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洋画の危機的状況を象徴する『陪審員2番』
―2024年12月20日にクリント・イーストウッドの引退作と言われている『陪審員2番』がU-NEXTで配信され、2024年下半期のラストに大きな話題となりました。
木津:あまりによくできていて、僕は「アメリカ映画」を作ってイーストウッドは去っていくんだなと感じました。僕が考える「アメリカ映画」とは、アメリカに対する問いなんです。それを高次元にやっているんだけど、押し付けがましくなく、さらりと見せてしまう。あまりにも映画としてかっこいいので、今年はこれで終わったなと感じました。
長内:正直、『クライ・マッチョ』(2021年)を観たときは歳を撮ったな、やっぱり90歳の映画だなと思ったんです。しかし今回は全く隙がない。イーストウッドは原作小説ありきの作品も多かったけど、これはイーストウッドと2人で書いたんじゃないかと思うくらい、あまりにイーストウッド的なテーマの作品でした。
イーストウッド作品の主人公は、いつも贖罪の気持ちを背負っていて、その罪に苛まれて善悪の彼岸を行ったり来たりして悩む。陪審員制度を扱って取り組む「人が人を裁けるのか」というテーマも、イーストウッドが繰り返してきたものです。それを描くにあたってさまざまなキャラクターが過不足なく描かれていて、結果的にアメリカに住む多様な人々の話になる。イーストウッドは正しく保守的な作家だと思うんです。
木津:イーストウッドは民主党的・リベラル的なハリウッドとは異なる立場から倫理の葛藤を描ける人なので、それを最後までやり通したなと感じました。分断している現状でアメリカを描こうとすると、どちらかの側しか描けない場合も多い。しかしイーストウッドは必ずしも保守側からの視点だけではなく、ちゃんとアメリカ全体を描くんですね。アメリカにおける魂でもある司法制度が危機に瀕しているさまを描いていて、現代の映画になっていました。
―本作は劇場公開されなかったことも大きな話題になりました。
木津:じつはかなり前から配信だけになるんじゃないかと懸念されていたんです。でもそれが一部にしか共有されず、配信直前のタイミングで問題視されました。実際に観て、これほど優れたアメリカ映画が話題にもならないのは、イーストウッドだけの話じゃなくて、今回、話をした今の映画業界が抱える他の問題にも繋がっていると感じました。僕は『陪審員2番』もですが、『ブリッツ ロンドン大空襲』(スティーブ・マックイーン監督 / Apple TV+配信のみ)が話題になっていないのも本当にマズいと思っています。
長内:2023年はAppleも『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(マーティン・スコセッシ監督)や『ナポレオン』(リドリー・スコット監督)を劇場公開したけど、数字を見てすぐに手の平を返してしまった。プラットフォーム側は映画を数あるコンテンツの1つ程度にしか捉えていないのかもしれません。そういう意味では、やはり数字ではなく、映画の中身を語っていくことがますます重要だと思います。僕は作品の大きさにあまり差をつけずに、作品の中身を語りたいですね。