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彼らが吐く息の、その先

本作の素晴らしさは、登場人物たちの声にならない言葉に寄り添っていることにある。例えば、滑らかに回転するさくらの足の軌跡と対比的に示される、彼女に見とれるあまり、その場に留まろうとするタクヤの足が作ったのであろう氷の山。例えば、タクヤが吐く息。
吐く息1つに、登場人物たちは様々な思いを込める。ある日、理科の実験中、タクヤはアルコールランプに熱されて、温度が上昇し、表面がうっすら白くなっている丸底フラスコをじっと見つめている。理科の先生からの「冬になると、どうして息が白くなるの?」という質問を聞きながら。
その光景一つで、雪の降る街の寒い教室の中で灯る小さな火の暖かさを、観客は想像したりもする。その少し後の違う場面では、五十嵐が、ベランダで煙草を吸っている荒川にひっつきながら、大仰に息を吐いて、吸いかけの煙草の共有をねだる。また違う場面では、スケート会場で1人佇むタクヤが、水玉模様がいくつか入った透明の壁に向かって、そっと息を吹きかける。初雪から始まり、雪解けに終わる、その決して長くない時間でのいくつかの恋の物語を描いた本作。誰かを思って吐く息が白く染まる季節の、2人でいる幸せと、1人で誰かを思う切なさが凝縮された場面たちだった。