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映画『ブゴニア』ラストの意味は? 音楽や演出の奥深さも語る座談会

2026.3.6

#MOVIE

映画『ブゴニア』がアツい。韓国の伝説的なカルト映画『地球を守れ!』のリメイク作品で、『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督と『ミッドサマー』のアリ・アスター、さらには『パラサイト 半地下の家族』の製作チームが名を連ねるという、奇跡の集結が実現した本作は、第98回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、脚色賞、作曲賞の計4部門にノミネートされ、先日の公開以降日本でもヒットを続けている。

物語は、陰謀論に取り憑かれた青年・テディ(ジェシー・プレモンス)が、「彼女は地球を滅ぼそうとするエイリアンだ」と信じ込み、巨大企業の敏腕CEO・ミシェル(エマ・ストーン)を誘拐、監禁するところから始まる。監禁される切れ者CEOと奇妙な誘拐犯による、会話がまったく噛み合わない予測不能な心理戦に加え、オーディションで大抜擢された新人エイダン・デルビスの演技も見どころだ。
そんな話題作を、3人の映画ライターが解説・考察をする。

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

『ブゴニア』の原作『地球を守れ!』との違いは?

─まずは、本作を観ての率直な感想はいかがでした?

竹島:ヨルゴス・ランティモス監督、相変わらずやってんなと思いました(笑)。ギリシャで撮っていた時代からだいぶマニアックな作風だなと思っていて、アメリカのメジャーシーンではもう少し通俗的な内容になるのかと思いきや、全くそうならないですよね。2026年の「第60回スーパーボウル」(※)のCMでもランティモス監督はエマ・ストーンとタッグを組んでいましたし、そちらでも作家性が炸裂してましたね。

※アメリカのプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」の優勝決定戦。2月の第2日曜日に開催され、全米視聴率が約40%にのぼるアメリカ最大のスポーツイベント

エマ・ストーン×ランティモス監督のタッグで作られた「第60回スーパーボウル」のCM

伊藤:私は『哀れなるものたち』(2023年)に苦手なグロテスクなシーンが多いことや、原作に書かれていた「船内で知性を得るプロセス」が簡略化されていたこともあって、個人的にはハマらなかったんです。でも『憐れみの3章』(2024年)は乾いたタッチや、作品内の3つのエピソードの中で同じ役者が別のキャラを演じているという構成の面白さもあって、面白く観られました。

また、今作で製作に入っているアリ・アスター監督の作品は残酷な表現のイメージがあり、今まで避けていました。ですが、『エディントンへようこそ』(2025年)を観た際に、その世界観に没入できたんです。それで今作も観てみたところ、2作品とも共通して「妄想や心理戦」が非常に興味深く描かれていると感じました。どちらも残酷なシーンが一瞬で終わってくれるので、私でもすごく楽しめたんです。音楽もとても興味深くて、ランティモス監督の良さはこういうところにもあるのかと気づかされました。

ヒナタカ:僕はシンプルにハラハラドキドキのエンタメ性があって、めちゃくちゃ面白かったです。観た後に知って驚いたのが、歪な設定や画作りなどに「ランティモス監督らしさ」が満ち満ちているのに、原作となる韓国映画が存在することでした。その『地球を守れ!』(※)は配信サービスになく、DVDもすでに廃盤となっていて見るのが難しいのが惜しいですよね。

※『地球を守れ!』:2003年公開の韓国のSFサスペンスコメディ映画。地球がエイリアンに侵略されていると信じ込む青年が、会社社長をエイリアンと断定し、誘拐・監禁して拷問する物語

竹島:僕は『ブゴニア』の後にDVDで見たのですが、明確に違いがありましたよ。たとえば、『ブゴニア』では陰謀論者の2人が男の従兄弟同士でしたが、『地球を守れ!』では男女のカップルで、誘拐される社長も男の人だったんです。さらに拷問シーンがかなりサディスティックだったり、それでいて直球にコメディっぽい部分もあり、かなりテイストが違っていました。『ブゴニア』はよりブラックに仕上げたというか、「ランティモス監督の意地の悪さを煮詰めたらこうなりました」みたいな感じがありましたね(笑)。

ヒナタカ:『哀れなるものたち』も原作がありますし、脚本を別の方が手がけることも多いのですが、それでもランティモスの色に染まるのがすごいと思いました。

強烈で極端な登場人物の魅力

─今作はどんなところに魅力を感じましたか?

