人と人との距離が遠ざけられ、誰もが「1人」を経験することから始まった2020年代。その期間は結果としてマルチな領域で力を発揮する若きソロアーティストの活躍を準備することになったが、2020年代も半ばを迎えると、そんな個々の才能が再び繋がり始め、新たな価値観を創造している。梅井美咲と北村蕗の物語も、まさにそんな時代とともにあったと言えるだろう。
ともにジャズやクラシックを背景に持ちながら、活動当初の梅井はピアニスト、北村はシンガーソングライターの印象が強かった。
しかし、その後2人は打ち込みのトラックメイクも自ら手がけるようになり、表現領域を拡張。アンビエントからプログレまでを横断して、オートチューンを使って自らの歌唱も聴かせた梅井の『Asleep Above Creatures』(2025年)、ダンスミュージックを基調としながら、管弦のアレンジも施された北村の『Spira1oop』(2025年)という、それぞれのソロアルバムは、好奇心の赴くままにあらゆる音楽を楽しむ2人の趣向が強く反映されたものであった。
そんな2人がお互いの楽曲制作への参加から自然発生的に生まれたユニット=°pbdb(キューピーキューディー)として、新作EP『qpep°1』を発表。北村がラップ、梅井が歌唱をするヒップホップチューン“sparkling summer”から、梅井がギター、北村がフルートを演奏するMPB風の“aqua”、アップライトピアノの連弾による“uta”まで、実に多彩な5曲が収録されている。
ソロアーティスト同士のユニットだからこその自由度の高さを感じさせる°pbdbは、まさに2人にとっての「playground」であり、「lab」なのだ。梅井と北村にこれまでの歩みを語ってもらった。
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梅井美咲と北村蕗によるクリエイティブユニット。2023年からお互いの楽曲制作に参加し、共同制作を重ねる中で自然発生的に結成された。ジャンルを先に定めず、2人の音楽的背景や感覚を持ち寄りながら制作を進め、お互いのアイデアを受け取りながら、作曲、作詞、演奏、ボーカル、トラックメイクからミックスまでを手がけている。対称性や文字の形を取り入れたユニット名、作品タイトル、アートワークなど、音楽以外のビジュアルやコンセプトワークもセルフプロデュースで展開している。2024年12月にシングル『qpqd』をリリース、収録曲「qd」はAppleの広告クリエイティブに採用。では独自の作品を生み出してきた2人が、°pbdb では互いの作家性を持ち寄り、楽しく自由に音楽の形を探っている。2026年8月、1st EP『qpep°1』をリリース。
2人の若き鬼才はどのように出会い、惹かれ合ったか
ーまずは2人の出会いについて教えてください。
北村:私が山形にいたときに、SNSで梅井ちゃんのトリオでの演奏動画を見つけて、すごく素敵だなと思って。で、東京に行くタイミングがあったときに、下北沢のmusic bar rpmで梅井ちゃんと和久井沙良ちゃんとツインキーボードのセッションがあって(2021年8月)、DMしたらセッションの前に会ってくれたんです。
梅井:私のトリオのアルバムに入ってる曲をカバーしてくれて、その動画を見て、会いたいなと思って。
北村:でも私はまだ山形に住んでたし、そこから1年ぐらいは会えてなくて。

ーその後に距離が縮まったのは何がきっかけだったんですか?
北村:“amaranthus”のレコーディングで再会しました。私の山形でのライブにもレーベルの方が足を運んでくださって、そのときから「梅井ちゃん、めっちゃ好きで!」みたいな話をしてたから、それで繋いでくれたのかな。
梅井:そのレコーディングをして、3か月後くらいに東京のPORALISでライブをして、その後に山形でも一緒にライブをして、その辺からちょこちょこ会うようになって。で、蕗ちゃんが上京してきてからは定期的に交流がある状態ですね。
ー最初に2人でライブをしたときはどういう形式だったんですか?
梅井:交互にライブをしていくみたいな、リレー式でやった記憶があります。
北村:アップライトピアノ、エレピ、シンセとかを使って、あんまりMCも入れずに繋いでいった感じでした。お互いの曲をやりつつ、途中でリズムマシンを使ってセッションをしたりして、20分〜30分ぐらいずっと即興をしたり。
梅井:山形のRAF-RECでやったときは2時間半くらいやったね。
北村:その山形でのライブ前に、ご飯屋さんみたいなところで、私が「梅井ちゃんとユニットをやりたいんだよね」みたいなことを言ったんです。その後に上京して、お互いの家で制作をするようになって、その流れでユニットを組みました。
ー北村さんは以前から「ユニットをやりたい」と思ってたんですか?
北村:いや、もともとユニットを思い描いてたわけじゃなかったんですけど、梅井ちゃんが「ユニットとかやったりしないの?」みたいな感じで聞いてくれて、「ユニットをするなら梅井ちゃんとやりたい」って伝えたので、それが最初のきっかけでしたね。
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互いに多才だからこそ、大切なのは「自分ができる表現」に向き合うこと
ーお互いの音楽に対する印象を教えてください。
梅井:私は今みたいに蕗ちゃんがトラックメイクをする前、弾き語りに寄ってた時期に出会ったんですけど、純粋に彼女の歌が好きだなって思ったのが、興味を持つきっかけでした。
あとこの間、初めてワンマンを観に行ったんですよ。これは本人にも言ったんですけど、彼女の音楽自体に多幸感があるというか、それが何よりの魅力かなって思いますね。ただすごいとか、ただかっこいいじゃなくて、祝祭感があるのがすごく好きなところなんです。
北村:嬉しい(笑)。

2003年に山形県上山市出身。幼い頃からピアノや童謡を学び始め、その後『全国童謡歌唱コンクール』で東北代表として全国大会にも出場。中学生からギターを手に取り、弾き語りを中心にした音楽活動を開始。2023年3月に初の配信シングル“amaranthus feat. 梅井美咲”をリリースし、7月に『FUJI ROCK FES’ 23』の「ROOKIE A GO-GO」に出演。ダンスミュージック、ジャズ、フォーク、エレクトロニカなど、様々なジャンルを横断するサウンドで注目を集める。2024年7月には、2年連続となる『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演を果たす。2025年3月には『SXSW 2025』に出演。11月26日に1stアルバム『Spira1oop』をリリース。12月6日には代官山UNITにてワンマンライブ『vivid:Y』を開催。冨田ラボのメンバーとしての活動に加え、Tomgggとのコラボレーション、梅井美咲とのユニット「°pbdb」、kuyurimi名義でDJ活動するなど、多面的なプロジェクトを並行して展開している。
―逆に、北村さんから見た梅井さんの音楽に対する印象は?
北村:梅井ちゃんのことは本当にずっと尊敬していて。私にはないものを持っているなって本当に思うし、梅井ちゃんも多幸感とはまた別だけど、深く潜っていけるような、技術の外側に何かひとつ、内向的なものがあるなと思ってて。そこが私にはない感情だったりするし、私には表現できないものだなって思う。
内向的にも捉えられるけど、でもバキバキのセットもやったりするし、そのどちらも持っているのが本当にかっこいいし、憧れます。梅井ちゃんはピアニストとしてやってきた歴が長いと思うんだけど、音だけじゃなくて、感情とか思考とか、そういった部分でも音楽を聴いてることが伝わってくるので、本当にすごいなと思ってます。
梅井:ありがたい(笑)。

2002年兵庫県生まれ、東京音楽大学作曲科卒業。4歳よりピアノ、6歳よりエレクトーン、作曲を始める。2020年1月にbrilliant worksよりMisaki Umei Trio 1stアルバム『humoresque』をリリース。自身のトリオのコットンクラブ公演の成功や上原ひろみ、ケンドリック・スコット、林正樹、新垣隆、石橋英子、古川麦との共演、ゆっきゅん、吉澤嘉代子、塩塚モエカなどのアーティストのライブや収録にピアニスト / アレンジャーとして参加する等、活動は多岐に渡る。また、2023年2月よりソロプロジェクトを開始し、2025年7月に1stアルバム『Asleep Above Creatures』を発表、同年『FUJI ROCK FESTIVAL’25「ROOKIE A GO-GO」』に出演。2026年、『FUJI ROCK FESTIVAL’26』GYPSY AVALONへの出演も果たした。
ー最近は20代前半で楽器演奏もすればトラックメイクもするし歌も歌う、マルチな人がすごく増えた印象があるんですよね。
北村:確かに、増えてる感じはする。
梅井:そういう印象はあるし、何でもできる人に出会うと驚きもするけど、でも「そうだよな」みたいな気持ちになることが増えました。時代背景も関係して、技術的にも豊かな人がどんどん増えてると思うんですけど、だからこそ「自分ができる表現は何なのか?」みたいなことはすごく考えてる気がします。
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体験と時間を共有することで高まり合う、2つの才能
ーこういう話を2人ですることもありますか?
北村:こんなに真面目に話をすることはあんまりないかも(笑)。2人で制作するときは、DAWを交互に触って進めていってるんですけど、マルチな人は増えていても、こういうやり方をしてる人はあんまりいないんじゃないかな。

梅井:本当に独自なやり方な気がしていて。初めて制作したときに感動したのが、打ち込んでるときの作り方がすごい近いところ。例えば、グロッケンみたいな一般的には高音楽器とされているものを、MIDI上だと結構低音も出たりするから、割と下の方も容赦なく使ってた記憶があって、「えっ、近い作り方の人だ」って。それは純粋に嬉しかったですね。
私は実際の楽器だと出ない音域、できない技法もMIDI上ではできるから、それならではの良さがあると思っていて。だから一般的な規範みたいなものにとらわれずに、音色選びを容赦なくしていくって決めてるんですけど(笑)、彼女もそういう部分があるのかなって。
ーそれって°pbdbとして最初の2曲を出したときの制作ですか?
梅井:そうかな。でもその前にも何曲か試しに作ってたんですよ。
北村:それまで作り方で迷っていたというか、いろいろ試してみて結果的にDAWで2人で打ち込むスタイルに落ち着いたんです。それまではリズムマシンをMIDIケーブルでつないで、それぞれ打ち込んで、それを録音したりとか……。
梅井:エフェクターを使ったり。
北村:ギターを弾いたりもしたし。

