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カラコルムの山々インタビュー 現代に必要な「青春」の肯定

2024.11.15

カラコルムの山々『週刊奇抜』

#PR #MUSIC

買い物ではネットのレビューを参考にしたり、SNSで流行っている音楽やサブスクで薦められた音楽も聴く。多くの場面で他人の意見が目に入ってくる日常の中で、自分が好きという理由で選択したものはどれだけあるだろうか。

そんな現代に、自分の好きなものに熱中する人を肯定するバンドがいる。2021年夏より東京を拠点に活動する4人組のキネマポップバンド、カラコルムの山々だ。

結成からわずか2年で『SUMMER SONIC』『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演し、敬愛する向井秀徳との共演も果たすなど注目が集まっている同バンドは、YMO『増殖』が青写真の最新EP『週刊奇抜』で、現実でも非現実でもない「超現実」を表現した。

石田想太朗(Vo / Gt)によると、「超現実」は好きなものに夢中な人を肯定する世界だと言う。聴いた誰もが「見たことがない、カッコいい」と語る彼らの表現はシュルレアリスムで、『ドラえもん』でもあり、星新一のようでもある。アツさがカッコよかった時代でもなく、斜に構えるのも違う。それに気づいたZ世代が等身大で提案する「超現実という青春」に、これからのカッコよさの答えがあるのかもしれない。

原点は、高校の学年全員から反響があったオリジナル楽曲

―まずは作詞作曲をメインで担当されている石田さんにお伺いしたいのですが、カラコルムの山々を始める前に、高校生の時に石田想太朗の名前でプロジェクト「Shibuya Session」をやられていますね。これはどういったきっかけでスタートしたのでしょう。

石田:高1、高2のときに、文化祭のコピーバンドで先輩を差し置いて投票1位を獲得したんですよ。でも、高3でボーカルの女の子が抜けてしまったので、ZAZEN BOYSのコピバンをやったんですけれど、菅田将暉のコピバンに負けてしまった。このままでは自分は2位で高校を卒業することになってしまう、どうにかして1位を守らなきゃいけないと思って……。

―たくさん人を巻き込もうと思ったわけですね。

石田:そうなんです。どうしたら勝てるかを考えて、学年で音楽をやっている人を全員集めてアルバムを作る「Shibuya Session」をやりました。

―手応えはありましたか?

石田:1枚目の『Shibuya Session -迎春-』をリリースした時はコロナ禍で皆が家にいたこともあって、学年のみんなが一斉に家で音源を聴き始めたんですよ。その繋がっていく感覚が気持ち良くて。全然違う場所にいるのに全員が同じものを聴いていることにドキドキしました。その時の快感が原点です。「Shibuya Session」は春夏秋冬の4部作で、4枚目はコロナ禍に出しました。それで満足してからは、カラコルムの山々が中心になります。

―高校までは音楽はやられていなかった?

石田:3歳からピアノ、その後小学校高学年からギターをやっていました。小川諒太とEPを作ったりして、高校では吹奏楽部に入りました。

―1つの楽器を続けることよりも、色んな音楽にプレイヤーとして触れていますよね。

石田:幼少期から漠然と「自分は音楽をやっている」という自意識があって。だからとにかく人よりも音楽に近づかなきゃいけないと思っていて、その結果、様々なジャンルに触れていた感じですね。

左から小川諒太(Key)、ぐら(Dr)、石田想太朗(Vo / Gt)、木村優太(Ba)

―カラコルムの山々は歌やラップ、コーラスをテクニカルに織り込んだ音楽性でジャンルで形容するのが難しく思いますが、それだけ様々な音楽を通ってきた中で、どのようにここにたどり着いたのでしょうか。

石田:これまでの人生では、いちいち自分がやり始めたことで、自分よりもすごい人を見つけて、違う方向に行ってきたんです。そうやって自分よりもすごい人を避け続けた結果が、いろんな要素を混ぜこぜにするこの形なのかなと思います。今ないものでブームを作ることの格好良さは坂本龍一に影響を受けたので、それをやりたいというこだわりもありますね。

メンバーは「一緒にバラエティ番組に出演している感覚になれる人」

―そもそも、カラコルムの山々はどのように始まったのでしょうか。ZAZEN BOYSの向井秀徳さんとも先日の自主企画では共演されていて、YouTubeのコメントのところでも、ZAZENを想起したと言われていますね。

石田:ZAZEN BOYSのライブを2017年の『夏の魔物』で観て、衝撃を受けて結成しました。最初は小川諒太(Key)とぐら(Dr)とZAZEN BOYZのコピーバンドをやっていたところに、大学に進学してからベースの木村(優太)さんが加入したところからです。

カラコルムの山々(カラコルムノヤマヤマ)
石田想太朗(Vo / Gt)、ぐら(Dr)、小川諒太(Key)、木村優太(Ba)から成り、2021年夏より東京を拠点に活動するキネマポップバンド。オルタナティブなビートの上で石田想太朗のポエトリーがドラマチックに展開される。学生ビッグバンドやジャズ研など様々な音楽遍歴を持つメンバーが織りなすビートは楽曲ごとにファンクやテクノ、クラシックなど様々な顔をみせ、ポップかつ独創性あふれるサビも印象的。 また非常に熱量の高いライブも必見。音楽家然とした緊張感にあふれる生演奏は、複雑な変拍子を軸としたループミュージックをダンサンブルにステージで展開していく。メンバー各人の音楽のルーツは様々だがそれぞれから提案されるバラエティ豊かなアレンジがバンドの幅を広げる。

―木村さんが加入したのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。

木村:青学の文化祭に向けて部室でリハをしていたら、偶然楽器を置きにきた(石田)想太朗が話しかけてきたんですよ。話しているうちに「カラコルムの山々というバンドをやっているんですけど、エレキベース弾けますか?」って聞かれて。

石田:それで「弾ける」って言ったよね。実は全然弾いたことないのに。

木村:言ったね。当時はウッドベースしかやったことなかった。でもサポートというものをやってみたかったので。

―石田さんは木村さんにピンと来るものがあったのでしょうか?

