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マスク越しの「眼差し」で語る挑戦
昨今では『茜色に焼かれる』(2021年)や『真・鮫島事件』(2020年)など、多くの邦画が人間ドラマやホラーというジャンルを通じて、コロナ禍の空気感を映画に刻み込もうと挑んできた。しかし、コロナ禍を象徴する小道具の中でも、最も扱いが難しかったのは「マスク」だったかもしれない。俳優の「顔」、すなわち表情を隠してしまうマスクは、映画にとってはまさに天敵とも言える存在だった。

本作『この夏の星を見る』で最も驚かされるのは、物語の中盤以降、俳優たちがほとんどマスクで顔の半分を覆っているという点だ。コロナ禍のリアリティとしては当然かもしれないが、映画的な演出としては非常に挑戦的だったと思う。俳優の表情が制限される中で、印象的なのは「眼の演技」だ。本作は、亜紗を演じる桜田ひよりの「眼」のアップから始まる。
