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映画『この夏の星を見る』解説 若者たちの祈りと意志が込められた、力強い青春映画

2025.7.22

#MOVIE

かすかな希望の光を自らの手に取り戻すための「スターキャッチコンテスト」

自宅での自粛生活、学校への復帰を困難にする移動制限、そして旅館を営む登場人物に向けられる住民の冷たい眼差しーーそれら全てが青春の真っ只中にいる中高生に、厳しい現実としてのしかかってくる。光が差し込まない暗闇のような青春を生きる亜紗は祈る。

「これ以上、私たちからなんにも奪わないで——」

この切実な祈りのセリフは、偶然にもアニメーション映画『天気の子』(2019年)内のセリフ、「神様、お願いです。これ以上僕たちに何も足さず、僕たちから何も引かないでください」に呼応する。『天気の子』はコロナ禍以前に制作された作品だが、コロナ禍を経ると劇中に描かれる「雨の降り止まない東京」というイメージは、コロナ禍のパンデミック下の街の風景と重なって見える。 貧困や格差社会が若者の日常を奪った『天気の子』と同様に、本作『この夏の星を見る』でも新型コロナウイルスの感染拡大、行政をはじめとする大人たちの一方的な決定、あらゆる理不尽が若者たちを苦しめる。そのような理不尽に立ち向かい、自分たちの青春を取り戻そうともがく亜紗たちの祈りが通じたかのように奇跡の光景を目の当たりにする。現実に立ち向かった若者たちに訪れた勝利の瞬間にも見えた。

日中の映像を夜間のように見せる「デイ・フォー・ナイト」という手法で撮影された星空©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会

まさに「スターキャッチコンテスト」のシーンで描かれる、真っ暗な夜に星々や天体の光を望遠鏡のレンズに収めようとする運動は、コロナ禍における青春の中で、かすかな希望の光を自らの手に取り戻そうとする中高生たちの心情と重なる。映画『この夏の星を見る』は、コロナ禍という絶望的な状況下で、青春の光をその「眼」で確かに目撃しようとする若者たちの祈りと意志が込められた、力強い青春映画であった。

『この夏の星を⾒る』

原作:辻村深⽉「この夏の星を⾒る」(⾓川⽂庫/KADOKAWA刊)
出演:桜⽥ひより
⽔沢林太郎 ⿊川想⽮ 中野有紗 早瀬憩 星乃あんな
河村花 和⽥庵 萩原護 秋⾕郁甫 増井湖々 安達⽊乃 蒼井旬 中原果南 ⼯藤遥 ⼩林涼⼦
上川周作 朝倉あき 堀⽥茜 近藤芳正
岡部たかし

監督:⼭元環
脚本:森野マッシュ
⾳楽:haruka nakamura
配給:東映

公式サイト:https://www.konohoshi-movie.jp/
©2025「この夏の星を⾒る」製作委員会

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