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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

「音楽都市・福岡」の可能性。アジアの玄関口からコライトで繋がる音楽と人

2025.2.28

福岡音楽都市協議会

#PR #MUSIC

福岡で活動するミュージシャンのアジアへの進出を支援し、楽曲制作拠点としての福岡の存在価値を高めようと企画されたコライトプロジェクト「BEYONDERS」。2023年のスタートから第3回を迎えた今回は、韓国のシンガーソングライターSummer Soulと、新進気鋭のトラックメイカーHahm。そして地元福岡から、近年、中国や韓国での活動も目覚ましい3ピースバンドYOHLUが参加した。

20代〜30代のアーティスト5人が、楽曲制作のイメージを共有するために引用したのは、日本の1990年代の音楽。SNSを通じて事前にやりとりしていたデモを元に、即興でアイデアを出し合い、リアルタイムにトライ&エラーを繰り返す。言葉の壁を超えてひとつの楽曲を生み出すその様子は「音楽に国境はない」というその言葉を体現するようだった。

この記事では、3日間にわたるコライトセッションの1日目を終えたSummer SoulとHahm、YOHLUそれぞれのインタビューと、「BEYONDERS」の仕掛け人である福岡音楽都市協議会の野村祥悟、当協議会の事務局を務める冨田息吹、株式会社エストゥエス(Dontaku Records)の内田正洋、3人の座談会の様子をお届けする。

Summer Soul、Hahmインタビュー。イメージしたのは、日本の1990年代の音楽

1日目のセッションを終えた感想を聞かせてください。

Summer Soul:日本人のアーティストとコラボレーションするのは今回が初めてで、とてもエキサイティングでした。YOHLUのメンバーは、すごくフレンドリーで、仕事の進め方もスピーディ。提案してくれた歌詞もとてもエモーショナルでした。とにかくアイデアが豊富で、とても驚きましたね。

Summer Soul(サマー ソウル)
韓国生まれマレーシア育ちのシンガーソングライター。神秘的で爽やかなボーカルで人気を博し、韓国内のTikTokバイラルチャートでも上位を獲得するZ世代のカリスマアイコン。プロデュースと歌の両方で、ジャンルや国境を越え活躍し、国内外のさまざまなアーティストやプロデューサーと活発にコラボレーションを行う。2024年9月20日にDontaku Recordsより、客演にslchldを、プロデュースにオランダのNoflikとShowyouを迎えた新曲“2 Lovers”リリース。日本のアーティストとのコラボレーションは、YOHLUとのコライトが初となる。

作業中に日本人のアーティストや楽曲名が飛び交っていたのが印象的でした。

Hahm:YOHLUのメンバーとイメージを擦り合わせるため例に出したのは、ピチカート・ファイブの“東京は夜の七時”です。1990年代の渋谷系のような、都会的でトレンディな楽曲やビジュアルをイメージしてトラックをつくりました。僕自身、1990年代から2000年代の日本のシティポップやポップスが好きで、ピチカート・ファイブやFreeTEMPO、m-floやDAISHI DANCEなどを普段からよく聴いています。

Summer Soul:私も日本のポップスの黄金期とも言える1970年代の音楽が好きですね。特に大貫妙子がフェイバリットです。

Hahm(ハーム)
韓国出身のコンポーザー・プロデューサー。Summer Soulとは共通の知人を介して知り合い、互いのスタイルに共感して意気投合。2024年8月に韓国のインディー・レーベルPOCLANOSからリリースした“Baby Cat Feat. Qim Isle”で初コラボレーション。その他にも、韓国の8人組ボーイズグループ8TURNのデジタル・シングル”Like a Friend”やソンジン(day6)の1stフルアルバム「30」、B.A.P出身の4人組アイドルグループパン&ジョン&ユ&ムンのEPアルバム「CURTAIN CALL」などへ楽曲提供を行うなど、多数のプロジェクトに参加。国内外で注目を集めている。
新進気鋭のプロデューサー・Hahm(写真左)の参加はSummer Soul(写真右)の推薦で実現。

オフラインで対面してコライトセッションを行う魅力とは?