ヒナタカ:主要キャラクターがみんなインパクトがありますよね。僕は特に誘拐犯の1人で、引きこもりの青年のドン(エイダン・デルビス)に対して、「絶対にいい子じゃん! 幸せになって!」って自分の子どもを思うような気持ちで観ていて。最後まで観ても、彼はもっともまともなキャラクターだと思いました。

左からドン(エイダン・デルビス)、テディ(ジェシー・プレモンス)

伊藤:私もドンがこの映画の中の良心であって、このピュアな印象は役者をオーディションで選んだからこそ持ち味が出たのかな、と思いました。

ヒナタカ:ドン役のエイダン・デルビスは自閉症スペクトラムの当事者でもあるんですよね。テディ役のジェシー・プレモンスと、ミシェル役のエマ・ストーンというスター俳優に対して、ただ2人に従うだけでなく、しっかりした自分の意見もある……という役柄が、俳優としての挑戦とシンクロしているように感じました。

伊藤:私はエマ・ストーンが、とにかくカッコイイということを言いたいですね。どんな表情もポーズも様になっていて、「今回のエマ・ストーンがダントツで素晴らしい!」と、友人におすすめしているところなんです。

ミシェル(エマ・ストーン)

伊藤:印象的なシーンといえば、ミシェルがテディから渡された服の襟に「SANDY G」と書いてあることを発見するところですね。そこで彼女は、それがテディのお母さんの名前だと気づいて、テディの正体がわかるという大事な場面。ここから一気に物語の展開が加速するので、ここからのミシェルが特に見どころです。

また、テディは感情がすごく顔に出るキャラクターなのでわかりやすい。ブラックなユーモアのある作品ですが、中でもコメディを背負っているのがこのテディを演じたジェシー・プレモンスだと思います。

(C)Yorgos Lanthimos

ランティモス監督作に共通するテーマ

ヒナタカ:今作の物語は陰謀論者との対峙ということで、最初は「陰謀論者なんて間違っているに決まっている」という目線で観ていたのですが、物語が進むにつれて、単純にどちらが正しい、間違っているという話ではないのだと思うようになりました。

ミシェルはCEOなので、社会的地位のある人として真っ当に見える時もあれば、言動が極端すぎるように感じる時もある。また、陰謀論者に対しても「そんなことあるわけない」と思って観ていたら、哀しい背景や事情があることもはっきり描かれている。こうした背景を映すことで、自分自身が無意識に偏見を持っていたということに気づかされました。

竹島:今作でも物語の主となっている「監禁」は、ランティモス監督がずっと扱ってきたテーマだと思うんですよ。『籠の中の乙女』(2009年)では子供たちが幽閉されてたし、『ロブスター』(2015年)ではホテルに送り込まれているし、『女王陛下のお気に入り』(2018年)『哀れなるものたち』でも同様でした。全部の作品で閉じ込められていて、そこから解放されるというのが通底していますし、今回はさらに最後ですべてが「反転」しますよね。そういう意味で、ランティモス監督の作品は点ではなく線で追うと、さらに面白い作家だと思います。

伊藤:ランティモス監督作品はキャラクターが「支配と服従」の関係になることが多いですし、今回は会話における心理戦がその面白さにつながっていましたね。「命令するか」「従うか」、終始どちらに傾くかが分からないドキドキ感こそがエンタメになっていました。

『ブゴニア』は脚本家のウィル・トレイシーがコロナ禍に部屋にこもって3週間で書き上げたそうですが、『エディントンへようこそ』もアリ・アスターがコロナ禍に脚本を執筆し、コロナ禍のアメリカの田舎町を舞台に、陰謀論や思い込みの激しさを描いた作品でしたね。

竹島:僕も『ブゴニア』と『エディントンへようこそ』は「見ている現実が同じようでいてそれぞれ違う」という皮肉も含めて、すごく似ていると思ったんですよ。『エディントンへようこそ』は、結局スマホを通してでしか世界を認識していなかったり、『ブゴニア』は面と向かっていても会話が噛み合わないことが映し出されています。