梅井:2人のパートが明確に分かれてないし、何でもできるから、「どうやったらお互いの良さが出るのかな?」みたいなのは最初すごく迷って。でも今の作り方が見つかってからはスムーズですね。
北村:最初のシングルの2曲は今の制作スタイルになったらすぐできたよね。
梅井:うん。クラブに行った翌日にドラムンベースを作って。
―ちなみに、前日は何を観に行ってたんですか?
梅井:ZERO TOKYOにTomgggさんがDJで出演されてて。
北村:『GOLD DISC』っていうイベントで。ぷにぷに電機さんも見たし、水槽さんとか、結構EDMを爆音で聴きました。
梅井:一生分のEDMを聴いた気持ちになりました(笑)。
ーそれに影響を受けて、ある種衝動的に作ったと。
北村:クラブから朝の5時くらいに帰ってきて、寝て、起きて……。
梅井:すぐにパソコン開いて、やるかーって。あれいい思い出だな。
ーDAWのソフトは2人ともAbleton Live?
梅井:そうですね。蕗ちゃんがLogicからAbletonに切り替えたタイミングがあって、私も同じ時期にAbletonを買って。基本、蕗ちゃんの家で、一緒に同じ画面を見て作ってて、Abletonなら遠隔で作業することも可能なんですけど、ちゃんと予定を合わせて、実際に会って、相手が作ってる音を聴きながら交互に作るのが一番いいやり方なのかなって思ってます。すごくクリエイティブだし、聴いてて楽しいし、行き詰まることがほぼない。
北村:いつも気づいたら1時間経ってるもんね。どちらかが集中してるときは、もう1人は聴いてたり、本を読んだりしてるんですけど、気づいたら「あれ、1時間経ってね? ちょっと疲れたから交代しようか」みたいな感じでやってて。すごく面白い制作の仕方だなと思います。
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インスピレーション源は、ヒップホップから合唱曲までシームレス
ー°pbdbというユニット名はどうやって決めたんですか?
北村:ユニット名はお互いアイデアを出し合って、蕗=butterburの「b」と、梅=plumの「p」を使って、いろいろ並べたりとかしていく中で、「逆さまにしてみよう」みたいなアイデアも出てきて、決まっていきました。
梅井:誰も読めないけど(笑)。
北村:今回のEPの曲名に関しては、最近お香にハマってて、その香りの名前をつけてます。
ーだから1曲目が“#scent”なんですね。ちなみに、もともと音楽以外で2人に共通点とか共通の趣味はあったりしたんですか?
梅井:音楽以外か……うーん。
北村:私たち最初に会ったときはあんまり話さなかったよね。「どういう話をしたらいいんだろう?」って時期があって。
ーどうやって仲良くなったらいいのか、みたいな。
北村:はい。でも「音楽をしたら会話が止まることがないな」って、すごい思った記憶があります。だから、「音楽をすればいいんだ」って(笑)。今はお香を見に行ったり、一緒にお出かけすることもあるんですけど。
梅井:私もだし、たぶん蕗ちゃんもだと思うんですけど、普段聞き手のことが多いんですよ。だから1対1になったときに、あんまりガツガツ質問するタイプじゃなくて。なので、会ってすぐの頃は会話の間が長かった(笑)。

ーきっと音楽の会話は多いと思うんですけど、この1年くらいで2人でハマった音楽があれば教えてください。
北村:去年くらいに梅井ちゃんがDoechiiさんの動画を見せてくれて。
梅井:そう、Doechiiの「Tiny Desk Concert」。あれめっちゃかっこよかったな。
北村:音楽ももちろんかっこいいけど、ビジュアルとか、みんな制服でめっちゃぶちかましてるのとか、そこも楽しんでた。「この子可愛いよね」みたいな。
梅井:確かに。あれ一緒に聴いてた時期ぐらいはヒップホップづいてたよね。
北村:そうだね。“sparkling summer”も作ってたし。
梅井:Nonameとかも聴いたり、吉祥寺のdisk unionに一緒に行って、そのときにA Tribe Called QuestのLPを見つけて、Floating Pointsと一緒に買った記憶があります。
北村:あと合唱とかも一緒に聴いた記憶がある。“百年後”っていう合唱曲があって、その曲を高校時代に歌ったんですよ。
梅井:私も全く同じ曲目を高校で扱ってて。
北村:最後に「こだまする」っていう歌詞を繰り返して、トランスみたいになっていくんですよ(笑)。
梅井:どんどん音が重なって、(スティーヴ・)ライヒみたいな。
ーミニマル合唱なんだ(笑)。
梅井:すごい難曲で。ピアノも難しいし、合唱部分も難しい。私は高校の設立100周年の記念講演でその曲をやって、もうすごい印象的ですね。まさか卒業してからまた誰かとこの曲の話になるとは思ってなくて、すごく不思議でした。