滋賀ふるさと観光大使を務めるアーティスト 西川貴教が発起人となり、琵琶湖の環境保全と地方活性を掲げた音楽イベント『イナズマロック フェス 2024』が9月21日(土)、22日(日)に開催される。ミュージシャンだけでなくアイドルや芸人、ご当地キャラクターまで幅広いジャンルの出演者が集まる同イベントは今年で16回目。音楽社会学者の永井純一に、地域とアーティストが一体となって続けている『イナズマ』を紐解いてもらった。
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1977年兵庫県生まれ。関西国際大学社会学部准教授。博士(社会学)。専門は音楽社会学、メディア研究。世界の音楽フェスを巡り、社会との関係を研究する。著書に『ロックフェスの社会学――個人化社会における祝祭をめぐって』(2016、ミネルヴァ書房)、共著に『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(2019、花伝社)、『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(2019、花伝社)、『クリティカル・ワード ポピュラー音楽〈聴く〉を広げる・更新する』(2023、フィルムアート社)など。
地域活性化と環境保全を前面に打ち出したフェスの先駆け
2000年以降、『FUJI ROCK FESTIVAL、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』、『SUMMER SONIC』、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』のいわゆる4大フェスが成功をおさめると、より一層全国各地でフェスが開催されるようになった。祭りさながらに立ち上がるそれらはやがて地域活性の文脈でも注目され、その傾向は第2次安倍内閣が地方創生を掲げた2014年以降に顕著になった。2009年に始まった『イナズマロック フェス』は、当初から地域活性化と環境保全を前面に打ち出しており、まさにその先駆けだといえるだろう。
筆者はしばしば地域のフェスをショッピングモールと商店街にたとえて考えている。大まかにいえば前者が全国に名の通った有名アーティストが出演する数万人規模のものであるのに対し、後者は通好みするラインナップで小規模なものである。そして、有料エリアと無料エリアからなる『イナズマ』は、このどちらとも違う唯一無二の魅力を持っている。しいていえば、ショッピングモールと商店街が隣接し、異なる風景が1つの世界観をなしているのである。
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西川貴教が手探りで始めたからできた、独特の世界観
有料エリアのメインステージ「雷神ステージ」には、全国的な知名度を誇るバンドやテレビでお馴染みのアーティストが名を連ね、合間には旬のお笑いライブが繰り広げられる。




その一方で、B級グルメや物販などがひしめく無料エリアでは、観客との距離感の近いステージ「風神ステージ」「龍神ステージ」でインディーズバンドやアイドル、パフォーマーがライブを行っている。


フリーエリアには観光協会をはじめ、大学、リゾート施設など地域にゆかりのあるさまざまな団体のブースが並び、会場を歩くとローカルフードとして有名なサラダパンや、本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』でもお馴染みの平和堂のゆるキャラ「はとっぴー」など滋賀推しの数々が目に入る。こちらは商店街のイベントや学園祭のような手作り感が溢れている。



この独特の世界観は、フェスの成り立ち、つまり、西川貴教がまさに手探りで始めたフェスだったことに起因しているといっていいだろう。
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派生イベント『イナズマフードGP』は地域の一大イベントに
『イナズマ』が始まった頃、多くのフェスの客層の主流は今よりもコアな音楽ファンであり、出演者はテレビの人気者ではなくインディーズのアーティストやオルタナティブ系のロックバンドが多かった。そして、自身がしばしば「呼ばれてなかった」と語るように、当時T.M.Revolutionとしてメインストリームのど真ん中にいた西川はこの頃まで大きなフェスにほとんど出ていない。誤解を恐れずにいえば、この時点で西川は経験豊富なフェスを熟知したイベンターではなかったのである。
なお、初回の準備期間は半年ほどだったというが、短期間で開催にこぎつけたことはむやみに理念や理想を捏ね回さず、他のフェスの模倣に陥ることを回避できたという意味で極めて重要だった。


当然そこに至るには、相当な打ち合わせや調整があったことは想像に難くない。そして、そもそもフェスを始めるきっかけが、西川の滋賀ふるさと観光大使就任であることをふまえれば、そのパートナーに滋賀県をはじめとした行政が含まれていたのは必然といえよう。

その影響もあって地元企業や団体の協賛や協力はスムーズにすすみ、県民も『イナズマ』に積極的に関与するようになった。毎年開催される『イナズマフードGPXL』は、イナズマロック フェスに出展する権利を巡って県内外の飲食店がしのぎを削るイベントだが、これだけで数万人を動員する、地域の一大イベントへ発展した。


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マスカルチャーとローカルカルチャーが同居する地方フェス
このように『イナズマ』のおもしろさは、華やかなステージと賑やかなフロアが隣接していること、一方でマスメディアの影響力を利用してアーティストや観客を集め、他方でローカルな草の根的活動を展開している点にある。
ジャンルや知名度にとらわれないブッキングは、当初一部の音楽ファンには「フェスらしくない」と映っていたかもしれないが、今日では「『イナズマ』らしさ」と表現され、一目置かれるに至っている。その一方で、フェスやフードGPをフリーペーパーやラジオなどのローカルメディアが取材し、地元を盛り上げる。

こうしたマスカルチャーとローカルカルチャーの同居に地方のリアリティを感じずにいられない。もちろん伸び代はまだまだあるが、このフェスには地域社会とフェスの関係を読み解く上で重要なヒントがある。
開催月を2023年までの10月から9月に変更したのは、地元のお祭り『大津祭』と日程をずらす意図があったそうで、西川の地域愛が感じられるエピソードだ。さらにこれまでバスの発着場として使っていたエリアをフリーエリアとして、過去最大のエリア規模で開催する2024年。チケットを買わなくても楽しめるエリアがあることは来場のハードルを大きく下げる。地域と一緒に変化、拡大を続けながら、より開かれた『イナズマ』に、足を運んでみてはいかがだろうか。



『イナズマロック フェス 2024』

会場:滋賀県草津市 烏丸半島芝生広場 (滋賀県立琵琶湖博物館西隣 多目的広場)
公演日:2024年9月21日(土)、22日(日)
■[LIVE AREA]開場/開演/終演:10:30/12:00/19:00 (各日とも予定)
■[FREE AREA]開場:9:30
※雨天決行(荒天の場合は中止)
■出演アーティスト:(50音順)
[LIVE AREA / 雷神STAGE]
▼9月21日(土)
真天地開闢集団-ジグザグ / T.M.Revolution / ながのーず (長野博+井ノ原快彦) / HYDE / Fear, and Loathing in Las Vegas / ももいろクローバーZ / ロバート秋山presents 秋山歌謡祭
▼9月22日(日)
ウマ娘 プリティーダービー / 西川貴教 / NiziU / NEWS / Novelbright / FANTASTICS / 宮野真
守 and more
■お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (11:00~18:00 日・祝休)
■Official HP:http://inazumarock.com/
■Official X:@irf_official