買い物ではネットのレビューを参考にしたり、SNSで流行っている音楽やサブスクで薦められた音楽も聴く。多くの場面で他人の意見が目に入ってくる日常の中で、自分が好きという理由で選択したものはどれだけあるだろうか。
そんな現代に、自分の好きなものに熱中する人を肯定するバンドがいる。2021年夏より東京を拠点に活動する4人組のキネマポップバンド、カラコルムの山々だ。
結成からわずか2年で『SUMMER SONIC』『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演し、敬愛する向井秀徳との共演も果たすなど注目が集まっている同バンドは、YMO『増殖』が青写真の最新EP『週刊奇抜』で、現実でも非現実でもない「超現実」を表現した。
石田想太朗(Vo / Gt)によると、「超現実」は好きなものに夢中な人を肯定する世界だと言う。聴いた誰もが「見たことがない、カッコいい」と語る彼らの表現はシュルレアリスムで、『ドラえもん』でもあり、星新一のようでもある。アツさがカッコよかった時代でもなく、斜に構えるのも違う。それに気づいたZ世代が等身大で提案する「超現実という青春」に、これからのカッコよさの答えがあるのかもしれない。
INDEX
原点は、高校の学年全員から反響があったオリジナル楽曲
―まずは作詞作曲をメインで担当されている石田さんにお伺いしたいのですが、カラコルムの山々を始める前に、高校生の時に石田想太朗の名前でプロジェクト「Shibuya Session」をやられていますね。これはどういったきっかけでスタートしたのでしょう。
石田:高1、高2のときに、文化祭のコピーバンドで先輩を差し置いて投票1位を獲得したんですよ。でも、高3でボーカルの女の子が抜けてしまったので、ZAZEN BOYSのコピバンをやったんですけれど、菅田将暉のコピバンに負けてしまった。このままでは自分は2位で高校を卒業することになってしまう、どうにかして1位を守らなきゃいけないと思って……。
―たくさん人を巻き込もうと思ったわけですね。
石田:そうなんです。どうしたら勝てるかを考えて、学年で音楽をやっている人を全員集めてアルバムを作る「Shibuya Session」をやりました。
―手応えはありましたか?
石田:1枚目の『Shibuya Session -迎春-』をリリースした時はコロナ禍で皆が家にいたこともあって、学年のみんなが一斉に家で音源を聴き始めたんですよ。その繋がっていく感覚が気持ち良くて。全然違う場所にいるのに全員が同じものを聴いていることにドキドキしました。その時の快感が原点です。「Shibuya Session」は春夏秋冬の4部作で、4枚目はコロナ禍に出しました。それで満足してからは、カラコルムの山々が中心になります。
―高校までは音楽はやられていなかった?
石田:3歳からピアノ、その後小学校高学年からギターをやっていました。小川諒太とEPを作ったりして、高校では吹奏楽部に入りました。
―1つの楽器を続けることよりも、色んな音楽にプレイヤーとして触れていますよね。
石田:幼少期から漠然と「自分は音楽をやっている」という自意識があって。だからとにかく人よりも音楽に近づかなきゃいけないと思っていて、その結果、様々なジャンルに触れていた感じですね。
―カラコルムの山々は歌やラップ、コーラスをテクニカルに織り込んだ音楽性でジャンルで形容するのが難しく思いますが、それだけ様々な音楽を通ってきた中で、どのようにここにたどり着いたのでしょうか。
石田:これまでの人生では、いちいち自分がやり始めたことで、自分よりもすごい人を見つけて、違う方向に行ってきたんです。そうやって自分よりもすごい人を避け続けた結果が、いろんな要素を混ぜこぜにするこの形なのかなと思います。今ないものでブームを作ることの格好良さは坂本龍一に影響を受けたので、それをやりたいというこだわりもありますね。