映画『この夏の星を見る』が、7月4日(金)に公開された。
2020年のコロナ禍をきっかけに学校生活を制限され、大人以上に複雑な思いを抱えた中高生達の青春群像劇を描いた直木賞作家・辻村深月の長編小説『この夏の星を見る』。
同作品を映画化したのは、1993年生まれの山元環監督と、1996年生まれで脚本を手がけた森野マッシュ。若きクリエイターたちの映画デビュー作となっている。また音楽を担当したのはharuka nakamura。映画『ルックバック』での劇伴が印象的だったharuka nakamuraだが、本作品では劇伴と共に、ヨルシカのボーカル・suisを迎えて主題歌「灯星」と挿入歌「スターライト」、さらにイメージソング「この夏の光」と3曲を書き下ろしている。
こうした注目のクリエイター達による映画『この夏の星を見る』で描かれたものとは、いったい何だったのだろうか。映画レビュアーの茶一郎が解説する。
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厳しい現実と向き合いながら青春を生き抜く中高生たちの「最前線」
コロナ禍での全国一斉休校に意味はあったのか。その効果検証はいまだに議論が続いている。しかし、ひとつだけ確かなのは、当時の中高生たちの貴重な青春を奪った事だと、映画『この夏の星を見る』を観て確信した。本作と同じく2020年を舞台とした映画『フロントライン』(2025年)は、横浜港に入港した豪華客船内で新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために奮闘した医療従事者たち、行政関係者たちを描いた骨太な実録ドラマ作品だった。
『フロントライン』が「ウイルス感染の最前線(フロントライン)」を描いた作品だとすれば、本作『この夏の星を見る』が描くのは、規模こそ違えど、同じく厳しい現実と向き合いながら青春を生き抜く中高生たちの「最前線」——コロナ禍における青春の「最前線」だ。輝いていたはずの青春から光を奪った理不尽な新型コロナウイルス、一斉休校要請、そして学校生活の制限。本作は、そんな闇が広がる最前線で、かすかな希望の光を掴もうと懸命にもがく中高生を生き生きと描いた青春群像劇だ。
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オンラインと星空が繋いでいく青春の日々
新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るった2020年。休校要請により多くの中高生は自宅謹慎を余儀なくされ、「学校」という青春の舞台を奪われた。休校が明けた後もコロナウイルス感染拡大防止のため、茨城県の高校に通う亜紗(桜田ひより)は所属する天文部の活動を制限されている。そんなある日、彼女の高校に一本の電話がかかってきた——
「スターキャッチ、中学生でもできますか?」

亜紗の所属する天文部に電話をかけてきたのは、東京の中学校に通う真宙(黒川想矢)だった。「スターキャッチコンテスト」とは、指定された天体をいかに速く望遠鏡で捉えるかを争う競技だ。その魅力は東京の理科部に所属する真宙たちや、長崎の天文台に通う高校生をも惹きつけ、やがて彼らはオンライン会議ツールを使ってコンテストを実施しようと動き出す。コロナ禍におけるさまざまな制限が、予期せぬ形で、茨城の高校生、東京の中学生、長崎の高校生を繋ぎ、物理的な距離を越える絆を育んでいく。

コロナ禍以前では交わることがなかった全く異なる場所で青春の日々を送る中高生たちが繋がっていく過程は、思わず心が高揚する。場所が離れていても同じ「空」というフィールドで競技に行うことができる「スターキャッチコンテスト」を題材にした本作特有の魅力的な物語だ。
