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映画『ロングレッグス』レビュー ニコラス・ケイジが狂気の連続殺人鬼を演じた話題作

2025.3.17

#MOVIE

2025年3月14日(金)より映画『ロングレッグス』が公開中だ。世界興行収入は1億2600万ドルを突破し、過去10年における独立系ホラーの全米最高の興行成績を記録する大ヒットとなっている。『VARIETY』誌では「2024年のベストホラー第1位」、WEBサイト`『Flickering Myth』では「この10年でいちばん怖い映画」と絶賛された。

複数のホラーやサスペンス映画の要素を混ぜ合わせた「ごった煮」の趣きがありながら、それでいてどの作品とも異なる味わいとオリジナリティーを持つ本作。以下で詳しく紹介していこう。

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

連想される『羊たちの沈黙』『ゾディアック』『CURE』

物語の始まりは「奇怪な猟奇殺人事件」。しかも主人公が女性捜査官であることから『羊たちの沈黙』(1991年)を思い浮かべる人も多いだろう。実際に主演のマイカ・モンローは同作が「この映画全体に大きな影響を与えているのは確か」と答えている(プレス資料より)。しかし、作り手および俳優が参考にしているのは『羊たちの沈黙』だけではない。

劇中で起こる不可解な殺人事件は「ごく平凡な家族の父親が妻子を殺害したのち、自ら命を絶つ」というものだ。しかも、同種の事件は過去30年間に10回も発生しており、現場には侵入者の痕跡がないにもかかわらず、「ロングレッグス」という署名付きの暗号文だけが残されていた。主人公であるハーカー捜査官の過去とロングレッグスには接点があることがわかり、事件はさらに混迷を極めていく。

犯人の恐ろしさが伝わる殺人現場、ジメジメとした湿度を感じる画作り、そして後半のとある展開から『セブン』(1995年)を、残された暗号文からは同じくデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』(2007年)を思い出す人も多いだろう。

さらに、筆者を含め多くの人が連想したのは黒沢清監督の『CURE』(1997年)だ。犯人の描写や、「連鎖していく恐怖」という点は、『CURE』と本作で共通している。実際、WEBサイト『CINEMORE』のインタビューではオズグッド・パーキンス監督自身が、『CURE』からの影響を明言している。

参照:『ロングレッグス』オズグッド・パーキンス監督 なぜ人は怖い映画を観るのか 【Director’s Interview Vol. 478】

(写真右)主人公であるリー・ハーカー捜査官(マイカ・モンロー)

オズグッド監督は、本作を「ホラー映画のミックステープのようなもの」と表現している。「斧を使った大虐殺、連続殺人鬼、悪魔にFBI。不気味な人形があり、不気味な納屋もある。まるで全部入りのミルクセーキのようなクオリティーだ」と語り、「ホラーのジャンルで期待されるすべてが詰まっている」ことを実際に誇っている(プレス資料より)。ホラー映画に詳しい人なら「ここはこの映画の影響では?」と参照元を想像する楽しみもあるし、メインプロットはシンプルなので映画をあまり観ない人でものめり込めるのも本作の長所だろう。

ちなみにオズグッド監督は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960年)で主演を務めたアンソニー・パーキンスの息子であり、『サイコ2』 (1983年)では父アンソニーが演じた男の少年時代を演じていた俳優でもある。主人公の女性に対し「もう1人の主人公といえる存在が殺人鬼」であるなど、『サイコ』と本作にも共通点を見出せるかもしれない。

『IT/イット』にも近いニコラス・ケイジ演じる殺人鬼のおぞましさ

本作の目玉のひとつは、40年以上のキャリアで初めて連続殺人鬼役に挑んだニコラス・ケイジだ。不可解で真意の読めない言動はもちろん、尋常ではない狂気をまといながら幼い子どもに近づいていくおぞましさ、さらにはダークなユーモアを感じさせる点は、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』(2017年)の殺人ピエロ、ペニー・ワイズを思わせる。

ニコラス・ケイジ自身がイメージしていたのは、『魂のジュリエッタ』(1964年)に登場する「“私きれい?”と聞く中性的な霊能者」だったそう。さらに、特殊メイクアーティストのハーロウ・マクファーレンが造形の参考にしたキャラクターのひとりは『アマデウス』(1984年)でF・マーレイ・エイブラハムが演じたアントニオ・サリエリだったそうだ。その意図についてハーロウは「ロングレッグスの本当の怖さは、彼が実在しうること、そしてごく普通の人が言いようのない恐ろしいことをすることにある」と語っている(プレス資料より)。

さらにハーロウによれば、ロングレッグスには「悪魔に恋して、悪魔に自分をアピールしている。自分をできるだけきれいに見せようと、整形手術とその失敗を繰り返してきた」という設定もあるそうだ(プレス資料より)。特徴的な「つけ鼻」を含む特殊メイクのこだわりもあり、すぐにはニコラス・ケイジだと認識できないほどの変貌を遂げており、劇中でその設定に説得力を持たせるだけの演技力と存在感にも期待していいだろう。

また、主演のマイカ・モンローは『羊たちの沈黙』に加えて、『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)から多くのヒントをもらったそうだ。「ルーニー・マーラが演じたリスベット・サランデルも、(今回演じた)ハーカーも自分を部外者のように感じていて、どこにも馴染めず、犯罪を解決することだけが唯一しっくりくる場所だというところが似ています」とも語っている(プレス資料より)。その「孤独」につけ入ろうとするニコラス・ケイジ演じるロングレッグスの存在は、本作における恐怖の核心のひとつだ。

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