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信じるかい?
何にでもなれるのさ
どこへでもいける
境界線に遊ぶ子どものように
美しく不敵に
get back
cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)収録“レテの子”より______________________
冥界を流れるレーテーの川。ギリシア神話によれば、その水を飲んだ者は前世の記憶、これまでの苦痛をすべて忘れるとされる。つまりそれは、「救い」としての忘却であり、新たな運命へと向かう「転生」のための準備である、と——。
幽体コミュニケーションズの2ndアルバム『忘 れて』の英題は、「Worth Lethe」。Letheは忘却の象徴であるレーテーの川、およびその川を司る女神の名前である。直訳すると「忘れる価値がある」といったところか。
そこには「人は忘れっぽい生きものだ」という開き直り、もしくは「どんなことも忘れたっていいよ」という自らへの許しや救済、むしろ忘れなければならないほどの痛みや記憶、感情への祈り、あるいは転生への願望を読み取ることもできるかもしれない。
人は眠りを通して、何度も夜を越えて朝を迎え、生と死の境界線を行き来しながら日々生まれ直しているのではないか……眠ること、起きること、そうした描写に耳を奪われる本作を前にそんなことを考えたのだが、しかし我々は取材ではそのことをあえて深くは聞かなかった。その点では少々不親切かもしれないが、幽体コミュニケーションズの歌詞や言葉の世界への解釈はあなたの感じたままにお任せしたい。
本稿は『忘 れて』のミックスを手がけ、“レーテー”と“Ghost diary”の2曲でベースを弾いたシンリズムと幽体コミュニケーションズの3人(ボーカルのいししは体調不良でリモート参加)の対談である。言葉や意味ではなく、蠱惑的な魅力を振りまく万華鏡のような歌とサウンドの秘密について、ビートメイカー / ライターの小鉄昇一郎と話を聞いた。
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2019年に京都で結成された3人組ユニット。大学内サークルのイベントをきっかけにpaya(Vo,Gt)、いしし(Vo)、吉居大輝(Gt)の3人により発足。2023年、3枚目の音源集『巡礼する季語』を発表し、『FUJI ROCK FESTIVAL’23』に出演。2025年、1stフルアルバム『文明の欠伸』をリリース。2026年、2ndアルバム『忘 れて』を発表。様々な音楽を圧縮コピーして混線させたチープで ストレンジなサウンドの上に男女混成によるあどけない歌声と四季に呼応する詩世界を同居させている。
幽体コミュニケーションズ『忘 れて』を聴く
幽体コミュニケーションズは『忘 れて』で、なぜ、何が、どう変わった?
─今回の新作で、シンリズムさんにミックスをお願いしようと思ったのはどういった理由からでしょうか?
paya:そもそも、『忘 れて』は、今までとはちょっと違うアルバムにしようと思って作られていまして。これまで幽体コミュニケーションズは「朝」や「夜」のイメージでアルバムを作っていたんですけど、今回は「昼」のアルバムにしようと思ったんです。
─ちなみに、それはどういった心境の変化でしょうか?
paya:これまでは、抽象的で内省的なものを追い求めていたんですね。それが前作『文明の欠伸』(2025年)を作るにあたって、そもそも「文明」というものを考えていくと、一人では「文明」は成し得ないので、他者が必要ですよね。その他者と出会うのは「昼」の時間帯だな、ってところから発展していった感じですね。
―バンドメンバーから見てpayaさんはどう見えるものですか?