ヒナタカ:どちらも「自分が絶対に正しい」と信じて疑わない人たちの対峙の話で、だからこそ会話が噛み合わなくて、その先でカオスなことが起こるみたいな話ですよね。

竹島:エマ・ストーンが『エディントンへようこそ』で陰謀論者の元に去っていき、『ブゴニア』では陰謀論者に拉致されるって……もはや表裏の関係にも思えますよね。

https://youtu.be/oL6jZqExlIk?si=Uk3wLYAaOsO3l3A6

ランティモスとフェンドリックスの音楽タッグ

─ランティモス監督作品の魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

伊藤:場面とマッチした音楽が本当に魅力的ですよね。今回は特にタッグを組んだ作曲家のイェルスキン・フェンドリックスの才能が一番溢れ出ていて、アカデミー賞の作曲賞にノミネートされるのも納得しています。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/1JPinIOfLOeC1BPZhqEb7X?si=O2DGcYc-RHOPi7MG2mxqwQ

伊藤:そもそもランティモス監督は、フェンドリックスの2020年のデビューアルバム『Winterreise』を聴き、「変すぎて面白い」と感じてオファーをしたそうですが、信頼関係は作品を重ねるごとにどんどん強くなっていて、より任せている印象がありますね。

https://open.spotify.com/album/0tXhcyyThzSwPnXyoSuODi?si=UVOpBCN9QUOPHItM5lKHkw

伊藤:また、今作では、有名アーティストの楽曲に映画の場面に対するメッセージを込めているので、フェンドリックスの楽曲は彼の手法の自由度がこれまでより高くなった印象がありました。

例えば、Green Dayの大ヒット曲“Basket Case”が流れる電気ショックのシーン。この曲のミュージックビデオは精神病棟で撮影していて、「自分はパラノイド(被害妄想)か?」と歌っているため、とてもハマっているんです。

https://youtu.be/NUTGr5t3MoY?si=_iCgmQhZ_cX6DP5b

伊藤:また、ミシェルが車中で歌っていたチャペル・ローンの大ヒット曲“Good Luck, Babe!”はLGBTQ+のアンセムになっていて、自らの運命を否定しようとする人に対して「せいぜい頑張って」と皮肉をこめながら幸運を祈るという歌詞なので、物語の結末のヒントを与えてるんですよね。

https://youtu.be/U_Lz_MG35hM?si=jg_z-7JPhYzy-ox3

伊藤:このようにミシェルやテディ、それぞれの感情を代弁するように音楽が配置されているため、楽曲のことを知っているほど、場面の意味が深く伝わるんです。

さらにオリジナル曲では蜂の羽音のような響きをストリングスでしつこいほど表現するなど、フェンドリックスの個性が発揮されているのが素晴らしいですね。

そしてエンドロールに流れる、マレーネ・ディートリッヒが歌う世界的に有名な反戦歌“Where Have All the Flowers Gone(花はどこへ行った)”の歌詞は冒頭のナレーションにリンクしています。この歌詞の内容こそが『ブゴニア』の意図だと思いますし、キューブリック監督の『博士の異常な愛情』のラストを想起させる、オマージュ的な映像と曲の組み合わせ方も、なるほど! と思いました。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/1My4iKxOxqYkP3kuG8Xrbm?si=6c13e247964d4645

竹島:ランティモスって、音楽の使い方もそうで、「こんな場面でこんな曲、普通は使わないだろう」というところをあえて選びますよね。全体的に、あえて不快感を呼び起こすような、かなりエクストリームな演出になっている。でも僕にとっては、そのチューニングが完全に刺さっていて、これ以上いったら本当に不快になってしまうギリギリのラインを攻めている感じがします。

あと、オペラのような大きな音を、物語上では重要でないシーンでも大胆に流しますよね。その誇張された使い方が皮肉的でもあり、特有の意地の悪いユーモアを増幅する装置になっていると思うんです。ランティモス監督とフェンドリックスは、ポール・トーマス・アンダーソン監督とジョニー・グリーンウッド(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ワン・バトル・アフター・アナザー』ほか)のような、監督と作曲家の名タッグとして後世まで語られていくのではないでしょうか。

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