蓬莱竜太の新作舞台『シャイニングな女たち』は、見ないふりをしてきた違和感が、一瞬で日常をきしませる物語だ。
主人公・金田海は、他人のお別れの会に通い続けるという奇妙な習慣を持つ女性。ある日、大学時代に所属していた女子フットサル部の後輩のお別れの会に自分だけ呼ばれていなかったことをきっかけに、彼女の世界の輪郭が静かに崩れはじめる。そこへ、SNSが増幅させる承認欲求や孤独、女性同士のねじれた友情が絡み合い、物語は思わぬ方向へ進んでいく。
この複雑な今を描く舞台で、蓬莱作品にいつか挑みたいと願ってきた吉高由里子が初出演を果たす。生きづらさがかたちを変えながら押し寄せる時代に、二人はこの物語をどう受け止めたのか。作品の核にある人間らしさに触れながら、率直に語り合ってもらった。
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「蓬莱作品の魅力は、人がちゃんと傷つくところ。この世界に慣れきってしまっている自分にハッとさせられる」(吉高)
—蓬莱作品へのご出演は初となりますが、以前からその世界に挑みたいと強く思われていたそうですね。
吉高:そうなんです。夢が叶うことって今までの人生であまり経験したことがないので、嬉しいと同時に恐ろしさも感じています。
—吉高さんにとって蓬莱作品の魅力とは?
吉高:人がちゃんと傷つくところですかね。見終わった後、この世界に慣れきってしまっている自分にハッとさせられるというか。すごく刺激をもらえます。

1988年7月22日生まれ、東京都出身。2006年、映画『紀子の食卓』でスクリーンデビューし、第28回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。2014年には連続テレビ小説『花子とアン』でヒロイン村岡花子を演じた。2024年にはNHK大河ドラマ『光る君へ』で紫式部/まひろを演じて話題に。
蓬莱:そんなことを言っていただけるなんて嬉しいです。吉高さんを主演に迎えられるのはとても光栄ですし、ワクワクしています。
—吉高さん演じる金田海の、他人のお別れの会にひっそりと足を運び、ビュッフェを味わうという人物像は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
蓬莱:知人から聞いた話がきっかけなんです。他人の告別式やお別れの会に参加する人が実際にいるらしくて。他人のお別れの会に参列し続けていたら、ある日ふいに、それが自分の知り合いのものだったとしたらどうなるんだろう。そんな問いが出発点になりました。

1976年1月7日生まれ、兵庫県出身。1999年に劇団モダンタイマーズの旗揚げに参加。以降、全公演の作・演出を務める。2019年に劇団公演『ビューティフルワールド』にて第27回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。映画やドラマなどの映像作品での評価も高い。
吉高:え! 実際にそういう方がいらっしゃるんですね。それは驚き(笑)。
高校生の頃、同級生が亡くなってしまったことがあって。数回話したことがある程度の間柄だったんですが、その子のお葬式に参列して、魂が抜け落ちた肉体と対峙したときに、なんだか泣けてきたんですよ。今回演じる金田海のキャラクターを聞いた時に、その時の奇妙な感覚を思い出しました。蓬莱さんの作品って忘れ去っていたことを急に思い出させてくるんですよ。後ろめたくなることもあります。意図はしていないんでしょうけど、無意識の暴力のようなものを感じます。
—普段あえて意識しないようにしていた感情に向き合わせる力がありますよね。
蓬莱:無意識の暴力。なるほど。吉高さんって、非常に素直な演技をされる方だという印象があって。そういった魅力を放つ人に、無意識に人に迷惑をかけてしまう人物を演じてもらいたいという気持ちはありました。それこそ本人はよかれと思っているのに、なぜだか発露してしまう暴力みたいな。ある人にとってはいい人だけど、また別の人にとっては余計なことをしてくる人のような存在。
吉高:人に迷惑をかけそうな女優代表ってことなのかな(笑)。
蓬莱:そんなわけないじゃないですか(笑)。吉高さんのキャラクターをそのまま役に投影するのではなく、普段とは違う一面を見てみたいんです。
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女性は常に戦いを強いられている。だからこそ生まれるドラマ。
—蓬莱さんは本作に寄せて、「女性は否応なく闘わなければならないものが多いと常々感じている」「吉高由里子さんには闘いから逃げない強さとしなやかな明るさを勝手に感じています」とコメントされています。具体的に、女性はどのような戦いを強いられていると感じていらっしゃいますか?
蓬莱:まずは、男性社会との戦いですよね。女性は常に機嫌良くいなければならないと言われたり、美醜のことで差別されたり。そういった環境の中で自分の居場所やアイデンティティを見つけないといけない。そういった社会に対して、女性たちは様々な方法で戦っていらっしゃるのではと感じています。吉高さんは戦いからも逃げずに、かといってかたくなりすぎずしなやかで。そこが大きな魅力ですよね。
吉高:のらりくらりやっているやつだと思われているのかな(笑)。わかりやすい男尊女卑を目の当たりにしている世代ではないと感じていますが、女性として戦っている実感はやっぱりあります。男性も女性とは異なる戦いを強いられていると思うので、男女のどっちが恵まれているのかはわからないですけどね。難しいですね。人生後半は男だったら楽しいのかなと感じる反面、夫が亡くなってからの女性でキラキラしている方もいますし。

蓬莱:母親が三姉妹で、僕が子どもの頃はよく集まっていたんです。延々と会話はしているんだけど、お互いの話は全く聞いていない。その凄まじい勢いみたいなのは、女性ならではじゃないですか?
—友人同士の会話でもよくありますよね。みんな好きなことばかり話している。
吉高:たしかに、女性同士の友情って独特で。一種の恋愛関係のような、もっと言えば依存状態のようですよね。女友達との関係性の中で、今の自分の立ち位置を確かめるみたいなこともありますし。そうやって、友情を確かめようとすればするほどどんどん関係がいびつになっていってしまいますよね。
—本作でも自分が友情だと感じていたものが、そうではなかったのかもしれないというところから物語が展開していきます。
吉高:そうそう。「あれ、私あの子と友達だったはずなのに、お別れの会に呼ばれていない」という衝撃から始まります。とくにまだ精神年齢が低いときは、仲良くしている友人を自分の承認欲求を満たすために使ってしまうこともあるから、友情って本当難しいですよね。

—本作ではさらにSNSがからんできますね。
蓬莱:SNSって、それこそ承認欲求を満たすツールとしては優れていますよね。現実の自分とは異なる自分を作り出せるから、依存性も高い。現代社会を描くなら、皆が手放さなくなっているSNSを盛り込みたかったし、SNSがきっかけで生まれてしまった苦しみに対してどう抗うのか、そして向き合っていくのかというところも盛り込むつもりです。
吉高:自分の学生時代にSNSがなくて良かったなぁってつくづく思いますね。mixiはありましたけど、多感な時にXやInstagramがあったらどうなっていたんだろうってぞっとします。