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映画『本心』解説 AIの功罪を通して描く人間の悪意

2024.11.11

#MOVIE

「人の心」を多角的に描くために必要な存在

さらに、本作はラブストーリーの側面もある。青年・朔也は、母の歳の離れた親友の女性・三好(三吉彩花)が台風被害のため避難所生活中だと知って家へと招き、そこからは2人の(AIの母も交えて3人の)生活が始まる。苦しく辛い場面が多い本作の中では、ほっと息をつける場面でもあり、「人に触れられない」苦悩を抱える三好の過去と、彼女だけが知る母の秘密も興味を引くだろう。

三好彩花(三吉彩花)と朔也(池松壮亮)

そして、とある出来事をきっかけに、世界的に知られるアバターデザイナーのイフィー(仲野太賀)が、その2人の関係に割って入り、三角関係が築かれる。実は、イフィーは石井裕也監督が脚本制作で100稿近くまで改稿を重ねた中で、「削るならここか」と考えていたキャラクターでもあったそうだ。しかし、原作者の平野啓一郎と何度か話す中で、イフィーの存在の重要性、「誰にどう伝わるか」を慎重に考えられていたことなどから、尺が限られる映画でもイフィーを描くことを決めたようだ。

アバターデザイナーのイフィー(仲野太賀)

脚本の初期段階ではもう少し「自由死」や、母の死に紐づく「本心とは?」という部分にウェイトを置いたものだったそうで、そちらのほうが多くの人にとって直線的でわかりやすい内容にはなっただろう。しかし、経済的には恵まれていて一定の良識もあるものの、人の「本心」について不器用な見方をしているイフィーのような人間は現実にもいるし、それは本作の主題とも言える「完全には理解できない人の心」を多角的に描くためには必要な存在だと思えたのだ。

なお、平野啓一郎は公式サイトのコメントで「脚本の段階で相談を受けましたが、私は、原作のプロットを窮屈になぞろうとするのではない、石井裕也監督による映画的な再構築を受け容れました」と述べている。その通りで、原作者の言葉を大いに参考にしながらも、石井監督らしい(前述した人間の悪意などの)作家性をはっきり打ち出した内容となったのは間違いない。

また、石井監督は実際に7歳の時に母を亡くし「原作を読んだ際、傲慢な言い方をすれば、自分の話だと感じました」とも語っている。石井監督の自身の母親への「執着」ともいえる感情も、映画には確実に反映されているのだろう。

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