本的な考え方として、人と話し合って作ることや、個々の意見がしっかり反映される現場であることをすごく大事にしています。単純に自分がそうしたほうが楽しいからというのが出発点なんですけど。人と一緒に、ものを作ることについて深く考えるのが好きなんですよね。だから本番よりも稽古が好きだったりします。

吉祥寺シアターで2025年1月に上演される『何時までも果てしなく続く冒険』の稽古風景。作品のプレ稽古は額田の母が営むリトミック教室で行われている。
『何時までも果てしなく続く冒険』の音楽リハーサル風景

『三月の5日間』で気がついた、読書と演劇の共通点

―大学は東京藝大の音楽環境創造科ですよね。高校の時に将来、音楽の道でやっていこうと決めていましたか。

額田:決めてはいたかな。ただ、母親も自分の経験を踏まえて、そっちの道には行かせたくないというのがあったようで「大変だよ」みたいに言われました。それこそ藝大は卒業生に行方不明者が多いとかいうじゃないですか(笑)。周りからも大変だからやめたほうがいいよ、と冷静に言われましたね。

―音楽環境創造科に入学されたのに卒業制作が演劇だったんですよね。その経緯を教えてください。

額田:藝大のオリエンテーションに、当時音楽環境創造科の准教授で『フェスティバル/トーキョー』(※)の元ディレクターの市村作知雄さんがいらっしゃって、チェルフィッチュの『三月の5日間』のDVDを見せてくれたんです。音楽学部の最初の授業だし、現代演劇を見たことない人ばかりで、なんだこれは、みたいな空気だったと思います(笑)でも、そこで意味はあまり分からないけど面白いみたいな体験をして。あと、その後に大学の友人からダムタイプと大野一雄のDVDを勧められて、御茶ノ水のジャニスというレンタルCD屋で借りて見ていて、徐々に演劇やダンス周りも面白いと思うようになってきました。

※2009年から2020年まで、13回にわたって開催された国際舞台芸術祭。現在は事務局が『東京芸術祭』を主催する『東京芸術祭実行委員会』と統合している。

―『三月の5日間』を見て、どんな感想を持ちましたか?

額田:それまで演劇というと劇団四季の『ライオンキング』ぐらいしか観たことがなかったんです。だから演劇は音楽に比べて分かりやすいものだと思っていたんですけど、『三月の5日間』は全然分からないから、何をやっているのかこっちから能動的に探っていかないといけなかったんですよね。それって自分に馴染みのある読書という行為とも近いと気がついて。演劇には、ぼーっと観ているのとは全然違う良さを発見できる作品もあるんだと知って、すごくいいなって思いました。

―額田さんと藝大の同級生でもあるWONKの江崎文武さんにインタビューした時、大学の近くのカフェで平田オリザのロボット演劇の話などをしたのがすごく刺激的だったとおっしゃっていました。

額田:江﨑君とはよく話してましたね。当時からテクノロジーとアート、社会における音楽の在り方に強い関心があって、ストリーミングサービスも、僕の周りでは1番早く始めていました。「Spotifyっていうのがあるからやりなよ」って。そういう劇場やライブハウスだけでない、社会の流れによって変化していく音楽の流れに特に敏感で、そこは一緒に過ごしていたことで影響された部分ですね。

―江崎さんも額田さんも、コンプソンズの金子(鈴幸)さんもゆうめいの池田亮さんも1992年生まれでしょう。演劇畑の方との交流はあったんですか?

額田:コンプソンズという劇団の共同主宰の(金子)鈴幸は、4歳の頃に母親のリトミック教室に通っていました。当時のことはあまり覚えていないけど、近所だったので中学校が一緒で、友達としてはそこからの付き合いです。彼は明治大学の実験劇場っていう演劇サークルにいて。コンプソンズを旗上げする前の実験劇場の公演で、僕は音楽を担当したんです。その作品がすごく面白くて。死んだと思った人が生き返ったりして、でも最後は結局ゴジラが出てきて全部破壊してしまって終わり、みたいな。今と根本はあんまり変わらないですけど(笑)。でも、こういう観客が心地よいだけでない、全てを裏切っていく表現を演劇では作っても許されるんだと思たことは大きいです。

コンプソンズの最新作『ビッグ虚無』でも額田は音楽を担当

今は、言葉の持っている音の要素に注目している

―平田オリザさんからの影響はどんなものだったのでしょうか。

額田:オリザさんの本は藝大の図書館でほとんど全部読みました。すごく影響を受けて、卒業制作の『それからの街』は完全にオリザさんの本に書かれた戯曲のつくりかたを参考に書きましたね。

―どこに影響を受けましたか?

