メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

奥山由之の初監督『アット・ザ・ベンチ』解説 ジャームッシュやヴェンダースとの共通点

2024.11.20

#MOVIE

ジム・ジャームッシュ、ヴィム・ヴェンダースとの共通点

ベンチや、その周辺の風景、俳優たちしか画面に収めることができないという制約と、基本的に現実の時間と映画内の時間感覚が同じだという条件が共通している本作の趣向は、観客にむしろ豊かな印象を与えるかもしれない。それは展覧会で展示されるビデオインスタレーションのようでもあり、コントや小劇場の演劇のようでもある。

(左から)荒川良々、岡山天音、岸井ゆきの

その雰囲気に、アメリカで長年インディペンデント映画を取り続けてきた巨匠ジム・ジャームッシュの『パターソン』(2016年)や、同じくドイツの巨匠監督ヴィム・ヴェンダース監督が日本で撮った『PERFECT DAYS』(2023年)をなんとなく想起させられるというのは、作中でベンチが印象的なものとして使われていることだけではないだろう。

この2人の巨匠監督に共通しているのは、ショットの精緻さであり、アートフィルム特有のゆったりした時間感覚、そして、日本を代表する映画監督、小津安二郎への深いリスペクトがあるということだ。小津監督はカメラスタッフや美術スタッフの役割を奪ってしまうほど、数センチ、数ミリ単位で小道具の位置や、全体の画角にこだわり抜き、目の覚めるような洗練されたショットを生み出すことで知られている。そして、それが独特の「間」による時間感覚とともに並べられていくのである。

2人の人物と風景、そして互いが話し合う時間……。街が開発されることで変化していくように、人生においてもまた、新しい人との出会いや会話の機会がある。ありふれたものだとその時に思っていたとしても、後になって考えると、それがかけがえのないものになり得ることを、われわれは経験で知っている。だからこそ、その一見、平凡に見える特別な時間を切り取ろうとする映画監督に、一種の「願い」のような熱量が生まれるのではないか。そしてそれこそが、小津映画や、ヴェンダース、ジャームッシュ作品に荘厳ともいえる静謐さを与えていると思えるのである。

奥山由之監督が初めての劇場公開作である『アット・ザ・ベンチ』において、3人の巨匠監督と同等の力で、それが表現できているとまで主張するつもりはない。しかし本作の第5編において、広瀬すずの顔を逆光で後ろから捉える、写真家ならではといえる被写体への強いこだわりを感じるところや、監督自身が「これ以上に純粋な創作は、生涯の中で何度と出来ることか分かりません」と語っているように、多くの劇映画とは異なるアプローチによって撮られた本作が、ある種の「特権性」を持ったものになっているのは事実だ。

ベンチのある風景を映画として記録する……このような個人的な感情が優先される映画づくりが可能となる機会というのは、そうそうあるものではない。だが、そういったプリミティブな原動力を肯定することで、本作はジャームッシュ監督やヴェンダース監督に繋がるものを得ているように感じられる。それは、映画監督としての一つの理想的な映画とのかかわり方なのかもしれない。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS