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制作に反映された、それぞれの幼少期の物語
金子:もうひとつは、自分自身の話ですよね。ちょっと僕の話が長くなって申し訳ないんですけど……。
―いえいえ。続けてください。
金子:はい。この映画の中で、お父さんとお婆ちゃんが、世代的な価値観の違いで対立しているんですね。思い返してみると、僕が子どもの頃、自分の父親と祖父もあまり仲がよくないようにみえました。――東京の話ではあるんですけど、祖父は代々農業をやっていて、父親の世代はそういった第一次産業ではなく、これからは第二次、第三次産業だっていう時代で、農家を継がなかったんですね。
それで、晩年に祖父が病気になって……そのとき祖父が「多摩川の源流の、小河内の水を汲んできてほしい」って、父に頼んだんです。祖父が農業をやっていた地域では、農地に水を運んでくれる多摩川に対する民間信仰があって、多摩川の源流の水を飲めば、どんな病気でも治ると言い伝えられてたんですね。子どもだった自分には仲がよくないように見えていた二人ですが、父親は祖父の願いを素直に聞いて、多摩川の源流に水を汲みに行ったんです。……結局、祖父はそのまま亡くなってしまうんですけど、その一連の出来事が、自分の中ではすごく印象に残っていて。そこから、今回の物語を発想したところがあるんです。そういう意味で、この物語も、自分にとっての私小説というか、自分の何かを描いていることになるのかもしれないというお話を、高木さんにさせていただいて。
―なるほど。その話を聞いて、高木さんは、どんな感想を?
高木:前回のインタビューでもお話させていただいたように、僕のひいおじいさんが、それこそ岐阜のほうから京都にやってきて、壊れかけたお寺を再興した人で。だから仏教は生まれたときから身近だったけど、近すぎるがゆえに、あんまり向き合ってこなかったんですよね。
だけど金子さんから円空の話を聞いて、僕なりに円空のことをいろいろ調べたりしながら、ようやく仏教のことを勉強するようになって。ここからいきなり草笛の話になるんですけど、木地屋の彼が、なぜ草笛を吹くのかって、恐らくお母さんに歌ってもらった子守歌を、彼は草笛で吹いているんじゃないかと思って。仏教はインドで始まって、中国を経由して日本にきたわけですけど、彼が生業としている「木地屋」の文化も、大陸からやってきたものらしいんですよね。だから、彼が吹く草笛のメロディは、必ずしも日本っぽいものではなく、むしろそこに混ざり切らずに残ったものというか、どこか大陸の雰囲気を残したものなんじゃないかって思って。それで、いわゆる日本的な五音階――ヨナ抜き音階とか言いますけど、そうではなくて敢えて四音階でつくってみたりして。
―あの草笛のメロディには、そんなサイドストーリーがあったんですね。
高木:そうなんです(笑)。それこそ、先ほど監督がおっしゃってくれた話とかも、映画を観ているだけではわからないじゃないですか。僕はそういうものがないと音楽が――つくれないことはないんですけど、自分自身が面白くないんですよね。なので、今回の映画は、そういう意味で自分の興味を満たしてくれたし、いつか向き合いたかったことに取り組めたことが、すごく良かったんですよね。