Summer Soul:これまでヨーロッパやアメリカなど海外のアーティストとのコライトは、すべてオンラインで行ってきました。インターナショナルなコライトを対面で行うのは今回が初めてです。実際に会って曲作りをして感じたのは、そこで生まれる会話や出来事がオンラインの時と全く違うということです。

Hahm:一番大きな違いは、現場で出たアイデアがすぐに形になるスピード感。僕がランダムに出したアイデアを誰かがキャッチアップしてすぐに試すことができる。そういった同時性や即効性が一番の違いじゃないでしょうか。

アレンジから歌詞に至るまでその場でのアイデアが即座に採用された。

国境を超えたこういったプロジェクトを行うことについてどう思われますか?

Hahm:離れた国同士のコミュニティは、さまざまなギャップや、交わりづらい部分があると思います。それをこうやってパブリックな機関が繋いでくれるのは、すごく意味のあることだなと思います。

Summer Soul:実際にこうやって韓国と日本のアーティストが繋がって、お互いのファンにそれぞれの魅力を知ってもらえるのはすごく嬉しいことですよね。

Hahm:曲が完成したらたくさんの人に聴いてもらいたいし、バイラルするのを期待しています。この企画が、日本でパフォーマンスする機会や、今後のさまざまな活動に繋がっていったら嬉しいですね。

Summer Soulは初来福、Hahmは初来日だった。

YOHLUインタビュー。東京の友達とバンドを組むくらいの感覚で

今日1日セッションしてみていかがでしたか? 韓国の2人の印象などお聞きできれば。

BOKEH(Trackmaker):Summer Soul(以下、Summer)の第一印象はギャル!(笑)歌っているところはまだ生で聴けてないけど、いいヤツです。2人とも日本の音楽に詳しくてびっくりしました。

KENTO(Vo):Summerも言っていたけど、Hahmはアイデアマシーン。きっと天才肌なんだと思います。

ZMI(Gt):1週間くらい前にHahmから最初のデモが送られてきて、これまでのSummerのイメージとは違う意外な楽曲に驚いたんです。それで話を聞いてみると、2人のイメージする渋谷系の音楽と、僕らの通ってきた渋谷系の認識にずれがあって。それが新鮮でもあったけど、イメージを擦り合わせるのが最初は大変でしたね。

作詞から作曲までを主導したZMI

BOKEH:お互いに聴いてる音楽は一緒のはずなのに、その国のフィルターを通すと捉え方が変わるのが面白いですよね。そのずれを合わせたり楽しんだりするのが今回のコライトのポイントかもしれません。

KENTO:YOHLUはこれまで、女性ボーカルはもちろん、他のボーカリストとも一緒にやったことがなくて、本格的なコライト自体、初めての経験なので、そういった意味でも俺らだけじゃ作れない1曲になると思います。

YOHLU(ヨール)
KENTO、ZMI、BOKEHにて福岡で結成。楽曲制作からアートワークや映像作品まで自身で手掛ける。2020年1st EP 『YET YONDER YEARNING』をリリース。同年、韓国にて初めてのライブを行う。2023年 2nd EP 『DEAD AND BREAKFAST』をリリース。同年、中国、韓国を廻るアジアツアーを敢行。初の東京単独公演も開催する。浮遊感のある音像にスウィートなヴォーカルが乗る独自のサウンドは、日本のみならず台湾、タイ、韓国、インドネシアなどで幅広く評価を獲得。

―作業中、英語でコミュニケーションしていたのに驚きました!

BOKEH:僕の場合はほぼノリですけどね。なにしろ英検5級ですから(笑)。

KENTO:それでも会話できるのがすごいよ! コミュニケーションおばけのBOKEHさんのおかげで、今回めちゃくちゃ助かってます。

ZMI:韓国でも2回ライブしてるし、こういう機会に慣れたのもあるかも。

BOKEH:今年はタイのバンコクでもライブをしたし、向こうも英語が喋れて当たり前なので、それもあってノリで喋るのは大事だなと。

ZMI:喋れなくても音で確かめ合うことはできるしね。

スタジオワーク中のコミニケーションを引っ張ったBOKEH(写真中央)

曲の最後の日本語の歌詞がとても印象的でしたが、どういった発想であの言葉に?

