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高木正勝ロングインタビュー 映画音楽は、音楽家が書いたもう一つの脚本

2024.12.25

#MUSIC

サントラの曲名にこっそり仕掛けを

―高木さんのBタイプは、どういった音楽だったのでしょうか。

高木:僕は、この映画を「槙生があれだけ嫌っていたお姉ちゃんと一緒に暮らせた物語」と捉えていました。ややこしい見方かもしれませんが、毛嫌いしていた姉と同じ性質を持つ朝と暮らせたということは、姉とも同じように生きられたかもしれないと。そう考えられると、槙生と朝が暮らしている現実に、槙尾と姉が楽しく共存しているあり得ない光景が頭の中に広がって、ものすごく微笑ましい。僕にも一つ年上の兄がいまして、仲が悪かった訳ではないのですが、思春期にあまり話さなくなって以来、距離ができてしまって。ふいに、あり得たかもしれない、もうひとつの光景がよぎってやり直せないかなと思う時があります。そんなことを想いながら、自然に出てきたのが1曲目の“永遠”のシンプルなメロディーです。”永遠”という曲名をつけたのは、自分と兄との関係とか、変えられない過去とか、そういう想いからだと思います。同時に朝のメロディーでもあります。物語が進むにつれて、朝のメロディーはどんどん変わっていって、エンドロールで流れる“夜明けよ”まで成長していきます。

ー一つの曲が変化していく仕掛けは槇生の変化とも重なりますね。

高木:そう、同じ曲が変化することで、一歩先に進めたことを表しています。『違国日記』という漫画を監督はどう捉えて映画にしたかったのか、最後まで具体的には教えてもらえませんでしたが、僕が思うには、今回監督はきっとタイムマシーンみたいなことをしたかったと思ったんですよ。

ータイムマシーン?

高木:監督の過去作も観ましたが、瀬田監督は過去現在未来を全部ひとところに持ってくる作風だと思ったんです。『違国日記』でも、たとえば最後にバスに乗りながら、朝が「もう1度やり直せるなら、どこからやり直したい?」と槙生に問いかけるシーンがあります。もう一度人生をやり直せるなら、槙生は姉と仲良く一緒に生きられたかもしれない、そういう世界も可能かもしれない、と言いたいのだと僕は受け取りました。

高木:それで、”メッセージ”というキラキラしたピアノの曲を、亡くなった槙生の姉の声として入れてみました。その音が入ると、喋ってないけど、姉が槙生や朝に何か伝えようとしているんだ、と受け取ろうと思ったら受け取れるように、場所も精査して配置しました。“メッセージ”という曲名は原作では槙生が好きな映画『メッセージ』から取っていて、あの映画も異星人の言語を学ぶことで、過去現在未来を行き来できたという映画なので、まさに『メッセージ』だなと。伝わる人は伝わるかなと思って(笑)。

―高木さんのサウンドトラックは曲名もこだわられていますよね。

高木:いつも最後に曲名をつけるのですが、作曲中に考えたことを盛り込んでいます。よく映画のサントラの曲名で、そのシーンのセリフをタイトルにしていたり、シーンの説明で“逃げろ!”みたいな曲名があるじゃないですか(笑)。あれはあれで楽しいのですが、せっかくなので膨らませる方向でつけています。

ーこれまではどういった付け方をされていましたか?

高木:例えば『おおかみこどもの雨と雪』だと、“そらつつみ”という曲があります。「主人公が妊娠して、出産して」というシーンの曲ですが、古今東西すべてのお母さんたちが空になって一斉に応援しているのを浮かべながら作った曲なんです。神話や女神についての本を片手に作っていたので、曲名も僕の造語になりました。やっぱり昔から自分なりの解釈でもう一本脚本を書くような気持ちで曲を作っていて、だから曲名も映画から少しはみ出てしまいます。監督にとっては厄介な存在だと自覚しています(笑)。

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