2025年1月31日から2月3日にかけて『ベルリン・ファッション・ウィーク』が開催された。ドイツ拠点のブランドをメインに、ウクライナやアフリカからの初参加も含めた35ブランドが2025-26年秋冬コレクションを発表。来場者数は前シーズンを上回る約3万人を記録し、暗くて寒い真冬のベルリンを華やかに彩った。
ベルリンは、パリやミラノ、ロンドンのようなファッションシティとは違う。音楽やアートが世界的評価を得ている中、ファッションは世界基準を満たしていないように思える。一時的ではあるが、ファッションウィークの開催地がフランクフルトに変更になったり、長年のメインスポンサーだったメルセデス・ベンツが退いたりと不穏な動きを見せていたのも事実だ。
しかし、コロナ禍を経て、古くて前進しない価値観を排除し、運営方法や方向性を刷新したことにより、ショーのクオリティーが向上し、海外からも注目されるようになった。特に、ドイツ拠点の新進気鋭ブランドの育成に力を入れており、才能ある若きデザイナーを多数排出している。今シーズンは、ヨーロッパ諸国に限らず、日本やアメリカからもインフルエンサーやファッション界の重鎮を招き、国際豊かで豪華な顔触れを見せた。
トライ&エラーを繰り返しながらも成長し続ける『ベルリン・ファッション・ウィーク』の現地レポートと、華やかなゲストたちのストリートスナップをお届けする。
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ベルリンならではの会場と演出が印象的なランウェイショー
『ベルリン・ファッション・ウィーク』は2007年にスタートし、20年近い歴史を持つ。毎年夏と冬の年2回開催されており、出展ブランドは「Fashion Council Germany」とベルリン上院の経済・エネルギー・企業局(Senatsverwaltung für Wirtschaft, Energie und Betriebe)が開催しているアワードやコンペティションの受賞ブランドが軸となっている。中でも最も注目度の高いのが「ベルリン・コンテンポラリー」部門で、受賞者には賞金25,000ユーロが授与され、『ベルリン・ファッション・ウィーク』公式ブランドとして、ランウェイショーやプレゼンテーションで最新コレクションを発表する機会が与えられている。

2025-26秋冬コレクションは、特にメンズ色の強いユニセックスブランドが印象に残った。初めて訪れるユニークな会場、独自のアイデアが詰まった演出など、デザイナーのこだわりと審美眼を垣間見させてもらった。ベルリンは、文化遺産に指定されている歴史的建築とコンクリート剥き出しのインダストリアルな建築とが入り混じり、独特の雰囲気を放っている。ショーの会場選びは非常に重要であり、たとえ、どんなに素晴らしいデザインであっても、演出のセンスに欠けていたらマイナスイメージを植え付けてしまう。
2日目のトリを務めた「ハダーランプ(HADERLUMP)」は、中心地から離れたシェーネヴァイデ地区に位置する列車の整備・修理施設「ヴェルク・シューネヴァイデ(Werk Schöneweide)」を会場にショーを披露。産業遺産としても希少価値の高い工場内は、古い車両や鉄や銅で作られた機械が最低限のライトで照らされた空間の中、20世紀半ばの鉄道や乗客からインスパイアされた28体のルックが登場した。

当時の列車の内装をイメージしたテキスタイルや旅には欠かせないバッグやトランクケースなど、ディテールへのこだわりも。「ハダーランプ」は、ベルリンのアトリエで職人の手によって一着ずつ丁寧に作られている。歴史ある修理工場や鉄道を舞台に、クラフトマンシップへのリスペクトを感じさせるショーだった。

「ハダーランプ」とは対照的に、最先端な音響・映像設備の整った「Uber Eats Music Hall」を会場にショーを披露したのが「ダニー・ラインケ(Danny Reinke)」だ。個人的にはベルリンらしい退廃的な雰囲気の会場で見たいコレクションだったが、ハインリッヒ・ホフマンの絵本「もじゃもじゃペーター(Struwwelpeter)」からインスパイアされ、1980年代パンクの反逆的なデザインにクチュールの美学を組み合わせた相反するコレクションを発表。