額田:オリザさんの演出って、台詞を言うタイミングを「0.5秒早く」とか「0.1秒遅く」とか、細かく指示するじゃないですか。それって音楽とほぼ一緒だと個人的に思っているんですよ。ピアノでもそうですけど、例えば、ちょっと悲しい曲を弾く時に、弾いている本人が悲しいかどうかよりも、タッチの強さとか、次の手にどれくらいの間合いで行くのかといったことで情緒が出てくると思っていて。

―オリザさんはわざと挑発的に言ったと思うんですけど、「俳優に内面は要らない」「俳優は演出家の駒である」といった発言を残しています。それと額田さんの「音の配列だけで人を感動させられないか」というヌトミック立ち上げの頃のコンセプトは、一脈通じていると思いませんか?

“音楽的な演出”による演劇を上演するために、この度、“ヌトミック”を結成しました!

“ヌ”は、私、ぬかたの“ヌ”です。それ以外の“トミック”は、音楽における“リトミック”から拝借しました。

“リトミック”とは、ただ演奏するだけでも曲を作るだけでもなく、ある人は音楽的センスを高めるために、ある人は音楽から得られる喜びを味わうために、またある人は音楽を通してコミュニケーションを楽しむために・・

そんな様々な目的のために集まり、学び、交流する音楽教育の方法です。

19世紀頃に誕生した音楽の考え方が、21世紀の演劇の姿にまるっと置き換えられる気がしてならず、この度、ヌトミック、と名付けました。

額田大志 ヌトミックWORKSHOP&AUDITION告知フライヤー裏面より

額田:確かに昔は音の配列で……っていうコンセプトはあったんですけど、最近は音より言葉なのかなと思っています。ここまで音を突き詰めてきたら、今度は言葉の持っている音以外の要素に注目するようになってきた。どんどん音にこだわっていくうちに、言葉自体に意味がなくなってしまうのがもったいないと思うようになったというか。じゃあその先になにがあるの? とも思ってしまう。セリフに意味がなくなった先のことは(サミュエル・)ベケットとかが既に実験してきたことでもあるし。今は言葉の意味とか語順とか、台詞のつくりかたによって、舞台上の景色を変化させていく、全然違うところに行けないかっていうタームにきている気がします。

―言葉への興味が、演劇というフォーマットを選んだ理由に繋がるのでしょうか。

額田:最近、言語表現がすごく好きだということに立ち戻りまして。昔は助詞だけの台詞で演劇を作ることもやっていたんですけど、その時、劇団員に「こういうことやるのって、めちゃめちゃ言語に関心あるだからだよね?」みたいなことを言われて。僕は言葉を切り刻んで台詞にしてしまうようなタイプだから、自分としては意外だったんですけど、でも確かに元々、フランツ・カフカとか、ヴァージニア・ウルフとか、昔の実験的な文学作品が好きだったので、そうかもしれないなと思いました。

今ってSNSで言葉自体はたくさんやり取りされているけれど、言葉の持つ表現の奥行きとか、言語表現にしっかり向き合って触れる機会はなかなかない時代だから、そういうものをゆっくり受け取ってもらえる作品にしたいなと思って。僕の最近の作品は台詞の量も多いし、どんどん話が変わっていくことが多いんですけど、演劇って、言ったことが「ある」ことになるじゃないですか。そういった言葉の持つ力とかイメージの拡張によって流れていく時間の儚さを真正面から受け取ってもらう作品にしたい。自分自身がそういう作品に影響を受けてきたのが理由としては大きいと思います。

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