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「この映画は、人間だけの話ではない」(金子)
―前回のインタビューで、高木さんが、この映画の「裏テーマには仏教があって」と言っていたことの意味が、いまのお話で、ようやくわかりました(笑)。
高木:そうですよね(笑)。この対談のために、久しぶりに『光る川』を見直したんですけど、ラストのシーンのことを、忘れていて。最後、川から葉っぱが流れてきて終わるじゃないですか。そのシーンを観て改めて思ったんですけど、川の上流から葉っぱが流れてくるというのは、ある意味自然から返答をもらったということであって……そこが、この映画の素晴らしいところだなって思って。

―どういうことでしょう?
高木:どう説明したらいいかな……そう、僕は昨日も、部屋の窓も開けて、カエルと一緒に演奏していたんですけど、ただカエルと一緒に演奏することって、誰にでもできるんですよ。でも、カエルに許されるような演奏は難しくて。カエルのほうも僕の演奏を聴いてくれている感じ、僕の演奏に対してカエルから返事をもらえるようなことが、ときどきあるんですよ。それと同じように、自然のほうから何か返事がもらえる、ということを描けるのは、素晴らしいと思いました。
金子:ありがとうございます。『光る川』というタイトルの通り、この映画では川もひとつの登場人物であり、それこそ木地屋がつくった「お椀」も、ひとりの登場人物であるというか――先ほど環境音の話をしましたけど、この映画は、人間だけの話ではないんですよね。

金子:いまの高木さんのお話を聞いて、ひとつ思い出したことがあって。ちょうど1年ぐらい前に、高木さんが『FESTIVAL FRUEZINHO 2024』(2024年7月)で『光る川』の曲を演奏してくれたんです。僕もその演奏を観に行かせていただいて。会場だった立川ステージガーデンは半分室内、半分外みたいなホールなんですけど、高木さんが演奏を始めると、外でカミナリが鳴って、激しい雨が降り始めて。まさに、先ほど高木さんがおっしゃったように、カミナリと雨と一緒に音楽が盛り上がっていくというか、まるでセッションみたいで。それに自分は、ものすごく感動したんですよね。打ち合わせで高木さんがおっしゃっていたことが、その演奏にすべて集約されているような気がして……自分としては、そこで全部腑に落ちました。
―なるほど。
金子:もうひとつ言うならば、自分は大体いつも、山とか川で作品を撮っているんですけど、この場所がいいな、ここで撮りたいなと思っても、すぐにはカメラを回さないんです。ここがいいと思ったら、時間や日にちを変えて、何回もそこを訪れるようにしていて。そういう場所って、その場所自体にすごく力があるから、容易に撮らせてもらえないような感じがあるんですよね。だけど、何回も通っているうちに、「そろそろ撮ってもいいよ」って言ってくれるように思える瞬間があって。自分の映画づくりのスタイルとして、そうなるまでは撮らないようしています。
―高木さんは京都出身で、金子さんは東京出身――必ずしも自然豊かな場所で生まれ育ったわけではないと思いますが、そんなほぼ同年代のおふたりが、いまこうして自然の中に入って作品づくりをしているのは、ちょっと興味深いことだと思っていて。そのあたりについては、ご自身としては、どのように考えていらっしゃるのでしょう?
高木:僕は京都の中でもいわゆるニュータウンと呼ばれるようなところの団地で育っていて。山を切り開いて新しく住宅地にしたようなところだったので、文化がなかったんですよね。お祭りはあったけど、その場所に代々伝わるようなものではなかったというか。
そういう場所で生まれ育って……そう、さっき「すべての表現は私小説だと思う」という話がありましたけど、やっぱり多くの人は、自分の人生を解き明かそうとして、作品をつくっていると思うんです。少なくとも自分の場合はそうで、作品をつくっている最中に、自分の人生のことが少しわかってくるというか、わかる過程で作品ができるというか。
僕は幼少期から、映画とか音楽とか、あるいは絵とか文章も含めて、何かが生まれることに対してずっと興味があったんですよね。自分の場合、どうしてもそこに向かってしまうというか、いまこうして田舎に越して暮らしているのも、その源流に近いところに向かっているという気がするんです。さっき金子監督が第一次産業っておっしゃっていましたけど、農業とか林業とか漁業は、すごく源流に近いんですよね。自然の中から、泉のように湧き出しているものというか。なので、つくるということに魅せられた人は、そこにたどり着かざるを得ない気がするんです。そこから出てきているものを、紛れもなく美しいと思うなら、そこから何かを学びたいというか、それに近づくようなものをつくりたいっていう。
金子:自分が生きてきた足元であり源を探っていくと、結局はそういうものに繋がっていきますね。僕も以前は、自然は自分にないものというか、ある種のあこがれなのかなって思っていたんですけど、『光る川』で自分の祖父が農業をやっていたというルーツがあるから自然に惹きつけられ続けているんだ、ということに気が付きました。自分が育ったところは、一応東京なんですけど、僕が生まれる数十年前は、全部農地だったらしいです。
―面白いですね。おふたりとも、川の上流へ上流へとさかのぼるように、都会から田舎に身を投じていったというか。
金子:そうですね(笑)。『光る川』のキャッチコピーが、まさに「川を、時を、さかのぼっていく――」で。それは、人々の暮らしの源流であり過去であり、そしてまた、自分自身の源みたいなものに近づいていくってことなのかなって思っています。