石田:話しかけた時、木村さんはジャズドラマーがスティックを落とした後のリカバリー集の動画を見ていたんですね。ミスした後に綺麗にプレイへ戻る部分に格好良さを感じるらしいんですけど、初対面でその話を聞いたので「この人、変わっているぞ」と(笑)。人として気になる部分があったので誘いました。

―「一緒に音楽をやりたい」と感じる要素として、変な部分があることも重要なんですね。

石田:その人と一緒にバラエティ番組に出演している感覚になる人に興味があります。テレビで不思議系の方が変なことを言った時って、MCの人は「この人違うかも……」とは言わないんですよ。「この人はどんな人?」って探っていく企画が番組内でスタートする。そういう感じで掘り下げたくなる人が好きですし、そういった企画や会話に付き合ってくれる人と一緒にいたいと思うんです。お互いに喋る理由があるのではなく、互いの外にある目的に向かって一緒に会話できるというか。

無観客のスタジオライブを配信している感じかも。現場には観客は誰もいないけれど、実際には配信されているみたいな感じで、内輪でやっているわけでもなく、お客さんが沢山いる中でやっている感覚でもないですね。

―カラコルムの山々はどんな番組ですか?

石田:『ザ・ベストテン』みたいな感じかな。お客さんがその場にいるわけじゃないのに、凄く煌びやかな空間が作り出されているハコ感が良くて。カメラがあるから成立しているけど、本来はおかしいことじゃないですか。その馬鹿らしさや無駄さ、豪華さに惹かれているんだと思います。

一言で空気を変えられるのが言葉の力

―他にカラコルムの山々と近しさを感じたり、面白いと思うものはどんなものがありますか。

石田:音楽に関しては、自分と同じことを考えているものはあまり思いつかないんですが、漫才に親近感を覚えることは多いです。漫才って、一言でその場の世界を変えられるんですよね。たとえばランジャタイやDr.ハインリッヒ、かもめんたるのネタは、1つの台詞でその場を異空間にして「この人たち、なんかおかしい」って思わせる。そういった要素に親近感を覚えることが多いです。言葉の強度によって、面白くなるか変人になるかが変わっていく気がしています。

―一言の可能性を信じているんですね。たしかにカラコルムの山々の歌詞が「なんか変」なのも、そういったところですよね。

石田:言葉の可能性って、短いセンテンスで「変だな」って思わせることができることだと思うんですよ。例えば出身地を聞かれた時に「東京やねん」と関西弁で答えたら、それだけでもうおかしいじゃないですか。僕らはそれを音楽で実現する選択をしていますけど、言葉に対して自分と同じ考えを持っている人はお笑いシーンには沢山いるんじゃないかなと思います。

―それこそ2024年8月にリリースされた最新EP『週刊奇抜』には“スクープ!AIたちの社員食堂に潜入”というラジオコントも収録されていますね。

https://youtu.be/7oOs1153FFQ?feature=shared

石田:メンバーでYELLOW MAGIC ORCHESTRAの『増殖』(※)を聴いてからこのEPの制作をスタートしたので、青写真はそこにあるかな。

※編注:桑原茂一の「スネークマン・ショウ」とYMOのコラボで、途中でラジオコントが挟まる構成になっている。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/58hutKcDmsbV68cC7GXvLN?si=odXcvcgCTvCkLmXT75MTAA

―これまでの作品でも、モデルケースとなる作品を聴いてから制作していたんですか?

石田:これまでは毎回名刺を作っている感覚だったので、前作『出土の都市』(2023年7月)はコンセプトもなくて、現状ある中で強い曲を並べていました。今回、初めて全員で「こういう作品にしよう」と話し合いましたね。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/6fXNfdOr5YECSRC1a84eDD?si=BE8DwbL2Qd2Iqy4VQe-FRw

木村:ライブのセットリストを組む時に「世界観を深める」というワードが頻出するんですが、それをEPでやろうとしたのが『週刊奇抜』です。これまではライブをするために曲を作っていたけど、今回はその制約がなかった。だからライブでやらなくてもいい曲を入れることができたし、“週刊奇抜”を中心とする世界に入り込める1枚になったと思います。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/043bzFw587LFinqqszkMVL?si=6fYJCK0hQT26JLrXmGnKgQ

―今の話から、先ほどの話の「番組」により近づいたのが『週刊奇抜』だと感じたんですが、今作を番組でたとえるなら?

石田:『アド街』(『出没!アド街ック天国』)ですね。色んな店や人が存在している中で、今回は「週刊奇抜少女」が住んでいる街を特集した回です。

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