ツイード素材のクラシカルなジャケットやパンツ、コートに対し、赤のタータンチェック、ボロボロに解体したイブニングドレス、傷だらけの表面にほつれや穴を施したユーズド感など、至るところにパンクのアクセントを加え、決められた型には嵌まらないという強いメッセージを込めたミクスチャースタイルを表現した。
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世界最高峰クラブ「ベルクハイン」もショー会場に
世界最高峰と呼び名の高い有数クラブ「ベルクハイン(Berghain)」には、普段は入ることができない空間が併設されている。過去には、イタリアのブランド「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」のパーティーや、フランスのブランド「ルッツ ヒュエル(Lutz Huelle)」のショーといったインターナショナルブランドの会場にも利用されたことがあるが、今シーズンの『ベルリン・ファッション・ウィーク』においてもいくつかのブランドが「ベルクハイン」を会場にランウェイショーを披露した。
2019年にデビューを果たし、『ベルリン・ファッション・ウィーク』でも頭角を現してきたベルリン拠点のブランド「SF1OG」もその一つだ。荒廃的な電力発電所の跡地は、アンティーク素材の再利用などアップサイクルを得意とし、ブラック&ホワイトを基調としたミニマルでジェンダー・インクルーシブなルックが映える最も適した会場と言えるだろう。

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ブラックだけじゃない。個性豊かなベルリンのストリートスナップ
「ベルクハイン」を筆頭に、ショーに訪れたゲストたちをキャッチし、スナップ撮影を決行。気温5℃を下回る真冬のベルリンの街並みは、ブラックやグレー、ブラウンといったダークカラーで溢れているが、『ベルリン・ファッション・ウィーク』では、レイヤードスタイルやオリジナリティー溢れるアクセサリーやバッグなどの小物使いなど、ディテールにこだわったスタイリングに注目して欲しい。

野暮ったくなりがちな真冬のレイヤードスタイルをスッキリバランス良く見せるだけでなく、mbyMのまだら模様のハラコジャケットをインナーに挟み、足元にも同じまだら模様のハラコのサボ(OBS)を合わせ、さらに、バッグまで無地のキャメル色のハラコバッグというオシャレ上級者にしかできない着こなし術。


ビッグショルダーが特徴的な「ポリエレガンス(PORI ELEGANCE)」のグレーのセットアップは、ディザスターなデザインながらクラッチバッグを合わせることで上品なパーティースタイルに。つま先にシルバープレートを施したボリューミーなフォルムが特徴的なバレンシアガ(BALENCIAGA)のシューズを合わせることで、足元も強調した存在感あるスタイルに仕上げている。

一見、マニッシュでやや強めに見えるスタイリングに、シルバーアクセサリーやバッグの装飾で女性らしさをプラス。片足だけブラウジングしたフラワープリントのカーゴパンツとブーツのバランスも良い。

同行者の友人たちのレッドとブルーのカラーコーデバランスも良い。ブルゾン、キャップ、サングラスにそれぞれトーンの違うブルーを取り入れた美しいグラデーションが見事。


パールのビーズがストライプ状に全体に施されたブルゾンを主役に、太めのバギーパンツで程よく主張。バックスタイルに加えたミニショルダーバッグが控え目ながら良いアクセントとなったブラックコーデのお手本。

「SF1OG」の撮影に来ていた日本人フォトグラファーをキャッチ。アジア人にはなかなか難しいバラクラバをキャップとバランスよく合わせたワンランク上のスタイリング。ホワイトがミックスされたブラックメッシュがブラックデニムに映える。アクセサリーとしても活躍できるバラクラバは、友人が手掛けるブランド「Three Forms Of The Light」のもの。

フリルをあしらったランジェリーショーツにブラックドットの白いタイツを合わせたアヴァンギャルドなコンビネーションながら、重厚感あるファーブルゾンとブーツで締めてクールな印象に。暗がりにも映えるビビッドなターコイズブルーの口紅まで計算された高度なテクニックを見せてくれた。

インターナショナルゲストとして『ベルリン・ファッション・ウィーク』に来訪してきた秋元 梢さんもキャッチ。『パリ・ファッション・ウィーク』の後にベルリンを訪れたようだが、『ベルリン・ファッション・ウィーク』に日本のセレブリティーが来てくれるのは非常に喜ばしい。
ベルリンに限ったことではないが、ショーに起用するモデルたちの多様性を重視している昨今。人種、年齢、性別、体型など一貫性を持たず、自由自在だ。ゲストたちも同様に多種多様な人種が目立ち、特にアジア人が多く見られたことは個人的にも嬉しい。VOGUEなど、アメリカからもファッション界の重鎮たちを招いた今シーズンだが、国際的な評価は得られたのだろうか?
新しいPRが取り仕切るショーやオンラインによるゲスト管理など、新たな試みを導入したが、その一方で機能していなかったり、会場が遠過ぎてショー開始時刻が大幅に遅れ、関係者からクレームが入るなど、波乱の展開もあった。まだまだ改善点が必要な『ベルリン・ファッション・ウィーク』だが、ベルリン独自のカルチャーが世界の目に触れることにより、ファッションシーンも世界基準へと発展していくことを期待する。