『鉄コン筋クリート』や『海獣の子供』など、クオリティの高いアニメーションを作り続けてきたSTUDIO 4℃。「世界に発信できる”まったく新しいオリジナルアニメーション作品”を作りたい」という思いから2018年にプロジェクトがスタートし、今回ついに完成したのが映画『ChaO』だ。
アンデルセンの『人魚姫』を下敷きに、総作画数10万枚以上という緻密なアニメーションでパワフルなキャラクターと、雑多で生活感に満ちた世界観が描き出される本作。突然人魚のお姫さまに求婚され、戸惑ったまま騒動の渦中に引っ張り出されるサラリーマンの主人公・ステファンを鈴鹿央士が演じ、猪突猛進でステファンへの愛を伝える人魚姫・チャオは山田杏奈が演じる。
キャラクターと共鳴し合ったという2人は、この作品を通して、どうやって社会と対峙し、地に足をつけて生きているのか。スラップスティックなラブコメから垣間見える、パーソナルな部分にも踏み込んでじっくり語ってもらった。
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鈴鹿央士と山田杏奈、お互いの演技から受けた影響
ー脚本をご覧になって、自分が演じるキャラクターにどういった印象を持ちましたか?
鈴鹿:ステファンは最初のシーンから目覚まし時計と戦って負けたり、抜けてるところがあるんです。でも、船のエンジンを開発することにかける気持ちや家族への思いとか、真っ直ぐなところもあって、そこが魅力的だなと。
ーご自身の性格と重なる部分もありますか?
鈴鹿:僕自身は飽き性というか、多趣味なんです。だから、これだけ真っ直ぐでいられるところは見習うべきなのかなと。お芝居は好きだし楽しいし、ずっと続けたいと思っているのですが、続けるのって何よりも難しいじゃないですか。そういう意味で、ステファンは「こうでありたいな」と思えるキャラクターでした。

2000年1月11日生まれ、岡山県出身。高校2年生の2016年に、エキストラとして参加していた映画の現場でスカウトされたことをきっかけに、2018年にはファッション誌『MEN’S NON-NO』のオーディションでグランプリを獲得し、専属モデルに抜擢。2019年に映画『蜜蜂と遠雷』でスクリーンデビューを飾ると、その後もドラマ『ドラゴン桜』(TBS/21年)や『silent』(CX/22年)など映画 / ドラマ問わず話題作に多数出演を果たす。
ーチャオはステファンに輪をかけて真っ直ぐです。
山田:そうですね。とにかく可愛らしいキャラクターだなというのが第一印象で。本当にステファンが大好きで、いつもステファンのことを考えて、人間の生活に馴染もうと努力している姿が真っ直ぐだなと思いました。チャオがあそこまで真っ直ぐだからこそステファンも蔑ろにできないんでしょうし、2人の関係性の原動力になっていますよね。
ー実際に声を収録した現場ではどういったやり取りがありましたか?
山田:実は、現場は一度も一緒になっていないんです。取材がはじまってやっと会えたといいうか。
鈴鹿:うんうん、「久しぶり」という感じで(笑)。
山田:何日かに分けて収録したんですけど、ガイドで入っていたステファンのセリフが、だんだん央士くんの声に変わっていく感じで進みました。

2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年に『ちゃおガール2011★』オーディションでグランプリを受賞し、芸能界入り。その後は女優としてのキャリアもスタートさせ、2018年には映画『ミスミソウ』で初主演に抜擢。以降も映画『ひらいて』(2021年)、『山女』(2023年)やドラマに多数出演。『山女』では第15回TAMA 映画賞最優秀新進女優賞を受賞し、多彩な演技力が一躍注目を集める。映画『ゴールデンカムイ』(2024年)や『正体』(2024年)での好演により、日刊スポーツ映画大賞 / 助演女優賞、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また、『正体』では日本アカデミー賞優秀助演女優賞も受賞している。10月24日W主演映画『恋に至る病』、2026 年 主演映画『NEW GROUP』の公開が控えている。10月6日(月)夜11時6分放送スタートのドラマ『シナントロープ』への出演も決まっている。
鈴鹿:山田さんの声が入ることで、チャオの可愛らしさが一層増しました。ステファンが「魚とは一緒に暮らせない」とチャオを拒否するシーンもあるのですが、山田さんの声がのったチャオの真っ直ぐさを受け止めると100%の拒否にはならなくて。いろいろな感情が混じったものになるんです。山田さんのおかげですね。ありがとうございます。
山田:こちらこそありがとうございます(笑)。私も本当に助けてもらいました。ステファンは不器用なりに状況をうまく受け止めようとしていて、仕事でも成果を出したいし、でもうまく立ち回れない……みたいな葛藤が、央士くんの声によってすごくよく表現されているんですよね。
チャオは何があろうとステファンを嫌いになることはないんですけど、それは恋愛感情を超えて、母性みたいなものだと思いました。それも央士くんの声を聞いて思ったことです。
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相容れない他者が一緒に暮らす難しさ。チャオから学ぶ「歩み寄り」の方法
ーチャオはパワフルな反面、ステファンのために料理を勉強したり、人間社会のしきたりを覚えようと努力します。ある意味で、今時珍しいくらい古風な「尽くすタイプのヒロイン」ですよね。
山田:確かに。おそらく、ステファンを喜ばせるためというか、「人間界でいい妻とされるのはこういう人だろう、自分もそうならなきゃ!」という気持ちからだと思うんです。私はここまですべてを人に捧げることができるかはわからないですけど、それぐらい愛情を持てる相手がいるということは尊敬できますよね。

