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「クワロマンティック」とは。いいへんじ・中島梓織が描く、親密な人間関係

2025.8.28

いいへんじ『われわれなりのロマンティック』

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恋愛的指向は変わる。そんな中で大切なのは、対話をし続けること

ー『われわれなりのロマンティック』の中で、「自分はクワロマでデミセクだと思ってたけど、なんか分かんなくなってきた」「そういうのって別に変わり続けるからね」というやり取りが出てきたのが印象に残っています。この「変わり続ける」みたいな部分は、中島さんの経験から出てきた言葉ですか?

中島:そうです。自分は以前ヘテロロマンティック(※1)でデミセクシュアル(※2)だと自認していたんですが、「クワロマンティック」という言葉を知ってから、また自認が変わってきましたし、性的な行為に対しても、デミセクよりは、ほぼアセクシャル(※3)に近いのかなと思うようになって。グラデーションの中で、動いていくものなんだなと感じたんです。

※1恋愛対象に焦点を当て、異性愛者のみが恋愛対象であるというセクシュアリティ

※2精神的なつながりを感じる相手に対してのみ、性的な欲求を抱くセクシャリティ

※他者に対して、性的な欲求を感じないというセクシュアリティ。恋愛感情は抱くことがある。

ー恋愛的指向は揺らいだり変わったりするものであるという前提が描かれているのは、すごくいいなと思いました。中島さんのようにご自身のことを言葉にできる人もいる一方で、劇中では自分のことを話したり、誰かと対話することのハードルの高さも指摘されていましたが、中島さんは他者とどのように対話をしていけばいいと思われますか?

中島:対話を始めるには、対話をする相手にもテーブルについてもらう必要があって、まずそこを共有することが結構大変なんですよね。こちらが一方的に「対話すればきっとよくなる」と信じていても意味がない。だからまずは場の作り方や機会の作り方みたいなところから考える必要があると思っています。でも、社会に出ると現実として、時間も体力も気力もないし、そんなことをしている場合ではない、みたいになっちゃいますよね。

稽古場にも、私が読んだ本をみんなも読めるように置いていて、国語の授業みたいに輪読したり、哲学対話(※)もしています。脚本もそうだと思っているんですが、真ん中に何かあると、自分の考えを話すハードルが下がる気がするんです。観客のみなさんも、私たちの作品を観た後に感想を喋りながら、一緒に観た人と「この人こんなこと考えてたんだ」って気づくこともあるだろうなと思います。

※一般的に言われている価値観と、違うことを考えているということについて、哲学を手がかりに話し合う話。「何を言ってもいい」「人の言うことに対して否定的な態度をとらない」など8つのルールがあり、参加者が安心して語り合える場が開かれている。(参考:『梶谷真司著『考えるとはどういうことか』2018年9月刊、幻冬舎新書』

いいへんじ『われわれなりのロマンティック』稽古場に置いてあった書籍リスト(一部)

・『アセクシュアル アロマンティック入門性的惹かれや恋愛感情を持たない人たち』(集英社新書、2025年)
・『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと』(明石書店、2024年)
・『現代思想2024年6月号 特集=〈友情〉の現在』(青土社、2024年)
・『フェミニズムってなんですか?』(文藝春秋、2022年)
・『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(平凡社新書、2015年)

中島:あとは、対話って、実は続けることが一番難しいんです。付き合いが長くなればなるほど、自分も相手も変わるし、環境も変わるので、本来は約束や関係性のあり方が更新されていくはずなんです。でも、対話を持続するための不断の努力にも、互いのモチベーションが大事になってくるんですよね。

ーそれこそこの作品の中ではいわゆる「普通の恋愛」をしている人たちとして描かれている凪と陸は、10年間付き合った後で哲学対話を通じて最終的な結論を出しますが、彼らにはどういう変化が起きたのでしょう?

中島:多分今までちゃんと対話をしてこなかったんだろうな、みたいなことは、実際に凪と陸を演じてくれている谷川清夏さんと奥山樹生くんとも話しました。凪と陸は事実婚の状態なんですが、茉莉はその状態を「選んでる」と思っているけど、多分2人は積極的に話し合って選んでいるわけではないんだろうね、とか。

この2人は深く考えずに関係をスタートしていた分、相手が何を考えているのかについて、ちゃんと会話をしてきていなかったんだと思うんですよね。なので、哲学対話を通して相手の考え方について深く知った結果、考えが違うことに気付いたと思います。凪も陸も、これからそれぞれに向き合わなくてはならないことがあると思うんですが、それでもポジティブな部分を残しています。

―選択の結果について、あくまでポジティブに描くのが、いいへんじらしいと思いました。

中島:いいへんじの作品の中では、対話を諦めなかったら最終的にはちょっと良くなるかもしれないよ、という提示をしたいです。綺麗ごとだと言われるかもしれないけど、演劇というフィクションの中ぐらいは、こうあったらいいなという世界を描きたいし、観てくれた人たちに、私が思う対話のポジティブな部分が、ちょっとでも伝わればいいなと思っていますね。

ー中島さんにとって、人とのベストな関係性や距離感はどういうものですか?

中島:「今の私たちってどういう感じ?」「私はこう思ってるけど、あなたは今どう?」みたいな感じで、お互いが心地良いと思える関係を検討し続けられるかどうかが、自分にとっては大事かなと思います。

―今後、中島さんがやっていきたいと思っていることについて伺いたいです。

中島:最初の頃は内省的な作品を作っていたんですが、『友達じゃない』あたりから、だんだん自分が描きたいものが他者に向いてきた感覚があるんです。扱うテーマもより複雑になるんですが、そこについていろんな人と話しながら考えたいと思っています。今までは同世代の俳優と一緒に作品を作っていくことが多かったんですが、より広い射程での対話に挑戦したいと考えています。いろんな方に参加いただけるようなワークショップも積極的にやっていく予定です。

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