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高木正勝ロングインタビュー 映画音楽は、音楽家が書いたもう一つの脚本

2024.12.25

#MUSIC

映画は監督の家ではなく、みんなの公園

―高木さんはどういった解釈をされていたのですか?

高木:『違国日記』の原作は素晴らしくて、群れから外れてしまった人たちの話、特に僕は槙生(※)の話だと思って読んでいました。はじめに3時間の映像を見たときはその感覚で音楽を作れたのですが、2時間になった映像を見ると、朝の成長物語に変わっていたんです。でも切り替えるのに葛藤があって……「『違国日記』は朝の物語じゃない!」みたいな(笑)。

※編注:映画では新垣結衣が演じる、大嫌いだった姉を亡くした35歳の小説家。姉の娘だった朝を勢いで引き取り、共同生活を始める。

高木:それで実はこの仕事、途中で何回も無理かもしれないと思いました。瀬田監督の過去作品も改めて拝見して、監督とは同い年ですけれど、同じ原作でも受け取り方が違うんですね。僕は子育て真っ最中なこともあり歳が近い槙生目線で読んでしまうし、監督は朝目線で読む。それがお互いの面白さなんですけれど、僕が曲を提出すると監督からは「朝が現在進行形で進んでいる音楽にしてください」と言われる。曲は綺麗だけど、過去を振り返っている、見守っている感じの音楽だと言われて。言われている意味は分かるんです。でも僕は、朝だけを追ってしまうと、槙生の言動が浮世離れしているように感じてしまう。

ー監督はそういう視点だったんですね。そうやって意見が違ったときに、高木さんはどうコミュニケーションを取るのでしょうか?

高木:どんな仕事でも一緒に公園を作っているつもりで言葉を尽くして話し合っていいと思っています。

―公園?

高木:大勢が関わって仕事をするときは、みんなで公園を作るような気持ちでいたいなと。

ー「公園を作る」という共通の目的に集まる。

高木:映画作りって、最終的には誰のものでもない皆の場所を作るようなものだと思うんです。始まりは誰かの個人的な想いであっても、関わる人たちそれぞれに自分なりの解釈というか想いは勝手に湧き上がってくるものです。「この見方で観ることで、こういうふうに美しい物語に変わる」とか「自分が経験した過去と繋がって感動した」とか。もちろん映画は監督の作品なので、監督の想いの邪魔はしたくないですけれど、この角度から観たら心揺さぶられるという自分なりの見方はどうしても持ってしまいます。だから、監督とぶつかるときはぶつかってしまうのですが、それも含めて映画作りだと思っています。

今回は、まだお互い引き返せるタイミングで、もう崖っぷちだと感じたので相談したんです。あるシーンで監督の注文通りに作った音楽をAタイプ、僕が自由に感じるまま作った音楽をBタイプとして。「どちらがいいですか」と言ったら監督は、Aタイプの曲を選ばれて。このAタイプが、最初に説明した、そのシーンは成り立つけれど、次のシーンで意図しない残響が残ってしまう曲だったんです。可能な限り、監督の要望に応えたいと思う一方で、映画全体を見渡した時に違和感のある選択は僕には難しくて。自分が関わる意味がないというか。なので、「Aタイプだとしたら僕では力不足です。Bタイプは自然と湧いて来た曲だから最後まで辿り着ける直感があります」とお伝えして、長時間話し合った末、最終的にBタイプが選ばれました。Aタイプは、映画らしいスケール感のある曲だったので、いまでもAタイプに出来ていたらと思う反面、それだったら途中で迷子になっていただろうなと、やはり扱い切れなかったと思います。

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