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中小規模のアメリカ映画は、俳優たちの活躍に注目
―中小規模でも、お二人の挙げられた『喪う』『ヒットマン』『メイ・ディセンバー ゆれる真実』など、優れたアメリカ映画は生まれていましたね。
長内:『喪う』(アザゼル・ジェイコブス監督)は、伝統的なニューヨーク映画の系譜に連なる作品です。基本的に室内で物語が進むのですが、屋外のシーンでニューヨークの街並みがたびたび映ります。この街で生きてきた父親の心情は、『25時』(スパイク・リー監督 / 2004年)のブライアン・コックスのモノローグに通じる感動的なものでした。主演3人の役者による「芝居の映画」であるところも、僕の好きなアメリカ映画で素晴らしかった。
木津:『メイ・ディセンバー ゆれる真実』(トッド・ヘインズ監督)もまさに「芝居の映画」でしたが、この作品を観ても近年のゲイ監督のエッジーさに驚かされました。僕はゲイの監督に注目していますが、ただ肩入れしているだけではなく、トッド・ヘインズやルカ・グァダニーノ、ペドロ・アルモドバルなどの近作に勢いを感じるんです。
クィアネスが以前より理解されるようになり、のびのびと自分の表現ができるようになっているのかもしれません。『チャレンジャーズ』(ルカ・グァダニーノ監督)も以前ならもっとラディカルなものだったポリアモリー的な関係性をポジティブにあっけらかんと描いている。『メイ・ディセンバー』も、ジュリアン・ムーアとナタリー・ポートマンという2人の女優のメロドラマをゲイ監督がリミットなしに描ききっていました。

―俳優を描くという点では、『ヒットマン』(リチャード・リンクレイター監督)のグレン・パウエルも良かったですね。
長内:2024年、僕はグレン・パウエルを特に推していて、彼について記事まで書いたくらいです。『ヒットマン』は、彼が幅の広い役者であることが堪能できる優れた作品だと思いました。
木津:僕も『ヒットマン』はグレン・パウエル作品で一番好きです。彼は『恋するプリテンダー』(ウィル・グラック監督)のような「懐かしのハリウッド」をやれる俳優でもある一方で、『ヒットマン』では自分が脚本に入って、チャレンジングなことをのびのびやれていました。

長内:最近ハリウッドの俳優たちは自分の出演したい作品、作りたい映画に自ら積極的に関わっていますね。それはストリーミングという土壌があるからこそ、以前よりも俳優がスタッフ側にも進出しやすくなったと感じます。みんなフットワークが軽いし、良い時代です。
木津:『憐れみの3章』などヨルゴス・ランティモス作品のエマ・ストーンもそうですが、俳優が自らプロデュースに入っている作品というのは、作品選びの良い基準になるかもしれないですね。
長内:俳優が監督をする作品でも、デビュー作から優れたものを生み出す人が増えてきましたよね。アナ・ケンドリック監督・主演の『アイズ・オン・ユー』や、デブ・パテル監督・主演の『モンキーマン』を観ても、それを感じました。
木津:『アイズ・オン・ユー』は、真っ当にフェミニズムというテーマに取り組んだ作品でした。それを俳優出身の女性が初監督作品で取り組んだことに心強さを感じます。
最近、映画界でウォーキズムに対する批判、内省が増えています。さらにトランプが大統領に選ばれ、アイデンティティ・ポリティクスに対する反省も目立ってきていますが、2010年代のアイデンティティ・ポリティクスやMe too以降のフェミニズムの功績も当然あるので、否定しすぎず、より現在にアジャストしていく姿勢を映画に感じられるのはいいことだと思います。