吉居:(そういう話を聞くと)payaは何事も深くまで潜って考えるタイプの人だな、と思いますね。で、自分が納得する説明できる場所に絶対行きたくなる人だと思うんですよ。あ、違ってたらごめんね。
paya:ううん、全然。
吉居:それでポイントごとに区切っていって、「ここまでわかった」「ここもわかった」って感じで、「でも、ここから先はわかんない」みたいなところを明確に自覚して、自分に課題を課している人だと思ってて。今作での変化に関して言うと、朝と夜とか、朝と夜の境目とかかが、3人ともたぶん根本的に好きなんですよ。だから行ったことないところに行きたいってことで彼が「昼」のアルバムにしようと思ったのはすごく納得します。
いしし:payaさんと吉居さんとは大学のサークルの先輩・同期で、幽体コミュニケーションズを組んで7~8年になりますけど、未だにpayaさんのことはよくわからないです。でも、payaさんが次にどんな曲を作るのかが毎回楽しみで、たくさん考えている人だからこその音楽の芯を感じます。
吉居:僕ら2人としては常に、「彼がそうしたいって言うなら、やってみよう」って感じで。
いしし:そこには絶対的な信頼があるよね。
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なぜ、シンリズムや君島大空ら音楽家にミックスを依頼するのか
paya:新たな要素として、具体的には、ラテンミュージックのエッセンスを取り入れたりしたんですけど、ミックスに関しても、今までとは違うやり方にしようと思ったんです。
ミックス専門のエンジニアさんというより、ミュージシャンとしての側面もある人にミックスをお願いしたいな、と思いまして。その流れで、チームから、シンリズムさんの名前が挙がりました。シンリズムさんはミュージシャンであり、自分でミックスも手がけていらっしゃるので。
シンリズム:幽体コミュニケーションズのことは、名前は知っていたし、音源も少しは聴いていたんですよ。柏井日向さん(※)という、僕の知り合いのエンジニアで、幽体コミュニケーションズさんと近い界隈のアーティストとよく仕事している方もいますし。それで今回、改めてご挨拶いただいて。
※柏井日向:サウンドエンジニア、プロデューサーで株式会社Bigfish代表取締役社長、NiEW Inc.取締役。主な手がけたアーティストは、KIRINJI、the HIATUS、iri、SHISHAMO、Summer Eye、NOT WONKなど。

1997年7月17日、兵庫県神戸市出身。高校1年生時に作りためた楽曲をSoundCloudに公開するとネット上で話題を呼ぶ。2015年4月にアナログ7インチでリリースした『心理の森』が全国ラジオ33局でヘビーローテーションを獲得。これまでに3枚のアルバム(CD)と数枚のシングル(アナログ盤)をリリース。ソロ作品以外にもCMソングやラジオのジングル制作、また楽曲提供や管弦編曲もこなす。秦基博やKIRINJIなどライヴツアーでのギターやキーボードサポートと演奏面でも積極的に活動中。
シンリズム:2022年に僕が出したアルバム(『Música Popular Japonesa』)も、ブラジル音楽をテーマにした内容で、それも踏まえた上でのお話でした。幽体コミュニケーションズさんの音楽を活かしつつも「シンリズムさんとしてのカラーも、ミックスに反映してほしい」というオファーでしたね。
─知り合いの知り合いという距離感だったんですね。ミックスというと「裏方」なイメージですけど、ミックスという形での客演というか、コラボレーションみたいな感覚でしょうか。
paya:そうですね。そもそも以前、幽コミで君島大空さんと“hito”(2024年)という曲を作ったときも、君島さんにはアレンジとミックスを同時にお願いしたんですよ。結果、すごくしっくりくる曲になったし、アレンジとミックスを、線引きせず、横断するような考え方になっていったんです。
─以前は、専門家に任せるしかなかったミックスの領域も、DTMソフトやプラグインの発達によって、ミュージシャン自身も触ることができるようになった、という状況の変化はありますよね。シンリズムさんから見た幽コミの印象は、どうでしょうか?
シンリズム:まずメンバー編成が独特ですよね。ドラムレスでギター2人、男女ボーカルという。曲を聴くと、そのトリッキーな編成だからこそ生まれた楽曲だなと思いますね。歌や曲はフォーキーで爽やかな印象だけど、ドラムは打ち込みってバランス感は自分にとってすごく新鮮でした。
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ともに関西出身の2組。どこの街で始めるかは、音楽に影響はある?
─幽コミはもともと京都で結成されて、シンリズムさんは神戸出身ですよね。アルバムに参加しているNagakumoは大阪のバンドですが、みなさん「関西人っぽさ」みたいなのって、自分の中にあると思いますか?