ZMI:Hahmが作ってきたデモに、AIに歌わせた仮歌がのっていたんです。それが空耳的な感じで日本語に聞こえて。ちょっとダサいかなと思いつつ、海外の人が歌うと僕らには出せない新鮮な聞こえ方になって面白かもしれないと思って、採用することにしました。

BOKEH:最近だと千葉雄喜の“チーム友達”とか、Megan Thee Stallionとやった<お金稼ぐ私はスター>みたいな。日本語を知らなくても響きが面白くてキャッチーな曲みたいに、シュールな感じを楽しんでくれれば嬉しいですね。

KENTO:僕らが最初にテーマとして掲げた「異文化交流で仲良くしようぜ!」みたいなテンションが、歌詞で表現できたんじゃないかな。Summerが日本語の歌詞を歌って、僕が韓国語を歌うみたいな、掛け合いもやってみたいです。

3日目に歌詞を完成させ、満を辞してボーカルブースに入ったKENTO(YOHLU)

「BEYONDERS」に参加したことで、どういった反応を期待しますか?

KENTO:もともとSummerの音楽と僕らの音楽は近しいところがあると思っていたので、今回のコライトを機に、お互いのリスナーに、それぞれの音楽を知ってもらえるのは、すごくプラスになると感じています。

ZMI:例えばMVをつくるなら、福岡の屋台でSummerが歌うのも面白いと思っていて、この楽曲が福岡のPRになれば嬉しいですね。

BOKEH:韓国に行ってみて思ったのは、日本と景色も似ているし、いい意味で外国っぽくないなってこと。距離的にも福岡から東京に行くのと変わらないし、変に意識せずに東京の友達とバンドを組むぐらいの感覚で、これからもフラットに交流していきたいです。それがスタンダードになればいいなと思うので、こういう機会をもっと増やしたいですね。

スタジオワーク後には福岡の夜を満喫。

WHAT’s BEYONDERS? BEYONDERS仕掛け人座談会。コライトセッションを福岡ではじめたワケ

野村:福岡で活動しているミュージシャンって、東京やニューヨークなどに比べて、プロのエンジニアや海外のアーティストと一緒に音楽をつくる機会が圧倒的に少ないんですよ。そこで、福岡のミュージシャンにもっと多様な機会を与えようとスタートしたのが「BEYONDERS」です。福岡は、アジアの玄関口としてアジアとの交流を活発に行ってきた都市で、これまでもキャナルシティ福岡で行われていた『FUKUOKA ASIAN PICKS』という音楽カルチャーイベントを通じて、アジアの音楽関係者と繋がりを持ってきました。折角なら「BEYONDERS」も福岡ならではの企画にしようと、初年度は、タイの人気バンドFaustusで活動する日本人ドラマーで、日本とタイの交流に力を注いでいるGinnさんという方にコーディネートをお願いして、バンコク発のインディーバンドKIKIと、福岡出身のDeep Sea Diving Clubによるコライトセッションを行いました。

2023年3月に開催された「BEYONDERS」のフライヤー。Deep Sea Diving ClubとKIKIの公開コライトに加えてウェルカムパーティーも開催された。

冨田:その流れで2年目も、東京と台北でライブハウスを運営している寺尾ブッダさんのコーディネートで、DJやシンガーとして活躍しているYonYonにプロデュースしてもらい、台北のレゲエバンド蓬莱仙山(PonLai Mt.)と福岡のラッパーPEAVISのコライトセッションを行ったんです。

2024年2月に開催された「BEYONDERS」のフライヤー。
野村祥悟(のむら しょうご)
福岡の港湾地区・那津にスタジオを構え、楽曲からデザイン、ミュージックビデオまでを一括で制作する福岡のコレクティブ「BOAT」のメンバーで、コレクティブの中核を担うバンドMADE IN HEPBURNの雑務担当。大学卒業後に福岡の「LOVE FM」でアルバイトを始め、ラジオ番組の制作に携わるようになる。BOATでの活動をきっかけに、ミュージックビデオやSpace Shower TVのドキュメンタリー「FUKUOKA COLLECTIVE」を制作。2022年からはSpotifyのオフィシャルポッドキャスト番組をはじめ、さまざまな音声コンテンツをディレクションするほか、福岡音楽都市協議会のメンバーとして、イベントディレクションを担当。コライト企画「BEYONDERS」を開催する。
https://www.instagram.com/yaungtao

野村:福岡では「BEYONDERS」に続いてクリエイティブ・ラボ・フクオカが主催する『THE CREATORS』と言うイベントでもコライトが行われていて、海外でも注目されている日本人の覆面ユニットAmPmのプロデューサー・NAMYさんによる企画がシリーズ化しています。そういった取り組みを通じて、福岡=コライトを発信している街というのが、少しずつ浸透しているのかもしれません。

https://youtu.be/9EMS3AnAiEw?si=ZNEUUsIDjI483vrc

オランダ語で日曜日を意味するDontakuが繋いだ縁

野村:今回のコライトでは、韓国側のキャスティングもDontaku Recordsの内田さんに担当してもらいました。内田さんの眼に「BEYONDERS」の企画は、どう映りましたか?

内田正洋(うちだ まさひろ)
2006年株式会社エストゥエス入社。アムステルダムと東京を拠点に大陸を繋ぎ、日本や韓国などの音楽マーケットに参入したいアーティストやレーベルの入り口としての役割をコンセプトに約2年前に立ち上がった『Dontaku Records』プロジェクト。日本独自のローカライズされたマーケットに適したレーベルサービスを提供することで、海外のインディーズアーティストの音楽を適切な視聴者に届けることをミッションとしている。Summer Soulとは『2 Lovers』で初のコラボレーション。彼女が日本のヒット曲をカバーするプロジェクトのリリースも控えている。レーベルからの最新リリースは、日本のシティポップスタイルに傾倒するオランダのプロデューサーデュオ Kagamiが日本のシンガーひかりをフィーチャーしたシングル『Endless Midnight』。
https://www.dontakurecords.com 
https://www.instagram.com/dontakurecords

内田:韓国で現地のアーティストと話をしてみると、お国柄もあるのか、日本人よりも海外進出に意欲的なんです。日本のマーケットにも興味を持っていますが、特殊な国だと思われていて、アプローチの仕方がわからないと言います。そこで例えば、K-POPのアーティストが海外進出をする際に、現地のアーティストにリミックスをしてもらって、その国のフィルターを通してリリースする事例は多く見られます。現地のアーティストとのコラボレーションは1つ面白い取り組みだと感じていて、今回の福岡でのコライトも、日本と韓国の異文化交流という意味ですごく面白いと感じました。

左から野村祥悟、冨田息吹、内田正洋

行政と民間の距離が近いコンパクトシティ福岡だからできること

内田:オランダにはDutch Music Exportという国などが出資している機関が、オランダのインディー音楽の国際的地位の強化を目的として、アーティストの活動をサポートしています。韓国でも同様にコンテンツ振興院という機関があり、アーティストにも広く周知され、実際に使っているという話もよく聞きます。私たちレーベルとしても、そういった機関とアーティストの両者と話をしながら、ライブやショーケースのサポートができたらいいなと考えているところです。

野村:韓国やオランダでの公的な取り組みについて、冨田さんはどう思いますか?

冨田:そうですね。現在、日本の行政が行っている音楽支援は、どちらかというとクラシックや伝統芸能に偏っていると感じていて、ポップスやダンスミュージックなどカジュアルな音楽になると、アーティストマターもしくはレーベルマターという印象が強いのかなと思います。そういったなかでも福岡は、コロナ禍にいち早くライブハウスの支援を行うなど、全国的に注目された事例がある方です(※)。もちろんオランダや韓国のように、アーティストの旅費や、直接的な身入りになるような支援はできていないのが現状ですが。

※編注:福岡市は2020年5月から、市内のライブハウスや劇場などに対し、「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた文化・エンターテインメント事業者への支援」として無観客での映像配信設備等にかかる経費の支援を行った。

冨田息吹(とみた いぶき)
2000年福岡県生まれ。福岡大学人文学部歴史学科卒業。高校時代から収集するレコードを使った選曲活動を始め、並行して戦後福岡音楽史の研究に熱を入れる。大学在学中にDJとみじい(Tommy-G)として、福岡市を中心に、DJ や歌、執筆、ラジオ出演などの活動を始める。ナイトクラブ、キャバレーの箱バンをキーワードに、古今東西洋楽邦楽を再構築し、ネオ昭和的ワールドラウンジミュージックを奏でる「メル冨田とニュー大名クォーターズ」のボーカルを担当。福岡音楽都市協議会ではコーディネーター兼事務局員を務める。コライト企画「BEYONDERS」の2回目を担当。
https://mccf.jp

内田:オランダや韓国で支援を受ける際も、ローカルにどういったパートナーがいて、どのくらいのキャパシティでライブを行うのか、そういった情報は申請に必要ですし、そのお膳立てを行政がやってくれるわけではありません。そこを我々のような人間が橋渡しできればいいなと思うし、福岡音楽都市協議会のようなパブリックな組織が橋渡しをしている福岡はすごく面白いと思います。街がコンパクトで、行政と民間の距離が近いからこそできることかもしれません。

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