―鈴鹿さんは、チャオのようなタイプはどう思いますか?
鈴鹿:現実では、僕はチャオの勢いでいきなり好意を伝えられたら警戒するかもしれない(笑)。でもチャオみたいに、お互いの生活の重なる部分を少しずつ増やしていくように行動してくれるなら、自分勝手じゃないと思えるのかなと。
たとえば食事って、生活の中でも大事なものじゃないですか。チャオは電気ウナギをそのまま食べるのが好きですが、人間は無理なので、ステファンは食べられない。そこでチャオが歩み寄る。あまりに相手に合わせて自己犠牲になっちゃうのも良くないですが、譲歩するのは「この人と生きたい」というメッセージでもあるし、素敵だなと思います。

ーこの作品には、「人間と人魚」という相容れない他者がどうやって一緒に生きていくのか、というテーマが通底していると思います。先ほど鈴鹿さんがおっしゃった「お互いの生活の重なる部分を増やしていく」というのは、一つの答えになっている気がします。
鈴鹿:同じ人間でも、生まれた場所が違ったら文化や考え方も違うだろうし、重なる部分が多いわけではないと思うんです。お互いを理解するには、同一になるよりも、平等でいることが大切なんじゃないかなと。違いを理解し合うことがこれから大事になると思います。
ー異なる部分があるからこそ認め合うというか。
鈴鹿:そうですね。お互い譲れないこともあるでしょうし。
山田:相手を知ろうとしたり、自分のことを話したりして歩み寄ろうとする努力がないと、何もはじまらないと思いますね。ステファンもチャオを最初から拒絶してたら、何もはじまらなかったと思う。同じ環境で同じものを食べて育ったとしても違う人間になるので、他人を自分と同じ考えにはできないということを大前提にしないといけないなと思います。難しいですけどね。
鈴鹿:そういう意味で、この映画はいいお手本になりますね。「他者を理解する、人を見つめるってどういうことなんだろう」というテーマが含まれていると思います。

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よく生きるには、周囲の評価より自分の選択
ーステファンが「やっぱり人魚とは一緒に暮らせないなあ」とこぼすシーンがありますが、あれは同僚の「魚を女房にするなんて普通じゃない」という言葉を聞いてしまったからでもあります。周囲からの噂や評価に影響されてしまうことも多いと思うんですが、お2人はどうやって折り合いをつけていますか?
鈴鹿:買い物するにしても音楽を聴くにしても、自分で選んでいるようで選ばされているような気がするときもありました。最近は、それでもいいかと思うようになりました。「選びやすかったし、まあいいか」って(笑)。
でも、やっぱり能動的に動きたくなることもあって、それが旅だったりして。何も決めずに旅先でぶらぶらして、たまたま見つけたお店に入ったり。別に誰かに影響されたわけではなく、自分で決めたことだけできるから、一人旅が好きなんですよね。人から言われたことって、意識してなくても頭のどこかにあったりするので、それから離れたいときには旅してます。
ー最近行ってよかったのはどこですか?
鈴鹿:去年、1人でイタリアを回ったんです。フィレンツェを歩いていたときにフラッとレコード屋さんに入ったら、マイルス・デイヴィスが流れてて、そのレコードを買いました。でも、これは店員さんのおすすめを買ったから、能動的じゃないかも(笑)。
ー程よく人から影響されるのも大事ですよね(笑)。
鈴鹿:そうですよね。そうしないと世界が広がらないので。

山田:私はわりと忘れっぽいので、SNSで嫌なものを見てもすぐ忘れるんです。央士くんみたいにちゃんと考えてないかも(笑)。自分で選ぶのは難しいけど、最終的に決めるのは自分だから、そこには責任を持ちたいとは思ってます。その時のベストな選択をしてるはずだから、後悔したとしても「あの時の自分はあの選択しかなかったんだからしょうがない」と思うようにしてるかもしれないです。

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鈴鹿(25歳)、山田(24歳)。2000年代生まれの俳優が思う、これから挑戦したいこと
ーお2人とも俳優としてのキャリアが評価されている中での、今回声優としての抜擢となりました。活動の幅を広げられているかと思いますが、今後挑戦していきたいことはありますか?
鈴鹿:海外作品に参加したいです。
ー本作もフランスの『アヌシー国際アニメーション映画祭2025』で準グランプリ相当の長編コンペティション部門 審査員賞を受賞したり、カナダで行われる「ファンタジア国際映画祭」のコンペティション部門にもノミネートされたり海外でも評価が高いですよね。
鈴鹿:そうなんです。もちろん日本の作品で海外に行くこともすごく重要なのですが、やっぱり海外の現場でやってみたい。今の時代だから、間口は広がっているはずなので。
山田:私は役者以外の動きにも興味があります。今、監督もやったりプロデュースもしたり、色々新しいものを作ろうとしている役者さんが増えてるなと思うんです。他の役者さんが何を考えてるのか興味があるし、自分もそういう動きの中に加わっていきたいなと思います。

映画『ChaO』

公開日:2025年8月15日(金)Roadshow
声の出演:鈴鹿央士 山田杏奈
シシド・カフカ 梅原裕一郎 / 三宅健太 / 太田駿静 土屋アンナ
くっきー! 山里亮太
監督:青木康浩
キャラクターデザイン・総作画監督:小島大和
美術監督:滝口比呂志
音楽:村松崇継
アニメーション制作:STUDIO4°C
配給:東映 ©2025「ChaO」製作委員会