吉居:僕はめっちゃありますね。2025年まで京都に住んでて、最近こっち(東京)に越してきたんですけど、やっぱり関西のほうがラフな距離感で、東京だと、仲良くしててもちょっと壁を感じるというか。
paya:うーん、僕は「関西っぽさ」みたいなのはあんまりわからなくて。まあ、喋り方のイントネーションとか、関西弁は抜けないけど、それ以外は……その人の性格とか考え方を決める変数って、生まれた土地以外にもいっぱいあるというか。そもそも、シンリズムさんが神戸出身、というのも、気づかなかったんで。関西弁も全然残ってないですし。
シンリズム:それはめっちゃ言われますね(笑)。普通に敬語で喋っていたら、まず気づかれないですね。同じ関西の人だと、喋ってたら「もしかして関西ですか?」と聞かれることも、たまにありますが。
いしし:私は香川県出身なんですけど、讃岐弁って「エセ関西弁」みたいな雰囲気があるんです。なので、大学で京都に出てきて生粋の関西人と仲良くなってからは関西人っぽさがみるみる育ちました(笑)。

─昔から、関西ではオルタナティブなものが生まれる気風がなんとなくあるように思うのですが。京都のロックだったり、難波ベアーズや関西ゼロ世代だったり。
paya:たしかに、どこの街で音楽をやり始めるかで、変わるものはあると思います。
─東京と違って「業界」がない、つまりマネタイズする機会がほとんどない故に、それならとにかく人と違うことをやって面白がろう、みたいな発想が、関西にはあるんじゃないかと。
paya:(地方だと)身の回りに文化的な資源みたいなものが少ないから、あるものでどうにかしよう、みたいな感覚があるんじゃないかなって気はしますね。とりあえず手に馴染んでるものを使ってやってみようというか。
僕はライブでもiPhoneを使ってますけど、それも身近にあったからで。それは人によってギターだったりシンセサイザーだったりするだろうけど、そういう「とりあえず持ってるものでやってみよう」みたいな感覚は、地方の人のほうがあるかもですね。

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「21世紀のこの時代に音楽を作っている、ということはよく考えています」(paya)
─『忘 れて』は先ほどもおっしゃられたように、ボサノバ、MPBなど、ラテン風のアレンジの楽曲が多いですよね。ラテンっぽい曲は、以前からやりたかったんでしょうか?
paya:はい、そうですね。『文明の欠伸』のときから、いろいろなワールドミュージックを参考にしてたんですけど、どうしてもラテンだけ入らなくて、やり残していたんです。今回はラテンのインプットを増やして、改めて臨みました。特にフラメンコはよく聴きましたね。
─現行のラテン系のアーティストも、いろいろいますよね。バッド・バニー、カトパコ(CA7RIEL & Paco Amoroso)、ロザリアとか。
paya:はい、特にロザリアのバンド時代(Kejaleo)の曲を人に教えてもらったんですけど、「現代のフラメンコってここまで来てるんやな」と衝撃を受けました。
─“メメント・メルト・サマセット”はロザリアの影響を感じますね。
paya:そうですね。先ほどおっしゃられたミュージシャンたちがまさにそうですが、ラテンミュージックは今、世界的にも新しい波が来ているんじゃないかと思います。あと、今回、ラテンを参照するにあたって、シエスタみたいな雰囲気を出したいなっていうのはずっと思ってましたね。
吉居:payaから教えてもらったアーティストだとaron!はよかったですね。『忘 れて』の制作でも影響を受けたし、今も聴いてます。
いしし:私はラテンミュージックを意識して聴いてきたことはないのですが、ラテンのノリはすごく好きです。
─ラテンブームみたいなのは、実際ありますよね。生まれた国や民族的なアイデンティティーを、音楽的に改めて問い直す機運が、ここ数年の社会的な背景も相まって、強まっているのかなとも思うのですが、どうでしょうか。
paya:幽コミに関してはアジア特有の文化とか、日本的なメロディーを使って……みたいな意識は、していないですね。ただ、21世紀のこの時代に音楽を作っている、ということはよく考えています。iPhoneを演奏に使うのもその表れで、今、この時代にあるものを音楽の中に取り入れたい気持ちは常にあります。
