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「クワロマンティック」に救われた、ラベリングされない「好き」の気持ち。「付き合う」って何?
ー「クワロマンティック」について、サイトでも中島さんご自身の経験を踏まえた解説がありますね。あまり耳にしたことがない人も多いと思いますが、改めて説明していただけますか?
中島:平たく言うと「好き」という気持ちについて、友達としての「好き」か、恋愛としての「好き」か、区別できなかったり、しないという恋愛的指向です。あとは、既存の恋愛の概念に対して「何それ?」というスタンスかもしれない。「みんな当たり前に恋愛の話をしてるけど、じゃあ何なの? 説明してみてよ」みたいな。
ー改めて聞かれると、説明に困る人も多い気がします。
中島:劇中でも、主人公・茉莉の幼馴染である凪と陸のカップルがラブラブな時期に、茉莉が「恋愛って何?」と聞いたら、すごくざっくりした答えが返ってくるシーンがあります。自然に恋愛をしている人に比べて、クワロマンティックの人たちは、恋愛などの関係性について考え続けて、言葉が溢れかえっている人が多いんじゃないかなと思います。
ー中島さんが「クワロマンティック」という言葉と出会った時、どのように思いましたか?
中島:「それ!!!」と思いました(笑)。「クワロマンティック」という言葉を知る前、私自身、パートナーとは別の人に対して自分の中にデカい気持ちがあることに困惑していた時期があったんです。「パートナーに抱いている好きと、その人に抱いてる好きは全然違うけど、同時にそれを抱いているのって悪いこと?」みたいな。その人は自分にとって結構重要な存在だけど、恋愛でもないし、だからと言って、ただの友達とも言われたくなくて。
そんな中で、今回ジェンダー・セクシュアリティ監修として参加していただいている中村香住さん(※1)が書いた「クワロマンティック宣言」(※2)を読んでちゃんと「クワロマンティック」について知ったんです。中村さんとは今回改めて色々と話しましたが、共感する部分もあれば、私と中村さんでも少し違う部分もあって、本当に「1人1クワロマンティック」という感じで、人それぞれで。
※1専門は文化社会学、ジェンダー・セクシュアリティ研究で、現代日本におけるポピュラーカルチャーを、第三波フェミニズムやクィア・スタディーズの観点から研究している。NHKのドラマ『『作りたい女と食べたい女』ではジェンダー・セクシュアリティ考証として関わるなど、専門的な観点からコンテンツ作りを支える。参考:https://researchmap.jp/kasuminakamura
※2『現代思想2021年9月号 特集=〈恋愛〉の現在-変わりゆく親密さのかたち-』(青土社)に収録。
―そもそも「恋愛」の定義も人によって違いますよね。
中島:そうなんです。恋愛感情ってよく分からないけど、自分にとっては「あなたが何を考えているのかすごく気になる。あなたの存在はとても尊い。とにかく生きていてください」ということなのかなと思ってた。でも実は、恋愛感情って人によっては、「キュンとする」とか「かっこいいと思う」みたいな、気楽な部分が多いらしいと知ってから、自分が「恋愛」だと思っていた感情は人と違っていて、自分はもしかしたらおかしいんじゃないか、と大混乱しました。それまでは自分が抱くデカい気持ちが、みんなの言う「恋愛」だと思っていたんですよ。
ー中島さんが大切な人に対して抱く「デカい気持ち」がどういうものなのか、もう少しお聞きしてもいいですか?
中島:今のパートナーの場合は、その人が考えてることとか、やりたいと思っていることがすごく面白くて、とても尊敬できるんです。でも、生活面で心配な部分が多いから、どうしてもほっとけなくて。自分としてはそれってあまり「恋愛」という感じじゃないんですよね。

ーでも世の中的には、「ほっとけないんだよね」と言ったら恋愛の文脈にされるような気もします。
中島:自分としては、もっと鬼気迫るものがあるというか。私は、好きな人に好きな人がいたら、幸せになってほしいと思うタイプなので、たとえばもし他の人の存在によって自分が心配している部分が解消しそうだったら、お喋りするのが楽しいという部分で関係を続けたりとか、別の距離感で接していたと思います。なので、隣りにいるのが必ずしも私じゃなくてもいいし、よく恋愛かどうかの根拠として語られる「他の人とご飯行くのが嫌だ」みたいな嫉妬の気持ちも全然湧きません。
ー特に異性との関係性について「友達」や「恋人」にラベリングしたがる風潮は、未だにあると思います。そういった風潮については、どう思いますか。
中島:「気になってる人いるの?」と聞かれた時に、「気になってるけど、(恋愛的な)好きってことじゃないと思う」と言うと、「いや好きじゃん」とか「その人のこと考えちゃうんでしょ? それが好きってこと」みたいに言われたことはありますね。あとは、何となく性行為のニュアンスも含めて「どうにかなりたい」みたいな言葉も使われるじゃないですか。でも別に必ずしもそういうことをしたいわけじゃなかったりするんですよね。
ーちなみに今のパートナーの方とは、どのように関係性を築いてきているんですか?
中島:異性愛的な文脈で付き合い始めたので、最初は「付き合うってこういうことだよね?」みたいな感じで、よくある恋愛のパターンを踏襲していました。でも徐々に「これじゃなくてもよくない?」と感じるようになって。
ー私も人と付き合ってみてから、「付き合うって何をすることなんだろう?」ということを考えたことがあります。
中島:何をもって「付き合ってる」ということになるのか、というところですよね。自分はパートナーと一緒に住んでいますが、付き合い始めた時から、お互い何かあったら助け合いましょう、というところは変わってないんです。でもそれって土台みたいなところであって、その上でどういう関係性を築いているかというのは、みんな違うんだろうなと思いますね。
