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音楽が寄り添い、映画が寄り添う

そして、本作を語る上で忘れてはならないのが音楽の存在である。主題歌と映画のタイトルにもなっているハンバート ハンバートの“ぼくのお日さま”はもちろんのこと、劇中で印象的に流れるドビュッシー“月の光”、凍った湖の上で練習するタクヤとさくらとそれを見ている荒川の3人が次第におどけ、ふざけ合い、踊り遊ぶ時、車中で流れているThe Zombiesの“Going Out Of My Head”、さらにハンバート ハンバートの佐藤良成が手掛ける劇伴のすべてが、登場人物たちに優しく寄り添っている。
例えば、タクヤとさくらと荒川の3人が休憩中、カップラーメンを食べながら、劇中で流れている音楽に合わせるようにステップを踏む時。例えば、タクヤが初めてスピンを成功させた日、製氷車に乗る荒川を追いかけるように自在に滑走するタクヤの姿がまるで喜びのダンスを踊っているかのように見える時。彼を包み込むハミング混じりの音楽の柔らかさ。凍った湖の上ではしゃぐ彼ら彼女らを躍らせる“Going Out of My Head”は、移動の際に荒川の車中で流れていた曲で、その音楽が外まで鳴り響いて、彼らがいる場所まで届いているかというとそんなことはない。それは「映画だから」に他ならない。まるでミュージカルのように、本来は物語の外側で鳴っているはずの音楽が、物語の内側にいる彼ら彼女らを躍らせる。

『ぼくのお日さま』は、思っていることを言葉にするのが苦手な1人の少年の歩幅に沿って、どこまでも、どこまでも、ゆっくりと歩いていく。一緒に鼻歌を歌い、一緒に躍る。そんな、映画だ。
映画『ぼくのお日さま』

9/6(金)~9/8(日)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定先行公開
9/13(金)より全国公開
公式サイト: https://bokunoohisama.com/